父の日あたりまで

(…と思ってたけど

6月いっぱいまで延びそうですw)、

毎週日曜日公開を目標に

森下教授の話を綴っていきます^^

悩みや葛藤を交えつつ、

親ばかっぷりを露呈する予定(笑)

 

 

今回も長文です(^▽^;)

どうか、無理のない範囲で

お付き合いくださいっ(滝汗)

 

 

 

 

 

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黄藤くんの職場の困った後輩

高杉氏シリーズにたびたび登場する

経済学のスペシャリスト

森下教授視点のお話。

 

雑誌で紹介されるたびに

次男との闘病生活も紹介され

愛妻家でイクメンと

奉られる森下教授ですが、

今回は長男との生活をベースに

闘病生活を振り返ってもらいます。

 

(☆第1話第2話第3話

第4話第5話第6話はコチラです)

 

 

今回は第7話。

4人暮らしが始まってから、約1年。

家族と距離を置き始めた長男くんが

家出をしてしまいました。

 

 

 

 

 

******************

 

 

オリキャラ妄想

「もうひとつの軌跡 第7話」

 

 

妻の部屋へ毎晩通うように
なってからひと月後、
実に8年ぶりに身体を重ねた。
闘病生活で疲れた妻に

行為を強いる事が憚られていたが、

妻は妻で、加齢による衰えで
内心引け目を感じて言えなかったらしい。
感極まり涙をうっすらと浮かべる姿に
愛おしさがこみ上げた俺は
行為が終わったあとも抱き合い、
互いの中で募らせた寂しさを解かすべく
肌を触れ合わせた。


「ふと思ったんだが。
…賢一は、性格も
麗奈さんと似てるのかな」
「そうね…。賢吾くんと私の
半々を受け継いでる気がするけど。
あの口調とか、

思い切り賢吾くんじゃない」
「え!アイツの前では気を付けてンのに」
「そう言うけど。渉くんと飲んで酔っ払うと
賢一の前でもその口調よ」
「げ!嘘だろ…」
長男の言葉遣いに関しては
脇に置いておくとして。
「俺ももう少し、
賢一を気に掛ける事にするよ」
「いつもありがとう、賢吾くん。
私も気を付けるわ…」

その後も半月に一度は、
肌を重ねたのだった。





(もし麗奈さんの
性格と似ているとすれば、
ケンちゃんも声に出せないだけで、
悩んでいる事があるのかもしれない)

次男の体調不良のため

ひとりで長男の運動会を観たあと、
この年度から勤め始めた大学へ。
ここには自分専用の
研究室が設けられていて、

存分に研究に取り組めるが、
運動会の代休に合わせて

明日半休を取るため、

この日は目下の課題である

生徒のレポートの添削に追われていた。
 

きりがついたところで、

残りは明日の午前中へと回す。
コーヒーを飲みながら
長男の気持ちに思いを馳せていると
妻からの着信が入った。
「賢吾くんどうしよう!」
「?」
普段の落ち着いた妻からは
想像もつかない、
焦った様子が伝わる。

「賢一が、出て行っちゃった…!」
「なんだって!?」



その後の説明によると、

俺が運動会の応援に出掛けたあと

次男は二度寝をして回復。
長男が昼に帰宅する頃には
けろりとして遊んでいたという。
それを見た長男が、
朝仮病を使っただろうと

詰め寄った事から口論に発展し…。

「ビョーキじゃない兄ちゃんに、
ぼくの気持ちがわかるか!」
という次男の言葉に、ついに切れたらしい。

「お前こそ、俺の気持ちなんて
わかんねえくせに!
お前の病気のせいで、
父さんも母さんも
俺をほったらかしなんだぞ!」
そう叫んで昼食も摂らずに
部屋にこもってしまう。
妻がノックしても返事がないため
昼食を部屋の前に置いて様子を見る事に。

