80年前、昭和2年ごろの子どもの頃の思い出。

夢の又夢のやうな懐しい思ひ出。

 

川や干潟。

 

浅蜊の、ざらり

蛤の、つるり

沙魚(はぜ)の仔の、ぴちぴち

足の裏の立派な鰈(かれひ)の、にゆるにゆる

 

豊かでのどかなこんな、

 

そろそろ、

 

それから、

 

昭和の二十年目、

 

広島が何を浴びせられるかは、

世界中の人が知つてゐる。

 

顧みれば既往悉く(ことごとく)夢に似て、

川も海も懐かしいけれど、

あの日のことばかりは、

子供の頃の思ひ出に添へてあらためて書き記すに忍びない。

 

(全、部分抜粋)

 

 

著書:「こどものころにみた夢」12作家と画家によるリレー作品

著者:阿川弘之「水の恵み」他(阿川弘之1920ー2015)

挿絵画家:望月通陽 他

発行:講談社 2008年