ショートショート×トールトール・ラバー【19】 | 虹色金魚熱中症

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拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

決意は固く
 

ショートショート×トールトール・ラバー【19
 

 

 珍しくも友人面した光圀は 「どしたの、お前」 と肩を叩いた。 「狂った蛙みたいだぞ」 と添えた言葉から察するによき友人を演じたいわけではないらしい。

 
 「狂った蛙、見たことあんのかよ?」
 「立ったと思ったら座って、顔上げたと思ったら、うなだれて。ヒョッコヒョコ。な、こんなんだろ?」
 

 珍しく戸川は同意せず、手にした文庫を真剣に読みふけっている。

 

 「珍し。漫画じゃないんだ」

 

 無関心を決め込んでいる戸川の手元を覗き込んだ光圀が肩をすくめてみせた。手にしている文庫のオビには 「珍獣の生命力をこれでもかとひもとく!」 なる文字がけばけばしい原色で縁取られている。どんな内容だよと光圀と同じく覗き込むも、笑えるオビからは想像できないほど細かい文字の羅列で、すぐに首を引っ込めた。

 いったいどんなヤツが文庫本一冊分になるまでそれを纏め上げたのか。そんな本が出回っている限り、日本は平和だ。それを好んで読みふけている戸川よりもよっぽど俺のほうが頭を使っている。紐解きたい謎が肥大して頭がパンクしそうなくらいだ。戸川なんぞにかまってられるか。 「面白いの? それ」 と、いまだ戸川に突っ込む光圀を慎重に観察した。
 

 光圀はクォーターだ。祖母がイギリス人だったらしい。茶髪に見える薄い髪色も光加減でダークグレーに見える目もその祖母から受け継いだものだ。目つきの悪さは父親譲りのようだが、それも言い換えるなら、切れ長でりりしいといえる。
 実際、彼はわりともてる。多感な少年少女時期に 「クォーター」 というブランドめいた響きがそうさせるんだと、光圀が肩をすくめて言ったことがある。
 

 (そんだけじゃねーつの)
 

 長身で少し不良っぽく見える彼に憧れる彼女らにそこまでの計算はないだろう。 「アクセサリーみたいなもんだって」 と笑う光圀はドラマの主人公みたいで、俺だってかっこいいと思ったんだ。もちろん言わないけど。
 

 だから、光圀がもてることなんて知っていたんだ。お腹一杯、充分なほど。
 

 (でもなぁ……)
 

 桐野さんは 「飯田君って好きな人いるのかな」 と俺に聞いた。その意味するところは分かっている。だいたい、何度そのことを俺は女子に尋ねられただろう。俺は光圀と仲がいい。もう一人の戸川よりも話しやすい。それで結局情報源にされるのだ。
 

 (でもまさか、桐野さんまで)
 

 「あんまりだー!」 と叫びながら 「いや、俺には関係ないし」 と首をふり 「光圀は全然優しくないヤツなんだ!」 と拳を握って 「でも悪いやつじゃない」 と手を開く。そんなことの繰り返し。頭の中で全て処理した気になっていたんだけど、どうやら動作にはみ出ていたらしい。
 

 (でもホントにさ……こいつと付き合ったってさぁ)
 

 光圀はいいやつだ。俺を若干というか大半、おもちゃのように扱うけれど、悪いやつじゃない。本当に、本当に、大変なときは手を差し伸べてくれるだろうし (たぶん) 、不良じみているのは外見だけでいたってまともだ (きっと)。 ――だが。人には欠点というものがあるのだ。
 

 (光圀は女子に優しくない)
 

 いったい、何人の女子が彼にそう告げ、去っていっただろうか。光圀は告白したことがない。常にされる側だけど、振ったこともないのだ。いつも振られるほう。振られることに関しては、ひょっとしなくても俺の上を行く。

 
 (そりゃ、俺は付き合ったこともないけどね!)
 

 桐野さんが告白したら、きっと光圀は受け入れる。光圀は珍しく桐野さんに優しい気がするし、だいたいコイツはくるもの拒まず主義なのだ。
 

 (だけど、きっと泣くのは彼女だ)
 

 光圀が桐野さんに優しいといったって、それは並みの男子の対応であって、付き合ってしまえば、今までの彼女同様にきっと素っ気無い。普通、付き合えばいちゃいちゃしたいと思うし、好きなら一緒にいたいだろう。 (俺はしたいし、一緒にいたい) だけど光圀の場合、付き合っても態度は変わらないし、彼女との約束を優先したりも一切ない。まるで友達が一人増えたくらいの感覚。

 二人でファストフード店にいたときだったが、バーガーをかじっている最中に乱入してきた彼女に 「私と池内君のどっちが大事なのよぉ!」 と泣き叫ばれたことがある。あれはまいった。俺はホモでは決してないが、暫くそんなうわさが立ったくらいだ。
 

 桐野さんがあんな風に取り乱して叫ぶ姿は想像できないけれど、そんな目にだけはあわせたくないのだ。じっと見つめる俺の視線に光圀は 「キモイ、見んな」 と言ってのけ、俺は決意を固めるのだった。
 

 
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