彼の館に在る。常に書生を諭して曰く。大丈夫古人の書を読み。古人の学を講す。活眼を開いて之を研究せさるへからず。彼の所謂俗学腐儒の徒は。徒らに先人の言に。墨守し。拘泥し。美醜共もに之を学ばんと勉め。猶ほ土匣の規矩に於けるが如し。是を以て見識卑陋。狭に非ざれば迂。浅にあらざれば拙。世用に益なく。天下に要なし。学者寧ろ。機務を知るべし。何ぞ生きて字書たるに忍びんや。要する所は。古書に考へ。聖言に証して。自から闡啓するに在り。且つ夫れ章句是れ勉とめ。摘字是れ調ぶるが如きは。繊巧彫虫の戯。厪かに腐儒にして。終はらんのみ。倒底天下に名を為す能はざるべし。其の学に対する彼が意見は斯くの如し。
(「雲井龍雄」 緑亭主人)