夕方、数度目の様子見に行った際

部屋のドアを開けると窓が開いた状態で、

もぬけの殻だった――との事だった。


「賢一……。

やっぱり、沢山我慢していたんだわ。
あんな悲しい事を言わせてしまって」
「それにしても、
避難用の縄梯子で抜け出すなんて。
賢一、本当運動神経いいなあ」
「のん気に関心してる
場合じゃないでしょ!?
健児に留守番させて、町内の
思い当たる場所を回ってみたけど
どこにもいなくて……」
「ああ。賢一なら町内にはいないよ」
「え?」
自分の時計を見ながら、
おそらく『ひだまりハウス』に
いるはずだと伝える。

「麗奈さんの話を聞きながら、
GPSの移動履歴を確認していたんだ」
「…GPS!!?」
「経路から推測すると、
バスを使って向かったはず。
かれこれ15分くらい
そこに留まっているから、
『ひだまりハウス』に連絡してみるよ」
「賢吾くんってば、いつの間に
そんなものを買って……。
あ!『ひだまりハウス』からだわ」

一旦通話を終え、手早く

片付けていると、再び妻から着信。
『ひだまりハウス』から妻へ
長男を保護しているという
連絡が入ったとの事だった。
「GPSの話は、後にしましょう。
賢一の引取りをお願いね」
「ああ。任せて」

妻との通話のあと、
家族写真の一枚もない
殺風景なデスクに置かれた、
金色のくす玉を見る。
3年前、クリスマスプレゼントにと、

長男が俺に作ってくれたものだ。

(俺の。愛情不足だったんだろうか)
妻の前では吞気な男を

気取ってみたものの、

胸が苦しくてたまらなかった。

長男には俺なりに、母親が
傍にいない寂しさが紛れるよう、
時には特別扱いもしながら
愛情を注いできたつもりだ。
だが俺自身、親からの愛情を知らないから
何かを間違えていたのかもしれない…。

(兎にも角にも。
まずは迎えに行かねえと。)
颯爽と車に乗り込み、
『ひだまりハウス』へと向かった。




『ひだまりハウス』へ到着すると、
成人を迎え精悍さに磨きのかかった
ミツキ先生が出迎えてくれる。

「ああミツキ先生!
賢一を保護してくださったと
妻から聞きました。
ありがとうございます!」
「ちょうどここのバイトを終えて
雑木林の遊歩道を歩いていたら、
たまたま賢一くんが中年の男に
腕を掴まれていたのを発見したので。
…警察に突き出す前に少しばかり、
男を懲らしめておきました」
「何とお礼を言ったらいいのか…。
賢一が無事で、本当に良かった……」

 

事態は予想以上に深刻だったようだ。
たまたま、ある理由から腕の立つ
ミツキ先生がいたおかげで
何もなかったものの、
場合によってはひどい目に
遭わされたはず。


「賢一くんは、多目的室で所長と

一緒に待っています。こちらへどうぞ」
心の底から安堵し、
案内された多目的室へ入ると、
長男は学校の体操服姿のまま
椅子の上に膝を抱いて座っていた。

「お越しいただき
ありがとうございます。森下さん」
「とんでもない!
こちらこそ、息子を保護して頂き
ありがとうございます」
深々頭を下げると、
この機会に長男と腹を割って
話し合ってみてはと提案される。
「賢一くんにも相談したところ、
私と黄藤が一緒なら
話すと言っていましたので」
「はい!ぜひお願いします」

「…賢一。大丈夫か?
怖い思いしたよな…」
「………。」
頑なに口を閉ざす長男の
向かいの席に着いて待っていると、
所長に呼ばれてミツキ先生が入室。
所長に家を出た理由を尋ねられ、
ようやく口を開いた長男は……。



「俺は。いらない子なんだ」
「―――――!?」
予期せぬ言葉に、息が止まる。

「健児が家に帰って来たし、

俺なんていても邪魔だと思う」
「ケンちゃんは、
どうしてそう思うのかな?」
静かな落ち着いた声で、所長が尋ねる。
「だって。父さんも母さんも
俺だけのけ者にしてる」
「そんな!父さんは賢一を
のけ者にした事なんて一度も…」
「嘘つき!
健児と3人で写ってる雑誌を
本屋で見たんだからな…!」
長男は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「まさか、父さんが
取材を受けた本を…。」
「3人には“きずな”が

あるんだって、健児が言ってた!

