明日は隣町の語り部の会が
一周年の記念公演をしますが、そのとき私がゲストで最後に語らなければ
お話のタイトル選びも結構難しいもので
会員さんが地元のお話が中心と云うことになれば悲話が多いから面白い話しと言うことになる
まっプログラムを組んだのを考えると
半々かなってところですから難しいところなのですね
先ほど副会長さんから電話があり
今通し稽古終わって帰ってきたんだというのですね
誰それさんも間違わずに出来たから
明日は大丈夫でしょうよと云って笑ってました
私も何のお話にして良いか迷っているんですよって云ったら
去年宇都宮で語った演目が良いというのです
それは私を指導してくれた先生の得意な演目で
「極楽を見てきたばあさま」
むかしあったと
あるところに、仲の良いおっか様と倅がおったと
倅も、年頃になったもんだから 隣村から嫁貰ったと
その嫁様、初めのうちは「おっか様、おっか様」って
仲良く暮らしておったがナ、お父っ様が彼の世に行ってからは
おっか様から 急に婆さまって呼ぶようになっちまってナ
ほんで、婆さまのやっこど、なす事
とにがく、なにやっても気にいんねんだっちゅうんだと
おんなじ部屋で おんなじ空気すってると思っただけでも
ハァ~じんま疹出来っちゃうんだと
そんなある日のこと、
「俺ら~あのばあさまと一緒にいだくねぇな~ どっかさやって貰いてナ~」
それ聞いた息子は
「なんぼなんでも、俺らのたった一人のおっか様だ~
何処にもやるわけにいがね! ちった~おめ~我慢してやって見でくろや」
そう云って嫁をなだめたと
ほんで、それから暫ぐは そんでよがったんだがナ
「やっぱり俺ら~あの婆さまと一緒に暮らすの嫌だ
どっかさうっちゃってきて貰いてぇな~
それが出来ね~んだったら 俺ら~里さ帰して貰うべ」
さあ~倅も困っちゃってナ
「ほんだら、おめ~どうすればええんだ!」
「な~に婆さまナ この間だっから極楽が見でい
極楽が見でいって云ってから その極楽見せてやれば いいんでね~のか?」
あっさりと云うんだと
「ほんだらば、その~極楽っつうの どこにあんじゃい?」
「そったらモン 何処にもあるワケでねぇ、ほれ!あそこの
あの向かい山の、山奥にナ 凄い崖があんだと
そごんとこさ連れでって、後ろからつっとばせば、そんで決まりだがナ」
「そっそっそんな酷いごと 俺らには出来ね~やめてくれ」
「ほんだら俺ら~やっぱり里さ帰して貰うべんべかな~」脅し掛けてくんだと
そんなもんだから、はぁ~なんともなんねんだと
「ほんじゃおめ~どうやってそごんとこさ おっか様連れていぐんだい?」
「そったらことだら心配ねぇ、俺らもう隣からもっこかりてきてあんだ~
それさいっけで二人で担いでいけば婆様も喜ぶべな」
「ほんだらおめ~そごんとこさ いつ行くんだ?」
「善は急げってこともあっからナ、早いほうがいがっぺ」
そう言って、二人して婆さまの所に行くとナ
「婆さま、この間っから 極楽が見でい 極楽が見でいって
云ってますよね、これから その極楽見せに連れてってやっぺと思ってナ」
それ聞いた婆さま 喜ぶこと、喜ぶこと
「俺ら生きてる間に一回
その~極楽っつうの見で見でいと思ってたんだ
で~その極楽っつうのどごにあんだべ 俺らあんまり遠くちゃ歩けね~ど」
「婆さまそんなのワケもねぇ 俺らと旦那様で担いでいきますから」
そう言って、婆さまもっこさ入れられてナ
「なんて親孝行な倅なんだべ、何とええ嫁なんだべか」って
喜んで担がれていったと
ほうして、行くが行くが山登っていって
「極楽はここいらだな~」つうとこで婆さまおろしたと
「婆さま こっから極楽が見えるちゅうから よ~ぐ見て見なせよ」
