1910年に執筆された散文。
71の手記からなっている。
デンマーク貴族出身の青年詩人「マルテ」が
パリで孤独な日々から内面を見つめる。
自分の内面は変化し続けている。
たった3週間でも、もう自分は昔の自分のままではない。
故郷に戻ったとき、みんなが見ている自分と自分が認識する自分には乖離があり、
「愛される」ことで、自分を縛ろうとされることを拒み
孤独であっても、自分で居続けることを望む。
「自分」の主体は「自分の内面を伴う自分」であること。
(抜粋)
放蕩息子の物語は、愛されることを望まなかった人間、そんな人間の話ではないのだと、ぼくに納得させようとしても、それはむずかしいことだろう。
彼は成長した、彼はちがったふうに知るということもなかった。
彼は子供だったので、みんなの心の柔軟さには慣れていた。
しかし、彼が少年になったとき、彼は自分の習慣を捨ててしまおうとした。
そんなことを口にだして言うこともできなかったろうが、
一日じゅう野外を歩きまわっていた彼は、もう犬たちさえ連れてゆこうとはしなかった。
犬たちも彼を愛していたからである。
犬たちの眼差しには、観察するような、関心をよせるような、期待し気づかう気持ちが宿っていたからだった。
犬たちに何をしてやるにしても、喜ばせるか、傷つけるかするだけのことになったからだ。
そのころ彼が願っていたことは、自分の心の誠実な無関心ということであった。
著書:「マルテ・ラウリス・ブリッゲの手記」
著者:ライナー・マリーア・リルケ
訳者:塚越敏
発行:未知谷 発行2003年