父さんだって、

俺を雑誌に載せたくないって

言ってたじゃねーか!!!」

(そういえば。
賢一の様子が変わったのは
健児と本屋に行ってからだった)
それまで次男の自慢を聞いても

あっさりとした反応だったのが、

目に見えて元気がなくなった事を思い出す。

表紙になっているわけでもない
俺の記事を長男が探し当てた
…というよりは、次男がわざわざ
見せたと考えるのが妥当だろう。

「違うよ。違うんだ賢一…」
「違わねえよ!
夜だって、父さんはいつも
1階の母さんの部屋に行ってる!
俺をのけ者にして、
健児と3人で仲良く寝てるんだッ」
(…いや。父さんはただ、
母さんと仲良くしてるだけで…)
とてもじゃないが、息子相手に
そんな生々しい真相を言えず。
返事に困っていると、
その態度を見た長男は
自分の推察を認めたと思ったらしい。
溢れんばかりの涙を目に溜め
睨みつける。

「父さんの裏切り者!
俺の事、大好きって言ってたのに…!」
「嘘じゃないよ!
父さんは本当に賢一を…」
「所長先生っ!
俺を、ここに住ませてください!」
長男は、俺の話を遮り所長に懇願する。
「俺、学校やめて、
お仕事沢山しますから!」
「賢一。所長先生もミツキ先生も
ここには住んでない…」
「だったら公園に住むもん!

もう、健児のワガママには

ウンザリなんだよ!」
 

興奮状態の長男は、
涙をぼろぼろと流しながら
悲痛の叫びをあげる。
「あんな家嫌いだ…。
健児に優しい母さんも嫌いだ。
俺を裏切った父さんも!
 

大…ッッ嫌いだァァァッ!!!!」


机に突っ伏し、声をあげて泣く長男に
俺は何も言えなかった。
これまで長男がしてきた
我慢を慮ると……などという、
利他的な理由ではなく。

(ケンちゃんに、
“大嫌い”って言われた……)
しかも俺に対する嫌悪感だけ

ひと際大きかったような…。

 

妻に一度振られたとき以上の
ショックに見舞われ、眩暈を覚える。
(どうすりゃいいんだ。

相手が女なら、優しい言葉を添えて

キスでもすれば機嫌を取れるのに)

俺はこれまで…数々の交渉を
乗り越えてきた。
プライベートも然り、
相手を翻弄する事はあれど
自分が翻弄される事など

あるはずがなく。

なのに相手が我が息子となると、

これ程にも成す術がなくなるとは……。



そんな、取り付く島もない状況のなか
声を発したのは。

「――じゃあ賢一、俺の家においでよ」
「!」
これには長男も驚いたらしく
ミツキ先生を見る。
「いまは実家暮らしだけど、
賢一が一緒に住んでくれるなら
アパートでも借りて、実家を出るよ。

そのぶんバイトを増やさないと
いけないから、賢一にも家のお手伝いを

頑張ってもらわないといけないけど」
「え!?先生の家族は……」
「まあ、大学卒業したら
家を出る予定だからね。
それが1・2年早まったってどうって事ない」
長男の質問に、笑って返答したあと。

「ただ、…その前に。
お父さんの話を、最後まで聞こうな」
「!」
長男は一瞬俺を見るが、
すぐに目を伏せる。

「いまはな、賢一とお父さんが
“話し合う”時間なんだ。
賢一の気持ちを、お父さんは
最後まで聞いてくれただろ?

今度は賢一が

お父さんの話を聞いてあげないと」
「話っていっても。俺は…」
「うん。納得できないかもしれないね。
―――そのときは本当に、
俺のところへおいで」
「…ほんとに?いいの?」
「でも、それを決める前に
話だけは“聞く”んだぞ」
「聞く…だけ?」
「うん。聞き終わったあと、
それでも賢一が家を出たいのなら、
そのまま俺の子になればいい」
すいぶん絵空事のような話だが、
少なくとも話を“聞く”気に
させる効果はあったようだ。

