「あの時を思い出すと・・・・」
と、涙ぐむ幼馴染がいます。
食糧事情などと言える事情ではなかった時代です。
父が送ってくれたさつま芋の苗。
当時は、山形では珍しかったのです。
夏が過ぎる頃には収穫できました。
私が小学生の頃です。
母は、それを茹でてくれました。
「友だちを呼んで来い」
こんなものを食べるのに、友達に声をかけるなんて・・・
私自身、食べたことのないものでしたが、
我が家で収穫するもので、人さまに声をかける代物なんてあるわけがない。
こんな気持ちが巣食っていたようです。
貧すれば鈍す・・・心が貧しかったのでしょうね。
些か恥ずかしいような気持ちがあったのかもしれません。
「芋茹でたから来ねが?」
数人の友人達も期待をするわけがありません。
母は、大皿いっぱいに盛って出してくれました。
「こいず、何だ?」
そしてホカホカに湯気の立つ芋を二つに割っては歓声を上げました。
「うわ~ッ、紫色だ!」
「甘いッ!」
「美味いなァ!」
私も、半世紀以上経た今でも、この時の情景は脳裏に残っています。
「お前の母ちゃんが、残ったのを持って帰ってって言ってくれたんだよ」
あの時のことを今でも思い出すのだという。
その友人が見たいという写真がある。
さつま芋を食べて何十年も後のものだが、
「あの時の母ちゃんみたいに思える」
のだそうである。