ショートショート×トールトール・ラバー【18】 | 虹色金魚熱中症

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ショートショート×トールトール・ラバー【18
 

 
 珍しくも冴子は 「飯田君」 に興味を持った。もちろん恋多き彼女だ。男子に興味を持つことは珍しくもない。けれど興味の対象が酷くレアなのだ。
 池内君に聞くところによると、飯田君には彼女がいない。その上、好きな子も見当たらない。彼はまったくもって完璧なるフリーなのだ。それが驚異的に珍しい。そっとミチと目配せした。

 
 「これってアタリ?」
 「それともハズレ?」
 

 言葉もなくお互いに質問を飛ばし合いながら 「うーん」 と唸って空を見上げた。秋に入って体育は何ゆえかの持久走である。このセレクトはいただけないものの、真夏に持久走なんて考えられないから、これは検討に検討を重ねた上で選ばれた結果なのかもしれない。

 
 (にしても……寒いなぁ)

 

 ぼんやり空を見上げると、羊を思わせる雲が点々と薄く広がっていた。秋の空。だけど風が妙に冷たくて、砂塵を飛ばしながら吹き抜けた風にミチは首をすくめた。

 

 「寒い!」

 

 秋になったばかりのはずが、先週末から気温が急降下してしまっている。吐く息も白く、黄色のイチョウもどこか場違いのように遠慮がちにたっていた。

 寒い中でぶるぶる震える女子は授業をまじめに受けていない証で、私もミチもその仲間だ。空を仰ぐ余裕をもってテレテレと歩いている。かじかむ手に息を吹くと魔法みたいな白い息が手の周りをしっとりと温めた。
 その前をバックスタイルで歩く冴子は形のいい口をにいっとあげた。少しつりあがりぎみの冴子の目がきらめいて猫のようだ。恋に燃える彼女にはこのくらいの気温なんて屁でもない。

 
 「あの一匹狼的なストイックな感じがいいの」
 

 一匹狼がどうストイックなのかはよく分からないが、曖昧に微笑み返した。ちょっと顔が引きつったけれど、寒さのせいにしてしまおう。そんな言い訳まで考えたのにまったく必要がないみたいで、冴子の目は私たちなんかを見てなかった。うっとりとした目の先で、想像の飯田君でも浮かべているのだろう。
 

 「でも珍しいよね」
 

 架空のかなたに飛んでいる冴子を見守りながらそっとミチが呟く。

 
 「誰のものでもない人、好きになるのってさ……知ってる限り初めてじゃない?」
 「うん。あ……教育実習生もいたよね」
 「あれは例外だよぉ。いっときの出会いでしょ。くっつくわけがないから」
 

 だよね、と頷きながら思いつく。冴子は誰かのものが好きだというより 「手に入りにくいもの」 が好きなのかもしれない。そこに尊い何かが見えるのだろう。

 自分がどれだけ要領が悪いのか知っているけれど、冴子もそうなのかもしれない。ただ臆病者でないぶん、冴子はアクティブにその先に突っ走る。そして玉砕しても立ち上がるのだ。
 

 (私は……私には出来ない)
 

 「これが 『真実の愛』 だといいねぇ」
 

 のんびりとミチが言う。誰の邪魔もしないのなら、心おきなく応援できる。壊れて、作って、泣いて、それでも恋する。挫けずチャンスを掴もうとする冴子がこれ以上報われないのは、少し悲しい。めげない冴子が、いつか立ち上がれなくなってしまうのではと思うと胸が痛むのだ。
 

 「ねぇ、透」
 「うん?」
 「飯田君ってわりと頻繁に彼女いたよね」
 「うん」
 「冴子、ストイックの意味分かってないよね」
 「うん。たぶん使ってみたかったんだと思う」
 

 小さく笑いあう二人に冴子が 「何か言ったぁ?」 と振り向いた。唯我独尊ぎみの姫君はまだまだめげる兆候すらなかった。
 

 
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