「…うん。わかった」
ミツキ先生に返事をしたあと、
長男は俺の方を向いた。



「賢一。」
「っ」
「健児が退院してから、我儘に
たくさん付き合わせてしまって、
…本当にごめん。
写真の事も、悲しい思いをさせて
申し訳ないと思ってる」

何故次男が“家族”から

長男を省いたのか考えたが、

当時入院中だった次男にとっては、

俺が説明した“家族”の中に

長男が含まれて

いなかったのかもしれないが。

そういった背景から鑑みたとしても、

次男の我儘は度を越えている。
写真の件も、次男の悪意を感じた。

だが…。
もし俺が、長男のみ撮影させなかった

理由を事前に伝えていれば、
長男は次男の言葉を鵜呑みに

しなかったかもしれない。

少なくともひとり抱え込み、

こんなに苦しむ事はなかっただろう。



「父さんが3人で撮影をしたのは
…賢一を守りたかったんだよ」
「俺を。…まもる?」
長男の問いに、深く頷く。
「ただでさえ世間に
顔を晒す事は、危険だらけだ。
特に賢一は、可愛いから。
本やインターネットだけじゃなく、
取材に来る人とか、身の周りにいる

大人達からも狙われるんじゃないかって
不安だった。」
 

 

「………。」
先ほど攫われかけた事もあり、
多少は危険性が伝わったのか。
長男は身震いして、
自身の腕を抱き締める。

「父さんの想像を押し付けて、
賢一にまで不安な思いを

させたくなくて黙っていたけど…。
こんなに悲しい思いを
させるくらいなら、ちゃんと

説明するべきだった。ごめん。

…でも、これだけは信じてほしい。

父さんは、賢一の事が大好きだ」
 

「………。」
長男は腕を抱いたまま
歩み寄る事はないが、
視線だけはこちらに向けてくれた。
 

 

 

「賢一の名前には、
『父さんの、一番大切な子』っていう

意味を込めたんだ」
最近、学校の課題で

自分が生まれたときの事を調べて

いた事を思い出し、名前の由来を話す。

「お腹の子が男の子なら

父さんの『賢』の字を入れようって

母さんと決めてたから、
性別がわかったとき色々考えたよ。
…ケンタとかケンショウ、ケンセイとか。
でもケンイチは、候補になかった。
賢吾の長男だから…っていう
理由でつけるのは、なんとなく
雑な気がしてしまってね」

次男の名前は妻が決めたが、
長男のときは俺が決めた。
候補からあえて外していた
ケンイチという名前にしたのは…。

「でも、実際生まれてきた子を見たら
すごく小さくて可愛くて!

父さんは心から感動したんだ」
「生まれたての写真、
サルみたいだったけど…」
「父さんにとっては、
宇宙一可愛い天使さ!
だから役所に届け出を出すとき、

賢一の『一』っていう字に
『一番大切な子』っていう意味を込めた。

――今だって、その気持ちは変わらない。
父さんは、賢一の事が
一番可愛くて大好きだよ」


「じゃあ…。
なんで、母さんの部屋に行くの」
「母さんと2人で、その日の
出来事を話しているだけだよ。

健児はいない。」
長男の不安を、丁寧に紐解いていく。

「賢一は優しいから、
いっぱい我慢してくれたよな…。
でもこれからは、何があっても
父さんが賢一の味方だ。
健児が我儘言ったら、
父さんがぶん殴ってやる。
だから…。
うちに帰って来てくれないか。」
長男に向けて、手を差し出す。
「お願いだ。賢一がいなくなったら、
父さんすごく悲しいよ…」
懸命に訴えると、長男は
気まずそうに口を開く。


「別に…健児を殴らなくていいよ。」
「いや、そうはいっても…」
「俺、家に帰るからさ」
言葉少なではあるが、
なんとか家に連れて帰る事が出来た。




帰宅する途中ファミレスに立ち寄り
テイクアウトの商品を購入して帰宅。

「母さん…。
勝手に出て行って、ごめんなさい」
玄関に出迎える妻に、開口一番に謝る。
「いいのよ!
無事に帰って来てくれたんだから。
賢一…怪我はない?
酷い事されなくて、本当に良かった…!」
妻は瞳を潤ませ、
長男の頭を何度も撫でる。



