舞台俳優が夢だった。

端役では出演するが、役に名前はなく、自分の名前も覚えてもらえるほどではない。

だけど、自分の役だけでなく、舞台共演者の全員の動きやセリフをそらんじ、

共演者のメンタルに気配りし、作品を大事にした舞台をイメージする。

 

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今回の舞台の主役を演じるのは、20歳のアイドルだ。

子役から大人の女優へと羽ばたける舞台となっていて、プレッシャーも大きい。

演技力も追い付かず、精神的に不安定になっている。

 

彼女が不安定になっているのを主人公だけが気づき、

わざわざ稽古後に誘って、二人きりになって励ましている。

 

 

でもこれは、気配りとかでなく、状態の確認でしかない。

もし本当に彼女を心配するならマネジャーさんや監督さんに伝えるだろう。

 

 

そして、「いなくなる」のをじっと待っていた。

 

 

 

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もし彼女がいきなり降板したとしても、

52歳の無名の俳優が、20歳のアイドルの代役は、どう考えても無理だと思うが。

 

 

完璧に代役をこなしたとしても、20歳の細胞の新しさは持っていない。

 

観る人は、正しい演技力だけを観にきているわけではない。

 

 

 

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自分をわかっていないのねと、主人公への失笑がクスクスと聞こえてくるような、

ずっと冷ややかな作者の眼を感じた作品だった。

 

 

 

 

 

 

 

著書:「カット・イン・カット・アウト」

著者:松井玲奈

発行:集英社 2025/3第一刷