(以下、抜粋 一部略)

 

折口信夫は、幼稚園児のとき、父親から西行や百人一首の歌を口頭で教わり、歌のリズムを身に刻む。「歌の子」である。

 

そして、中学生時代、浪漫詩時代に、新体詩を創作している。その時代、新体詩自体が激しい革命である。「詩の子」である。

 

そして「古代研究」。日本人の霊魂信仰・霊魂観念の研究。

 

折口によれば、古代人の信仰とは霊魂信仰である。

肉体は霊魂をいれる器。

死ねば霊魂は器をはなれ、しばらく浮きさまよう。

復活をねがい、肉体の器に魂を呼び戻す呪術をおこなう。

そのことば。

その手ぶりや舞。

それが日本の文学となり、芸能となる。

 

生きているあいだも魂は肉体からはなれる。

恋わずらい…。

あまりになやましく恋びとの面影を追うから、魂が自分の身からぬけでてさまよう、とおそれる。

魂が他の魂を呼ぶ恋歌。万葉集の古い歌の多くは、魂の歌。

 

 

*『死者の書』に、泉鏡花からの影響をみる

 

『死者の書』冒頭の印象的な水滴の音「した した した」が、鏡花の小説『五本松』に由来することは、池田彌三郎が早く指摘した。『五本松』のみならず、鏡花の『日本橋』『柳の横町』などの作品にも、この音は、誰かがしのび寄る「跫音」として響く。

 

とりわけ『死者の書』(S18年)に極似するのは、鏡花の『沼夫人』(M41年)である。沼で死んだ哀しい女性の霊が、彼女を忘れえず探し求める青年の寝室にあらわれ、そのベッドのまわりを「しと、しと、しと」と歩きまわる。水びたしの死霊の「跫音」が主旋律をなす。

 

水滴ひびく洞窟で死者がめざめ、二上山の地霊として藤原家の聖少女の寝室を訪れる『死者の書』は、能楽の手法の活用もふくめ、鏡花文学の系譜を継ぐ。

 

 

 

著書:「歌の子詩の子、折口信夫」

著者:持田叙子

発行:幻戯書房 2016年発行