「麗奈さん。…健児は?」
「リビングにいるわ。
…やっぱり朝の咳は仮病だったらしくて。
お兄ちゃんが帰って来たら謝りなさいって
言って聞かせたんだけど…」

先に靴を脱いで、
手洗いをしたあとリビングへ。
次男はソファで寛ぎ
携帯ゲーム機で遊んでいたが。
「…あ!途中で取らないでよッ」
「健児。お前に聞きたい事がある」
ソファの前に屈んで肩を掴み、
次男の身体を自分へと向けた。

「お前。朝ひどい咳を
していたのは、嘘だったのか」
「…ッ!」
静かな問いかけに、
一瞬身を強張らせたあと。

「だって!
小学校の運動会なんて
大嫌いだもん!」
小さな身体に溜め込んでいた
涙と不満を吐き出した。



「ぼくたち3人には、
“きずな”があるんだぞ!
3人でにゅーいんだって、
しゅじゅつだって頑張ったんだ!
他の家族なんていらない!
賢一なんて、このまま

どっか行っちゃえばよかったのに…!」
「!」
立ち上がり、
後から入って来た長男を睨みつける。

「健児ッ!
お兄ちゃんに何て事を言うの!
お兄ちゃんだって、たくさんたくさん、
頑張ってくれたのよ!?」
「兄ちゃんには、
元気な体があるんだから
いいじゃないか!」
妻が𠮟りつけるも、
興奮状態にあるため聞く耳を持たない。

「お出かけだって運動だって、
なんでも出来る!
『ひだまりハウス』の先生もいるんだから、

ぼくのおとうさんおかあさんまで
取らないでよ!」
「…健児!」
「ぼくだって、
小学校の運動会に出たかった!
元気な体に、
生まれたかったああああああ!」



(そうだよな。
健児は、何の罪もないんだから)
心の底からの叫びを聞いて、

次男に同情した。

小さい身体に何度も針を刺し、
メスを入れて。
そこまでして乗り越えたところで、
出来る事は健常者と比べて
遥かに少ないのだ。
 

(穏便に。寄り添うように
話さねえとな……。)
そう言い聞かせて、口を開く。
「健児の気持ちは、よくわかったよ」
「おとうさんっ…」
期待に目を輝かせた
次男に向かって、…俺は。



「―――痛ッ!」
「どんな理由があっても、お前が

お兄ちゃんにした事は悪い事だ。」

小さな頭を、げんこつで殴った。

 

「父さんッ!何殴ってんだよ!
健児が怪我したら…」
「賢一も、健児が悪さしたら
げんこつを食らわせて教えてやれ。
病気だからって何をしても許されるほど、

世の中甘くないんだ…!」
慌てて駆け寄る長男に
言い放ったあと。




―――『そもそもコイツのせいで、
ケンちゃんが悲しい思いをしたんだぞ。』

次の言葉が脳に浮かんだが、
咄嗟に口を閉ざす。
(この言葉……。
まるで俺が、賢一を贔屓している
みたいじゃないか。)
10年以上前、
結婚報告のため最後に会ったときの
ニートの兄貴に甲斐甲斐しく
世話を焼く母親の姿が湧き出て戦慄する。



「いいか健児?お前は一生、
病気と一緒に生きなければならない。
お前に何の罪がなくても、だ」
力ずくで脳裏の映像を振り払い、
次男のためになる言葉を選んだ。

「父さんや母さんだって
不死身じゃないから、
お前よりも先に死ぬだろう。
そうなればお前は、自分の力で
生きていかなきゃいけない。
そのとき、お前に友達がいればいいが、

お前がいじけたまま
我儘や意地悪ばかりしてると、
みんなお前を嫌いになるだろうな」

これまで充分過ぎるほど
頑張ってきた次男に対して
残酷かもしれないが、淡々と事実を話す。

「せっかく頑張ってきたのに、
こんなつまらない事に
時間を使って…お前は楽しいのか?」
「ううん。嫌いになったら。ゃだァ……」
「それなら、まずは
お兄ちゃんに謝りなさい」

