緒形さんが5日に亡くなった。
残念で仕方がない。
でも、その兆候に近い言動はあったように思う。
このブログのルーム左下に
「ケイトンズヴィル事件の九人」
の写真を載せているが、
ベトナム戦争に反対して徴兵カードを焼き捨てた
カトリック神父たちと
戦争を遂行するアメリカとの裁判劇だに、
緒形さんは検事の役で出演し、
ぼくはトーマス・ルイス神父役だった。
アメリカが行ってきたグァテマラやキューバでの
収奪や圧殺を含めて糾弾しながら、
不毛で非人道的なベトナム戦争を告発する作品だった。
そもそもの出発は、
劇団民藝を退団したぼくが、
最後の旅公演中に購入した雑誌に掲載されていた作品で、
退団後手がけたいと思って、
翻訳者である有吉佐和子さん宅を訪問したことに始まった。
「これ、文学座からやりたいと言ってきていた作品なの」
でも、出演者を考えると文学座には当面できないという話で、
宙に浮いた状態だから、「許可してもいい」ということだった。
有吉さんに演出を頼み、
推薦依頼者を検討したり出演者を人選し交渉に入った。
その時に、検事の役に最初に上ったのが緒形拳さんだった。
他に宇野重吉さん、滝沢修さん、芦田伸介さん、
中村翫衛門さん、杉村春子さん、桑山正一さん、
伊藤雄之助さん、野沢那智さん等に交渉し、
次々とOKが来て総メンバーが決まった。
緒形さんは熱心に凡そ一ヶ月の稽古に休んだ日はなかった。
対立する被告の言葉を食い入るように耳を傾け、
その内容を感じとり、理解しようとする役づくりだった。
次の稽古までに考えてきたことをいろいろ試した。
その発想の面白さに、有吉さんは大笑いしていたのを想い出す。
しかし本番を迎えて客席に反応がないのを知ると、
あっさりとそれを返上し、
「普通」に切り替える技量に感心したものだ。
クライマックスで、
宇野さんや滝沢さん、芦田さん、雄之助さんの演じる傍聴人から、
「きみたちはキリストを有罪にするつもりか!」
という言葉を投げつけられたときの、
緒形さんの形相は凄まじかった。
それから20数年、
一度も会うことがなかったが、
去年、赤坂でバッタリ会った。
「豪さん、ちっとも変わりませんねェ」
大きく手を振って挨拶された。
「とんでもない。年相応ですよ」
緒形さんも(変わりませんねェ)・・・と言うには、
白髪そのものだったので受けが出来ず、
何やらうやむやな話をして別れたのだった。
気さくで、一本気だが柔軟で真剣な人というイメージの強い俳優さんだった。
せいぜいが一ヶ月ちょっとのお付き合いだから多くを言えないが、
鋼のようでもあり竹のようでもあり、
人間そのもの・・・人間のブツ、そのものだったように思う。
(短冊の刺身ではなく、ブツそのもの・・・)
緒形さん、
お疲れさん・・・
ぼくのような人間が生きているのに、
先に逝くのは、勿体なさ過ぎですよ・・・
でも事実は受け容れるほかありません。
安らかにおやすみ下さい。
![]()
![]()