爆弾処理班【その5】 | 演劇人生

演劇人生

今日を生きる!

日々のテレビを殺人事件のニュースが賑わしている。

数年前から、極端に親子の間での殺人が増えてきた。

とんでもない世の中になったものだと思っている。

「キレル」等の言葉が飛び交うようになった。

「ウザインダヨ」

「ウルセェ」等々・・・


先週、久喜から上野行き宇都宮線に乗った。

ほとんどが空席だった。

タバコの臭いがする。


「・・・?」


学生(見た感じ高校生だ)が3人タバコを吸っている。

僕は15年も前にやめているから、

“煙”には敏感だ。


近くの席に座っている人がいるのだが、注意する気配がない。


「おい、止めないか」

よしておこうと思ったが、歩いて行って注意した。


2人は、

「・・・」

無言だったが火を消した。


一人は聞こえたのか聞こえないのか、窓外に目をやったまま無反応だ。

「三遍は言わないぞ。止めろよ」


「・・・」

先に消した二人は、その男の腕をゆすった。

「おれも以前はよ、日に60本吸っていたからな、

何処ででも吸いたかった。だが、禁煙って書いてある所じゃ

一遍も吸ったことない。だから消せ」


・・・残る一人も火を消した。


僕は、席に戻ったが、些か興奮していたのだろう、

本を開いたが頭に入らなかった。


しかし、いつの間にかウトウトしてしまったようだ。


・・・と、トントンと窓をノックする音で目を醒ました。

さっきの高校生3人が窓外から叩いていたのだ。


「・・・?」

こいつ等は仕返しをするつもりか・・・!

一瞬、そのような気持が心をよぎった。


ところが、その3人は、

神妙な顔をしてペコリと頭を下げて行ってしまった。


東大宮駅だった。


一瞬でも、「仕返しか?」

と思った、その気配を彼らは見て取ったろうか・・・


発車して、しばらくを経ってからも、

僕の心には、こんな不純な思いが渦巻き続けていた。

大きな溜め息をついたのは、大宮駅に着いた頃だ。

それまでは、息を止め続けていたような感じだった。


しょぼん「もしもし・・・」

電話に出たのは、新郎さんの母親だった。

父は、休んだはずだという。

遅く電話したお詫びをいい、遅くに電話があった旨を

伝えておいて貰いたいと話して、携帯の番号をメモってもらった。


翌朝、上手く行けば電話が来るかと思ったが、考えが甘すぎた。

こちらも芝居の稽古で、21時過ぎまで忘れていた。


携帯がなった。


名前のない、090・・・で続く数字が並んでいた。

若しかして・・・と出ると、

新郎の父親だった。


「嬉しいですね。お父さんから頂けるとは・・・」

に対して、

むっ「嬉しい内容じゃないよ。いいかい、これからうちに電話を

入れないでくれ。君からの電話以来、家内が不安定なんだ」

続いて、

むっ「余計な困りごとを家に持ち込んでもらって困っている」

のだという。


「ご子息は別の意味で困り果てていますよ。

結婚式に出る出ないは別にして、

二人と話す機会をつくって下さい。

場所と時間は僕が設定します」


家族がこんな状態では、

ひずみは大きくなるばかりだ。


少なからずまだ、心の遣り取りが出来る関係にあると思う。

今を逃すと、後悔が残るばかりだと思う。

顔を見た途端に殺しあうような関係だったら何も言わない。

些かでも、相手に「よくなって欲しい」気持があったら、

顔を合わせて話し合う機会を持って欲しい。

・・・これが僕の願いだと話した。


むっ「わかった」


無言が続いたが、


むっ「・・・だから、君からは、もう電話はしないでくれ」


僕は、

「申しわけありませんでした」

受話器を切った。


約束を守り続けて、電話はしなかった。

数日後、

新婦から電話が入った。


「お蔭様で、披露宴には出て頂けることになりました」

ただ父親は、親戚中にも申し訳ない」

ということで、出席しないそうだ。

ただ母親と兄弟姉妹、祖父母も出席するそうである。

親戚には、今から出てくれというのも迷惑なので、

親族だけの食事会を別に催すことにするという。


何か、処理が下手だと思ったが、

それで、

「上手くやろう」

という、父親懸命のアイデアらしいので、

「よし」としなければなるまい。


婚礼当日、

新郎側に親戚が10名近く出席していた。

父親からは、祝電が届いていた。


しょぼん「新郎の父親であるにも関わらず、

体調優れず、出席できないのが、残念・・・」

とのこと。


・・・でもまァ、新郎・新婦からは、

毎年クリスマスカードが来ている。


そして、

「お蔭様で、お互いに幸せを噛み締めながら、

○○回目のクリスマスを迎えます」

そうである。


残念なのは、まだ子どもの誕生のニュースがないことだ。