説得の結果、謝る意思は
芽生えたようだが。
…次男は俯き、ばつが悪そうに
口ごもっている。



「あのさ。健児」
次男と向き合った長男のほうから
言葉を切り出す。

「お前の病気のせいで、
って言って、ごめんな。
お前だって、病気になって

すごい嫌だよな…」
「………。」
長男から謝ってくれた事で、
次男のきっかけになったようだ。

「ぼくも、……ごめん」

こうして形式上は、
仲直りする事が出来た。




その日の夜。
長男の部屋へ行くと、

母さんの部屋に行っていいよと言われる。
「父さんの事、
本当は嫌いじゃないよ。
あのときは、もう俺の事
いらなくなったのかもって思って
悲しかっただけだから」
もじもじしながら
伏せていた顔を上げ、控えめに微笑む。
「でも、父さんが
一番好きって言ってくれたから。
もう悲しくないよ。」
 

(…一瞬、マジで天使かと思った)
溢れる愛しさに任せ

抱き締めたかったが……。
 

 

禿げあがった兄貴の入浴に

喜々として付き合う

母親の映像が浮かび。

差し伸べようと微かに動かした手を

慌てて止める。

 

本当は長男に、もっとたくさん

お前が大事だと伝えたい。

心の底から安心して

再び無邪気に笑ってほしい。

だが…健児に俺と同じ思いを

させるわけにはいかない。

あんな反吐の出るような親になど

なるもんか……!

 

ばらばらに散らばる心を

無理無理押し込め、笑顔を作る。

「…ありがとな、賢一。
でも、30分経ったら
もう一度ここに来るから」
「うん。」
にこりと笑って、見送ってくれた。




妻の部屋を訪ねると、
驚いた顔をして出迎えられる。
「あら?賢一の所に
行ったんじゃ…って!

賢吾くんどうしたの!?顔が真っ青…」
「麗奈さん………」
中に押し入り素早く扉を閉じたあと
妻に抱きつき。


「俺は。……父親失格だ」
華奢な肩に、顔を埋めた。

 

 

 

 

******************

 

 

今回も過去絵含めた

落書き貼ります(^▽^;)

 

 

 

 

imageimageimage

 

これまでロングヘアーの

イメージで描いてきた

妻・麗奈さんですが。

 

 

 

 

 

image

 

賢吾さんと出逢った大学時代は

ショートカット(*^^*)

ってか二人とも細っ!

 

ダンスに興味のある学生は

HIPHOPのサークルに流れてしまうため

ジャズダンス部は少人数。

3年生の麗奈さんは

引っ込み思案ながらも

懸命に勧誘していたのでした。

 

校内での誘惑が煩わしい賢吾さんは

少人数という理由で

このサークルに入部。

 

 

image

 

高杉氏の花見編で

ダンスが上手だったのも、

留学するまでの間このサークルに

真面目に参加していたからだったり♪

 

 

 

 

 

そして、話は本文について。

 

自分の過去が理由で

兄弟平等にこだわる賢吾さん。

 

 

 

 

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長男くんを特別扱いする事にも、

母親に甘えられない寂しさを

紛らしてあげたいため~と、

無理くり理由づけをしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

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一方で、次男くんが退院してから

笑顔が減った長男くん。

 

『ひだまりハウス』の職員の協力もあり

なんとか帰って来て、

次男くんに進んで謝る

&もう悲しくないと控えめに微笑む。

…など、

実際どう思っているのか

気になるところですが…。

 

 

 

 

長男くんはお父さんっ子なので、

お父様の気持ちを聞いて

だいぶ安心感を取り戻したようです。

 

退院した次男くんの

お母さんとパフェ食べた~のくだりも

俺も父さんと行った事あるからお互い様、

お母さんと一緒に寝る~のくだりも

俺には父さんがいるもん!と、

強がり抜きで平気だったのでした。

 

『ひだまりハウス』の話し合いにて

賢吾さんにひと際激しい

怒りを向けたのも、それだけ

賢吾さんを慕ってきたからだったり。

 

 

 

image

 

 

2人でリゾートへ出掛けた事も、

忘れられない思い出

なんだろうなあと(*^^*)

 

書けば書くほど

キモイ親父扱いしているのが

自分の妄想ながら

信じられないのですが(笑)

今回からさらに2週間後くらいに

その理由も出てきます。

 

今後も長文になるので

どうか、無理のない範囲で…!(^▽^;)

 

 

それではお付き合いいただき、

ありがとうございました(^^)