(抜粋:)
:入日の不思議に信仰が集まって当然だろうと、折口信夫はさりげなく語りかけている。
:実際、鶴瓶落としのように落ちる夕陽を眺めつづけていると、その下弦が地平線や水平線にかかるかどうかというときに、止まったり、ときには浮きあがったりするように見えることがある。動かない地表と対比して、落ちる速さが緩やかになるように感じられるのだ。
:日本人が持って来た神秘感の源頭
:日本人の心の底には、日に向かって魂を寄りつかせずにはいられない欲求が潜んでいるということになる。
:太古からの〈日祀り〉の風習や日想感が、折口信夫の脳裏に、なぜ、それほど強く印象づけられたのか、また、民間に生きる日本の神々への信仰を探ってきた折口信夫が、このときなぜ、山越阿弥陀図を日本固有のものとして突き出してみせたのか、それらを問うてみなくてはならない。
*参考:
『死者の書』あらすじ
(本書より抜粋:)
時代は、奈良の都の華やかなりし頃、権勢をふるった藤原仲麻呂(恵美押勝)の長兄、豊成の娘が主人公。豊成と仲麻呂の父、武智麻呂が藤原南家を興したので南家の郎女と呼ばれる。武智麻呂は、天智天皇に藤原姓を賜った藤原不比等の長男にあたる。彼女がその父親の屋敷で写経に疲れ、ふと見やった西の空、大和葛城、大阪との境をなす二上山の上空に御仏の幻を視、その幻に次第に惹かれるようになっていった。彼女が千部写経を成し遂げた時、憑かれたかのように、二上山の麓を訪ね、当麻寺に迷い込んでしまう。女人禁制の掟を破ったため、庵に幽閉され、深夜に怪しい亡霊の訪れに悩まされもするが、蓮糸で布を織り、阿弥陀仏が来迎するありがたい絵を描くまでの物語である。これが物語のいわば縦糸をなす。
(途中略)
ところが、この小説は、二上山に葬られていた滋賀津彦の霊が目覚めるところからはじまる。神隠しにあったと噂される南家の郎女の魂に呼びかける修験者の一行の声に、滋賀津彦の霊が応える声をあげる。これが、横糸の発端をなす。
著書:『死者の書』の謎 折口信夫とその時代
著者:鈴木貞美
発行:作品社 2017年発行
