私の好きな役者(5) | 演劇人生

演劇人生

今日を生きる!

東京裁判を舞台にした作品の稽古でのひとコマ。

「あァ・・・きみがどれ程上手くしゃべっても駄目なんだよ」

大きなため息をついて、

「どうしようか・・・」

頭を抱える。


「君の声はお茶漬けサラサラの声でね・・・」

役の人物は日に2回はステーキを食っている奴の声だというのである。

そのステーキも、

「草履みたいに厚くてデッカイ奴だ」

そして、

「いまさら直せと言っても無理だろうけどさ」

稽古はここで終わった。


その日から、

言われた役者は昼夜ステーキを食べた。

何回か付き合ったが経済的に続かない。


数日後・・・


「ま、日本人のお前がイギリス人になれるわけがないからな」

と言った後、

「五、六年ステーキを食ったところで変わりゃしねぇから」


食い始めて10日もたっていないのに、

5~6年食っても変わらないといわれた彼。

ただ唇をかみ締めたまま何も言わなかった。


私はロシア人検察官だった。

「声じゃ芝居は出来ないんだよ」

といわれた。

「声は聞こえど、ことばは見えずって奴だ」

大きなあくびをして、

「自分で、いい声だなぁとか思ってやしねぇか?」

「いえ」

と言ったものの、

「彼と比較したら、俺の声はステーキの声だ」

と密かに思っていた。

演出には、それが見抜いていたのだろうか。


12月は O・ヘンリー原作「最後のひと葉」
 好きな・・・敬愛する俳優 宇野重吉

  我が師匠という人は多いと思う。

戦後の映画界では二枚目俳優として活躍。

以後、演出を兼ねて役者でもあった。

寺尾聡さんの父君である。