一人じゃないと降りてこない…写真のすごい情報量 | Talking with Angels 天使像と石棺仏と古典文献: 写真家、作家 岩谷薫

一人じゃないと降りてこない…写真のすごい情報量

 1月25日の文章に、ジャンヌ・ダルクが「一人じゃないと神は降りてこない」と言ったと書きましたが、私の経験から、これにまつわるお話を書きます。08_02_29_記事
 ロンドンの天使の撮影のために三度、ロンドンへ訪れたのですが、二度目の旅行の時だけ、友人と一緒に行きました。他はいつも一人旅です。   
 ある時、その友人と行った二度目の取材の写真を見せに、親しい編集者のもとへ訪れました。その編集者さんは、以前から私の写真を高く評価してくださり、写真専門のお仕事をされ年間、何十万枚もの写真と対しておられるスゴ腕の方です。
 いつもならば、私の写真を見てすごく喜んでくれるのですが、その時ばかりは、彼は言葉少なでした。そして写真を見終わり、ポツリと「岩谷くん…この取材、一人で行ったんじゃないでしょ…?」と言われ、とても驚きました。何故って、彼には、友人と二人で取材したなどいっさい、伝えていませんし、フィルムにも友人はいっさい写ってはいないのです!
 呆気にとられた私が「なぜそこまで解るのですか??」と尋ねると、彼はしたり顔で「ぼくをナメてもらっちゃ困るよ…。この写真からは、いつもの岩谷くんの鬼気迫る集中力が感じられない。気が散っちゃってるよ…。」と言われました。
 お見それしました…。確かにその通りで当時、携帯電話も海外では繋がらない時代、見知らぬ墓地内で友人とはぐれるのがいやで、撮影中も友人の動向が気になって仕方がなかったのです。まさしく気が散じてしまい、私自身その状況にストレスすら感じていました。
 その思いが全て、写真に出てしまうなんて自分でも信じられませんでした。確かにその取材の時、ほとんど天使達とTalking出来ていなかったのかもしれません。実は鑑賞者で、そこまで解る人はなかなかいません。しかし観る人が見ると、写真はものすごい情報量で、魂までも写し出してしまうものなのです。やはり二度目の取材の写真は写真集にほとんど使えませんでした。
 それ以来、天使の撮影の時はいつも一人です。持ち前の集中力で召還するような感覚でしょうか。ジャンヌの言葉の真意もこの集中力が問題だったのだと思います。そして、Talkingでき、降りてきた時の感動はなかなか言葉では表現できません。