六月は庭園内の樹々が生い茂り、全域が木陰になった。

花々が沢山咲いた五月よりもだいぶ涼しい(寒いくらいだ)。

「もう夏も終わりだね」と奥様(あえて敬称)はおっしゃっている。

犬たちは、涼しい方が元気が良い。

(以上抜粋)

 

 

この、たぶん長野あたりだろうか、森のなかで、静かに暮らす。

だが、じっとはしていない。

 

ご自宅の敷地内に500m程の線路を敷く。走らせる機関車も手作り。

列車は毎日走らせる。

 

そして、完成したらお終いではない。

線路の枯葉撤去や草刈り芝刈り、路線の維持、車両の制作、、毎日多忙だ。

 

 

(抜粋)

メンテナンスも修理も、すべてが楽しい。

自分一人で作業に没頭する。

「上等な孤独」の時間は、幸せを感じさせてくれる。

 

 

この「上等な孤独」のいちばんの宝物は奥様かもしれない。

ご家族が互いにいい距離でどこかにいてくれるので、

安心して独りを楽しんでいるのかもしれない。

甘えているのではなくて、きっと、自分がいなくなっても、

奥様が変わらず今まで通りの暮らしを、

経済的にももちろんだが精神的にも、続けていけるように、

奥様の前から自分の存在を消しているのだろうと感じる。勝手な想像だが。

 

 

森さんは子供の頃から躰が弱く、兄も父も躰が弱かったという。

お兄様は自分が生まれる前に亡くなっていて、

子供時分に、自分も長くは生きれないと感じていたという。

お父様は84歳までご存命で、

お母様は72歳で亡くなったという。

 

自分の人生を60年と想像し、仕事を切り上げ、55歳でほぼ世間から引退する。

60歳くらいの時に、ドライブ中に気分が悪くなり、救急搬送されている。

いよいよ来たな、と思ったが、検査してもどこも悪くなく、緊急手術も中止となり、一週間後には退院できたという。

 

こういうことがあると、日々の時間に、自分にとって必要ないことは尚更いらない。

 

 

(抜粋)

古いクルマに乗っているので、整備を入念にして出かけている。

いつも、帰ってこれなくなる覚悟をしていざというときに必要なものを持っていく。これはつまり、人間の人生、誰にでもある普通の人生と、まったく同じだ。

覚悟していますか?

 

 

 

 

森博嗣さん

1957年生まれ 

工学博士。名古屋大学助教授就任31歳、47歳で退職 

日本建築学会奨励賞や日本コンクリート工学協会賞を受賞されている。

作家デビュー38歳、55歳で作家業引退(縮小)。現在までに約370冊の著書がある。

本書は2022/4~毎週配信されていたエッセイを書籍にしたもの

 

 

著者:森博嗣         MORI Hiroshi

著書:「静かに生きて考える」 Thinking in Clam Life

発行:KKベストセラーズ 2024/1発行

 

 

 

*参考として

 

「欠伸軽便鉄道」の動画

ご自宅の庭園で、ご自身の手作りの鉄道500mの様子、約15分で一周。

ワンちゃんは”シェルティ(シェットランド・シープドッグ)”、賢くて温厚な犬種。

 

ほぼ毎日運行しているそうだ。ワンちゃんが乗ったり、ゲストが乗ったりもする。