本件では、法人格否認による請求は成立しないと福岡地裁2014/8/8で認定され、次に述べるYらへの請求分も含め一審で確定しました。
A社に務めていた原告が、A社を相手に未払残業代の支払を命じる確定判決を取得したものの、A社は資金不足でそれを払えず廃業しました。
そこで、原告は、原告在籍当時の代表取締役Y1、そして原告が先にA社退職した後に、代表取締役を辞任したY1と交替してA社の代表取締役に就任したY2(上記A社と連携協力関係にあった会社の代表者でもあり、就任後すぐにA社の取締役を辞任しました)、Y2の後にA社の代表取締役となったY3の3名を被告として、会社法429条1項(役員の第三者に対する損害賠償責任)を理由に、A社が支払えない未払残業代などをYらに支払ってほしい提訴してきたのです。
会社が未払残業代を支払わなかった場合、会社法429条1項を根拠に役員個人に損害賠償するよう命じた昭和観光事件(大阪地裁2009/1/15労判979号16頁)があります。
原告はこの昭和観光事件と同様、本件でもYらが連帯して損害賠償義務を果たすべきと主張してきたのです。
しかし、A社は好き好んで支払わなかったのでなく、確定判決が出た時点のみならず一貫して赤字経営が続いていました。
実際、会社が資金不足のため割増賃金を支払えないといっても、役員個人に善管注意義務違反が成立するわけでなく、賠償責任はないというリンガラマエグゼクティブラングエージサービス事件(東京地裁1999/7/13労判770号120頁)もあります。
本件も後者の裁判例と同様、A社の賃金未払についてYらに悪意重過失による任務懈怠ありと認定できないと、原告のYらへの請求を全て斥けました。
従業員にはA社での未払残業代の回収の道が断たれ、気の毒であるものの、そうはいっても会社による賃金未払の事案で、会社法429条1項により役員個人への従業員からの賠償責任追及がたやすく実現されるようでは、それを恐れて取締役への成り手が著しく狭められる事態を招きかねません。残業未払というのはYらにとってもA社にとっても潜在債務という面もあるのですから。
その意味で、事例判決ではあっても会社法429条1項の成立を否定したことは、法的意味あいが強いのではないでしょうか。
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