高校を卒業して、家を出てひとりで生きていくことを決め、

ひたすらバイトして貯めていたお金を、母親の男に盗まれる。

高校二年。時給680円。

生活費を月5,000円入れ、残りを貯めたお金だ。

一年半で726,000円。

 

自分を支えるのはお金だけだった。

 

でも、もうこのままバイトをしても、高卒後の自立は金銭的に不可能だ。

 

花ちゃんに、黄美子さんが声をかける。

「わたしと一緒にくる?」

 

 

 

そして、40歳。

花にとって黄美子は心から笑うことを教えてくれた唯一の人だった。

 

 

 

(抜粋)

:わたしたちは、どん詰まりだった。

:みんな、どうやって生きているのだろう。道ですれ違う人、喫茶店で新聞を読んでる人、居酒屋で酒を飲んだり、ラーメンを食べたり、仲間でどこかに出かけて思い出をつくったり、どこかから来てどこかへ行く人たち、普通に笑ったり怒ったり泣いたりしている。つまり今日を生きて明日もそのつづきを生きることのできる人たちは、どうやって生活しているのだろう。そういう人たちがまともな仕事についてまともな金を稼いでいることは知っている。でもわたしがわからなかったのは、その人たちがいったいどうやって、そのまともな世界でまともに生きていく資格のようなものを手にいれたのかということだった。どうやってそっちの世界の人間になれたのかということだった。わたしは誰かに教えてほしかった。

 

 

 

 

著書:「黄色い家」

著者:川上未映子

発行:中央公論社 2023/2発行 (初出:「読売新聞」2021/7/24~2022/10/20)