民事提訴後の記者会見での発言により金銭賠償義務を負うリスク(判決未確定) | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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  ジャパンビジネスラボ事件(東京地判2018/9/11労判1195号28頁)について、民事提起と同日に行った記者会見での発言により、訴えた女性が企業(なお社長は女性)に対し、50万円余りの名誉棄損を理由とする慰謝料支払い義務を命じる東京高判2019/11/28をくらったとの報道に接した。ちなみに、この記者会見は女性1人でなく代理人も隣にいて開催されたようで、一審では企業からの慰謝料請求は斥けられている。

 一審で女性が就けた弁護士は女性ユニオン東京ルートのようで、他方、企業が就けた弁護士は使用者サイドで労働法務に関する著作をたくさん持っていることで著名な石嵜・山中総合LO 
 二審もたぶん同じ弁護士同士での、和解の余地のないがっぷりよつの事件だったのではないかと推察する。女性の弁護士は控訴審判決後「記者会見は労働者が対抗でき、声を上げることができる場面。今後のためにも最高裁に進むことになると思う」とマスコミにコメントしているそうです。

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 では民事提起と同日に厚労省記者クラブで実施された記者会見における発言のうち、名誉棄損に該当すると評価されるかもしれない箇所を一審判決文からピックアップします。一審判決の中のアとイは表現自体が名誉棄損と一般に評価されるレベルのものではないと思ったので省略します。
 ウ:子供を産んで戻ってきたら人格を否定された。
 エ:上司の男性が「俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる」と発言した。
 オ:女性が労働組合に加入したところ、企業代表から「あなたは危険人物です」と言われた。

 

  一審判決は、まず「女性や弁護士らが、記者会見において、上記発言以外に、ことさらに企業を非難する具体的発言、あるいは、企業にマタハラにあたる行為があったと述べたりそのような印象を与える発言をした事実はない」と評価しました。
 それから「ウエオの発言は、その内容及び発言された場所が記者会見であることに照らせば、一般に女性が民事提訴で主張している事実を摘示しただけで、企業や代表者や上司がその行為をしたとの事実を摘示したものではない」となんか不思議な説示をしました。
 すなわち、「記者会見での発言は、記者会見に出席した報道関係者あるいは報道を見聞した一般人において、女性の認識のみをもとにした主張や、当該事件にかかる事実経過に対する女性の感想や所見を述べたと理解されるにとどまり、これが訴訟の一方当事者の一方的な言い分と受け止められることは明らかである」。「仮に記者会見にかかる報道を見聞した者が、それのみにより企業に対する評価を低めたとしても、それは報道機関による報道の仕方によるか、あるいは、その見聞した者の偏った受け止め方のためというべきであって、記者会見の発言のみによって企業の名誉や信用が棄損される行為とはいえない」と説示したのです。
 が、東京高裁はまだ判決文はわかりませんが、この理屈にはのっからなかったのです

 昨今、判決後でなく提訴直後に、一方当事者から「被告は社会的な害悪をなしている」とラベリングして訴訟を有利に進めるために、少なくとも被告側に置かれたものにはそう受け止められる類の弁護士同席の記者会見がメディアに散見されるようになりました。
 ジャパンビジネスラボ事件の最高裁判決がどうなるかわかりませんが、その線引き次第では、記者会見で発言した当事者のみならず同席した弁護士もまた共同不法行為者として慰謝料支払い義務を負ったり、懲戒リスクを負う危険があります。従って、記者会見をするならそういうリスクを予め当事者に伝えなければ
、被告とされた者からも、不意に慰謝料支払い義務を負わされた依頼者からも、弁護士はダブルで懲戒申立をくらうリスクがあるのです。
 
 最後に、弁護人が被告人となった者のために上告直後に「真犯人は被告人ではなく別の誰それだ」と指摘する記者会見を行い、あまつさえ、名誉棄損で告訴されたのちにそういう内容の告発本まで弁護人同士で共同出版したところ、名誉棄損罪を負うことになった最高判1976/3/23判タ335号146頁丸正名誉棄損事件の判決文を披露しておきます。
1、弁護人が名誉棄損罪などの構成要件にあたる行為をした場合であっても、それが自己が弁護人となった刑事被告人の利益を擁護するためにした正当な弁護活動であると認められるときは、刑法35条の適用を受け罰せられない。
2、しかしながら、刑法35条の適用を受けるためには、その行為が弁護活動のために行われたものであるだけでは足りず、行為の具体的状況その他の諸般の事情を考慮して、それが法秩序全体の見地から許容されなければならず、かつ、その判断をするにあたっては、①それが法令上の根拠を持つ職務活動であるかどうか、②弁護目的の達成との間にどのような関連性を持つか、③弁護を受ける被告人自身がこれを行った場合に刑法上の違法性阻却が成立するかどうか、といった諸点を考慮に入れるのが相当である。
3、①弁護活動のために弁護士が名誉棄損罪にあたってもいいから、記者会見や共同出版をしてよいことを許容している法令上の具体的な定めはない。
②記者会見や共同出版は、広く世論を喚起し無罪のための証拠収集につき世間に協力を求めるためであっても、訴訟手続内で行われたものでなく、訴訟活動の一環にあたらない。すなわち、裁判外の救援活動に属するので、弁護目的の達成との関連も著しく間接的である。
③真実と誤審した3要件を立証できないケースでは、たとえ被告人自身が行っても刑法上の名誉棄損罪の成立は免れないので、同一の行為を弁護人がおこなったからといって、刑法上の違法性阻却は成立しない。

 つまり3を充足しない状況で、うかつに名誉棄損に当たる記者会見を世論喚起を目的として被害者と称する人物の並んで弁護士が行ってしまうと、2が吟味されたあげく、賠償義務を負ったり懲戒リスクを抱えるのです。ご用心