映像で見ていて、

これほど楽しく音を転がしている演奏家は知らない。

 

これほどの天才が

どうやって曲に向かい合い、作り上げていくのかを、さらりと見せてくれる。

クラシックを知らなくても楽しめる。

 

曲のイメージを作り、オケと合わせる。

指揮者や楽団に対するリスペクト。

指揮者のアドバイスを消化し、いっしょに音楽を作り上げる喜び。

演奏会場やそこの楽器を知り、生かすこと。

観客の反応を確認しブラボーの歓声やスタンディングオベーションを胸に刻むこと。

 

独りでベルリンを拠点に欧州に活動の場を広げる。

急遽代役で声かけられ、あちこちに飛んで演奏しているのも驚きだった。

普通数年かけてプログラムを組み取り組んでいくものを

あしたあさってくらいの代役で、弾けます、と言える日頃の精進と自信。

 

コロナ禍の影響もある。

世界の情勢の不安定さもある。

それでも音楽には関係ない。

どこの国だからと思うこともない。

 

演奏する喜びに溢れている。

 

演奏そのままの文章だ。

ころころ転がるように文は進んでいき、とどまらず、一段先を飛び越えていく。

 

喜びが伝播し、しあわせな気分になる。

 

 

 

(モーツァルトのおもしろさについて抜粋)

ピアニストにとって”聴きやすい”からといって”弾きやすい”とは限らないのが

モーツァルトである。

”聴く”イメージを”弾く”。そのまま再現することができるのだが、

モーツァアルトはそうではないという。

 

頭で形式や構成を考え、響きを計算し尽くすほどに、かえって彼の持つピュアで天国的な音楽と相反してしまう。モーツァルトの前では、長時間にわたる練習や研究がかえって足を引っ張ることになりかねないので、時間をかけたらかけた分、新鮮さを失わないように気を付けねばならない。

 

 

写真もたくさんあり、楽しい本。

 

著書:「指先から旅をする」

著者:藤田真央 (1998年生まれ)

発行:文藝春秋 2023年12月発行

 

*参考

「第1回ザリャジエ・インターナショナル・フェスティバル」出演

場所:モスクワ ザリャジエホール

公演:2019/10/31 藤田真央ピアノ「オール・モーツァルト・プログラム」 

  :2019/11/2  ワレリー・ゲルギエフ&マリインスキー歌劇場管弦楽団と共演

         「モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番*自作カデンツァ」