先天性ミオパチーという徐々に筋力が低下していく難病を持った10歳の女の子は、今は体にコルセットをして自分の体を支えているが、側弯もあり、いつか自分の背骨は、自分の体を支えられなくなるのかもしれない。

それでも、寸分先の未来への不安は周囲にはみせない。

 

なぜなら、じぶんよりも重い症状の同じ病気の、7歳年上の姉がいるからだ。

ミオパチーは難病なのだが、姉の方がもっと重いので、両親は自分のことはわりとほったらかしだ。病身を医療機関で晒され、物のように扱われる嫌悪感も口にしない。

 

姉は誤嚥を防ぐため胃ろうをし流動食を摂っていた。筋肉の衰えは声帯にも及んでいて、喋るのが難しくなっていたので、気道を塞ぎ、食道を確保する手術を行った。その言葉通り、声帯を取り、気道を閉じる。もう、声はでない。

 

その姉に入院してもらい自分たち家族はグアム旅行を楽しむ。

割り切る。

家族の「障がい」で人生を遠慮する必要はない。

 

姉とは筆談で会話している。

姉から妹へ送る手紙も、妹から姉への手紙も、「障がい」へのいたわりはない。

 

10歳の女の子が感じるものが丁寧に追ってあるので、

妹からの辛辣な手紙も、姉はふふんと笑いながら、あらこんなこと言ってる、と妹を愛おしく思うだろうことが想像できる。

 

姉の方が障がいが重たいからと言って、じゃあ姉は自分にとって「全てにおいて弱者」だなどと思わない。

 

誰でも、同情されて、いい人の立場(善意による支配、上から目線等)で、「弱い立場」として自分を定義づけされたくない。

そういうことに敏感な10歳だ。

 

 

著者:市川沙央

著書:「女の子の背骨」  (「オフェーリア23号」「女の子の背骨」二作収録)

発行:文藝春秋 2025/9第一刷