詩を書く人種、ある作品を書く時、かならずしもその時点で立っている場所で書いているわけではない。その場所に立ちながら何処か他の場所に「行っちゃって」書いていることがしばしばある。私の場合、それがアイルランドだった、ということなのだろうか。(著者自身による栞より)

 

このアイルランド編を中に挟み、三篇でできた詩集。

 

前編(7作品)

アイルランド編(12作品)

後編(7作品)「木のテーブルで」他

 

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「木のテーブルで」(部分抜粋)

 

十月の 水のように流れやまない朝

不確かな過去から 木のテーブルが届いた

二百年以上も昔の英国で作られたという

六人は優に囲める 頑丈なテーブル

私は折返し点を過ぎて 一人暮らしだが

残る人生の 長すぎる午後のような時間

このテーブルで パンを毟り零したり

詩の下書きを推敲したりして 過ごそう

 

 

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最後に(1作品)「ヤドリギの詩」

 

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「ヤドリギの詩」(部分抜粋)

 

二月の午後のうたたねの夢に

(略)

日没ののちは 青い風の中の

黒い球となってしまったヤドリギたち

裡に稲妻の火の種を宿すとも見える

私はそれを目に焼きつけて帰って来た

そして これがヤドリギの詩だ

もうすっかり暗くなった机の

電気スタンドを点けて 書いた

 

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著書:「柵のむこう」

著者:高橋睦郎(1937年生まれ)

装丁:半澤 潤

発行:不識書院 2000年7月