ベッドの中でカミさんは日に日に小さくなってゆく。
またたくまにいろんな管が体の上を這いだして、
今までの彼女が消されていゆく。
どうしてこのように手をつかねて、
その日までを二人して送らねばならなかったのか。
涙がこみあげてきた。
泣きんしやんな…。
ほとんど出ない声で彼女がそう言った。
二人して今ここにいる、
明日のことをどうして思いわずらうのか。
彼女はじっとぼくを見ていた。
暑さもかなり柔らいだ九月末のことだ。
アトリエから真下に拡がる海の、
あの光っているところと彼女が指さしたあたりに
骨を撒いたのは、
次の年のとても暑い日で、
白く砂のように砕けた粒々が、
きらきらと沈んでいった。
(全文抜粋)
2001年9月30日、奥様京子さんご逝去(享年75歳)、(野見山さん80歳)
1971年8月7日、福岡市在住の武富京子さんとご結婚、(野見山さん50歳)
著書:「いつも今日」 野見山曉治 私の履歴書
著者:野見山曉治
発行:日本経済新聞社 2005年発行
