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母が世を去って、そろそろ10年になろうとしています。
孝行をしたい時に親はなし…とは、よく聞くことばですが、
“親孝行をしよう”…としてすることが、
果たして、本当の孝行なのか…疑問に思うのです。
母の日に“花”を贈った記憶もありませんし、
旅行に連れて行ったこともありません。
親父とお袋として二人を見ましても、
決して仲の良い夫婦には見えませんでしたが、
相思相愛の父と母だったように思えるのです。
父にとっての母は、余りにもマイペースのため、
協調性を持って欲しいと思っていたようです。
ところが母は、
自分ほど協調性を持った人はいないと思っていたふしがあります。
「父さんは家では苦虫噛み潰したような顔をしていても、
一歩外へ出ると、虫も殺さないような顔する」
とはよく言うことでした。
しかし、何だかんだ言いながら添い遂げ、
お互いに信じあっていた二人でした。
僕は母との間に、一つの約束を交わしたことがあります。
父がなくなり、ゲートボールに情熱を燃やしては帰宅し、
茶菓子を食べながら、お茶を飲み、ゲームを振り返るのですが、
タバコを吸いながら、うとうと居眠りをしては、
テーブルやコタツ布団を焦すことが多くなったのです。
ショートホープを、日に60本吸っている僕が禁煙すれば、
母さんはタバコを止められるか…を聞くと、
「止める」と言います。
母は、せいぜい10本のタバコでしたが、
ゲートボールの試合の合間のティータイムでの、
タバコの付き合いも断わらなければならず、
想像以上の苦労を伴った禁煙だったようですが、
不満も愚痴もこぼしませんでした。
そして、ピッタリと止めました。
「よし、お祝いに、美味しい和食でも食べに行こうか」(^-^)/
こういった時に見せた、嬉しそうな母の顔は、
今でも目の前に蘇ります。
・・・しかし、その時は来ませんでした。
次に母に会ったときには、
病院のベッドに横たわっていたからです。
一度も家に戻ることなく、
1年半の入院生活後、亡くなりました。
花を贈るのもいい、旅行に行かせるのもいい。
しかし、身近で、至極当たり前のことに誘うことこそ、
母に対する最大のプレゼントだったに違いない・・・
果たせなかった約束だから・・・というわけではない、
肩を揉むのもいい、足をさするのもいい・・・
お互いにとって、本当に身近な行為を交し合うことが、
最大、最良の贈り物 になるのではないだろうか・・・
振り返って思うことなのです。