そう言って崖っぷちに立たせたと
婆さま背伸びして、あっちこっち見たんだがナ な~んにも見えねがった
嫁様後ろの方でナ 「婆さま見えますか~」
「な~んにも 見えねぇな」って言うもんだから嫁はナ、
婆さまの背中ちいっと押して 「婆さま、今度は見えますか~」
「いやいや!さっぱり見えね~な~」
ほんじゃ~もうちょっと 前さ出でおごんなんしょ
云われるまま、この位か?、この位か?って崖っぷちまで来たと
「そんなら ほれ!、よ~く極楽見てきておごんなんしょ」って
背中「ド~ン」っと つっとばしたもんだから婆さま
崖をゴロンゴロン転げ落ちながら 「あっ!奴ら俺らごど殺す気だな!」
そう思って 手伸ばしたら ガシッって藤っつるに捕まさったと
そうして、顔を岩にかっつぁがれ、バラにひっかがれながらナ
「死んでなるものか!、死んでなるものか! 死んでなるものか!」
顔中血だら真っ赤になりながら
やっとの思いで 崖の上まではい上がってきたと
したれば、あたりはすっかり暗くなってで、倅も嫁もいねぐなってだと
「あ~俺らここまでは助かった、
助かったは良いが これから何としたらいがんべ」
そう思って、あたりを見てみたればお堂があったと
「お~おこりゃ~丁度ええ、今晩ここさ 泊めて貰うべ 」
そう言って中にはいると、はぁ~疲れてっからすぐ寝込んじまったと
ヤガヤ賑やかな音で目を覚まして見ると、
泥棒達が盗んだ宝物を 山分けしているとこだったと
婆さま見たこともね~もんばっかしでヨ
もっとよ~ぐ見でえもんだと、
ぼっこれ障子に よっかかったもんだからナ、
ドダッーって泥棒の前まで吹っ飛んでいっちまった
さぁ、ぶったまげたのは泥棒! 白髪頭はごちゃんごちゃんで
顔は目だか鼻だかわがんね~ほど 血だら真っ赤でナ
その上泥だらけの面したもんがでんながってきたもんだから
「お化けが出たー」って泥棒逃げていったど、
婆さま そん時は何で泥棒が逃げで云ったが、しんねがったがな
とにかく腹減ってだもんだから、そこらに散らばってるもん
とりあえず食ってナ そんで気が付いたと
「今こごさいたのは泥棒だー、俺らがこのまま居だら
今度こさー俺らが殺されっちまう
そう思って、急いで宝モンかき集めて袋さ押し込んで、 しょって出かけたと
さあてそれからどの位歩ったかな 歩って歩って歩ってやっとこ家さ着いたと
したら、丁度倅と嫁がナ
「婆さま今頃極楽行ったんべかナ? それとも地獄さ行ったんべか?」
そう云って、くっちゃべってっとこだったと
婆さま 知んねっぷりして、ガラッと戸ぼを開けると
「あ~あ疲れた~ 今帰ったぞ~」って言ったもんだから嫁さま
ぶったまげること、ぶったまげること 飛び上がって ぶったまげたと
それでもま~だ婆さま、知んねっぷりしてナ、
背中から袋おろして、中味おん出して見せたと
「いや~極楽つうもんは ホントにあるもんだな~ 俺らおめ達のお陰で
ホントの極楽っつうとこさ行ってこられた~アリガトよ」
その宝物もん見た嫁様、
「婆さま一人でせぇ、こんなにいっぱい宝物貰ってきたんだからナ
俺らと旦那様二人で行けば、どんなにがいっぱいの宝物貰えるべ」
ほんで嫌がる旦那引っ張ってナ 山へ山へ登っていったと
そうして、山の上さ着くと 婆さまこと つっとばしたのこの辺りだな
そう云ってナ 二人して崖っぷちに立ってナ 手ぇつないで
一・二の三って飛び降りちまったと
それっきり、 待てど 暮らせど 二人は戻ってはこねかったとサ
おしまい
これを15分掛けて演じるわけです
でも私に会長さんが与えで下さったのは10分です
ですから
今から猛勉強ですよ
では・・・・・・・・・・・