債務者が給与差押の送達を隠したとき、勤務先は二重払いさせられるのか | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 弁護士同士のFBでこんなケース(事案自体は修正してます)が話題になり、へえと思ったので備忘の意味でUPしておきます。
 参考判例は大阪高裁2002/6/27判タ1141号274頁です。

Q:債権者Xは債務者Zに対する未払貸金の判決を取得し、債務者Zの給与を差し押さえようと、会社Yを第三債務者とする、債権差押命令を申し立てた。
 ところが、この債務者Zが悪い輩で、自分がその会社の総務兼経理であることをこれ幸い、会社Y宛に届いた債権差押命令を自ら受け取り、自己の懐に隠してしまった。
 債務者Zはまもなく退職し、何もわからない会社Yは満額退職金を支払ってしまった。
 その後、一向に第三債務者からの陳述書があがってこないことに不思議を感じた債権者Xが会社Yに連絡したところ、「えっ?そんな差押命令とかウチ知りませんよ。もうZには退職金を満額払い済みなので、未払はありませんよ」と言われた。
 納得いかないのは債権者X、債権差押命令が届いているのに回収できないのはおかしいと、会社Yに対し差押命令が会社に届いた日以降の本来は債務者Zに払ってはいけない保留すべき分の支払を求めて取り立て訴訟を提起した。
 さて、軍配は会社Yと債権者Xのどっちに上がる?

A:参考判例は、債権者Xが、差押命令の中で、第三債務者である会社Yの送達場所として、債務者Zが現に勤務している新幹線保線区を記載したところ、そこに勤める債務者Zが届いた差押命令を隠してまんまと退職した案件です。
 
 会社Yは、①債務者Zは、第三債務者であるYに対する送達において、送達に関する法律上の重大な利害関係を有していることから、民訴法106条1項にいう使用人その他の従業者にあたらない、②新幹線保線区なる場所は適法な送達場所にあたらない、と主張し、つまり債務者Zが退職する前に会社Yには未だ有効な送達はなされていないのだから、有効な送達がなされる前に会社Yが金銭を保留しないでそのまま支払ったとしても、債権者Xとの関係でも適法、と争いました。

 参考判例の原審は①を採用し、参考判例自体は①には触れず②を採用して、会社Yに軍配をあげました。ただよくありそうな事案なので、本当は①について判断がほしかったです。

 また、たとえ①または②の理由で送達が無効となるとしても、会社Yには自己の業務遂行に携わっている従業員Zが、総務兼経理という会社Y内での立場を悪用して、会社Y宛に届いた債権差押命令を隠す行動をとったことで、債権者Xの債権執行が妨害されたのだから、会社Yは債務者Zの行動について使用者責任を負う余地もあるのではないかという想いも抱きました。
 もしかすると、法律構成次第では、たとえ従業員に満額支払った後でも勤務先が債権者に対し二重払いを余儀なくされる可能性はあるのではないでしょうか。
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