何もかもが遠くなった。

 

これはいつのことだったのだろう。

その折々の様子も、それをこうして書きとめていたことも、

本当に〈遠ざかる景色〉になりおおせてしまった。

 

戦前のぼくたちは昔という言葉で、その後の人間と隔絶されている。

 

この本の最後の章、〈ある鎮魂の旅〉が無性に懐かしい。

これはかつての人類の物語だ。

この人たちの遺した作品を、

その後、蒐集して信州の丘に建てた〈無言館〉に飾っている。

 

それを見にくる人と、眠っている彼らは無縁だ。

着ている服も、会話も違う。

表情も違う。

心情も違う。

 

思えば本当に、遠く遠く今とは違う景色のときから生きている。

 

(上文全:2012/12「新版へのあとがき」より抜粋)

 

 

著書:「遠ざかる景色」

著者:野見山曉治

発行:みすず書房 2013年発行(初版1982年 筑摩書房 発行)