ニューリッチの慈善活動~寄付に成果主義を求める | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 昨日紹介した《ザ・ニューリッチ~Richistan》の感動した第8章の箇所をクローズアップして紹介します。この記事のタイトルは第8章のタイトルのままにしています。
 第8章の主人公、フィリップバーバーは第6位の社会起業家にランクインしています。個人投資家が証券会社を仲介せず株の取引ができるサイバーコープ社を構築した、いわゆるドットコム企業家として財を成しました。

 バーバーは、ユナイテッドウェイや赤十字やCAREのような既存のNGOにお金を出す気もないといいます。バーバーの目からみれば、既存のNGO団体は、膨大な寄付金を人件費やマーケティングや無駄な報告書に浪費しているからです。
 バーバーにとって、慈善は技術企業のような形に新たに改善されるべきであり、そこでは社会変革への投資の具体的な成果が、ドットコム企業ばりの効率で実現されることが望まれるべきなのです。
 「誰にも何一つタダで与えるつもりはない。私には慈善の精神などない。私は社会的利益に資本を投じる社会投資家なのだ」
 
 バーバーは、数年間で、エチオピアに1600万ドル以上の資金を投じて、1657の井戸を掘り、88万6000人に清潔な水をもたらし、190の学校を設立し、11万2000人の生徒に教育の機会を与え、99の診療所を設立して、77万6000人に医療を提供し、24の家畜診療所を設立して16万2000人に恩恵を与えました。
 しかし、バーバーがもっとも優先しているのはクオンティティー(量)ではなくエフィシェンシー(効率)です。ドットコム企業で拡張性や資産収益率を中心に生きてきた根っからの企業家ですから、より安くより速く提供する方法を常に追い求める習性があり、慈善や博愛と言った感覚的概念のために効率を諦める気にはさらさらならなかったのです。
 それはのちに「一縷の望み」の5原則の箇所で詳しく説明します。

 バーバーは、本腰を入れてエチオピアに取り組んでおり、毎年夏、ほかの新富裕層のようにビーチで過ごす代わりに、家族全員でエチオピアの奥地に飛び数週間滞在して、エチオピアの地元の人々のニーズを学んでいる行動派です

 バーバーは、サイバーコープ社が証券会社抜きで株取引ができるようにしたように、既存のNGO団体に寄付せずとも慈善活動は可能であることを証明しつつあります。そのため、当然というか、既存のNGO団体からの受けは悪いそうです。
 「ほとんどのNGOは民間企業だったら破産している。私たちが生きているうちに変革の嵐が吹き、寄付をする人々が寄付金の使途についてもっとよく知るようになるだろう。実際の援助に寄付金の19%しか使っていない団体もあると知ったら、誰でもショックなはずだ。」

 新富裕層の中には、慈善を自分のイメージアップの手ごろな手段と考えている者も多いし、博物館に2000万ドル寄付したとか、母校に1億ドル寄付したとか、社交界で受ける切符を金で買いたい者もいます。死ぬまでに財産を使いきれないと気付いたが、同時に、子どもを甘やかしたくないと寄付を続ける者もいます。
「元気に生きているうちに、慈善事業にとりくんだほうがずっとよい。100年後まで大金を残す必要はない。今ならアタマを使って、よりよい世界を築くことができる。」

 動機は様々ですが、最近の傾向として黙って慈善団体にお金を渡せば寄付金が賢明に用いられるとまかせっきりにならず、どの団体が有効に寄付金を使いきれているか、口をだし成果を検証し、寄付する団体を選択しようとしています。
 その変化の一因は、NGO団体が集まった寄付金を資金集めの広告費や人件費や官僚主義的な手続費用などに浪費しているという非効率性にあります。世界的問題の解決よりむしろ自己の団体の存続拡大や豪華なオフィスの維持に熱心な様子に気づいたのです。
 新富裕層の多くは、金融市場や技術市場の急成長で富を築いた企業家ですが、組織なるものに信用を置かず、自己の市場改革能力に自信を持っています。彼らは、自分が富を築いたのと同じ方法で、慈善も展開することが可能(既存のNGOに頼る慈善は非効率的)と気づいたのです。
「社会起業家の仕事は、社会の一部が停滞していることに気づき、それを解消する新しい方法を提供することです。どこが機能不全かを見いだし、問題解決のためにシステムを変え、解決策を普及させ、社会全体を説得して新たな飛躍へと向かわせるのです。社会起業家は、魚を与えたり釣り方を教えるだけでは満足しません。漁業革命まで起こさなければ気が済まないのです。」

 グーグルの創業者2人で設立した基金は、貧困・病気・地球温暖化の撲滅を目指す一方で、ベンチャー企業へ投資したりベンチャーキャピタルとの提携で利益を上げています。いわく、善行を積んでよりよい世界を築こうとするとき、何も非営利にこだわる必要はないと。
 
 バーバーは、オールドリッチが繰り返しまた新富裕層の人も似たように行動している、パームビーチで正装でおこなわれる慈善パーティーを忌み嫌っています。
「彼らが慈善活動を行うのは、たいてい社交界で名をあげたり、友人を獲得したり、事業上の利益を増やすためだ。見せびらかしの自己満足に過ぎず、世界の諸問題の解決とは何ら関係が無い。持ち上げられ頼まれた挙句、母校に寄付して満足する。それは地域で賞賛を得て社会的な自己顕示欲を満たすための慈善だ。見せたがり屋の寄付でつつしみとは無縁だ。」

 バーバーは慈善事業を始めるにあたり、事業計画を立て、使命を書きだし、社会的利益の獲得目標を立てました。一縷の望みを設立するにあたり、5つのルールを定めました。その5つのルールはビジネスの基本原則であり、慈善寄付にも応用できると考えたのです。
1、顧客を知る
 エチオピアに関する本を何十冊も読み、専門家に話を聞きに行き、さらに、自ら貧しい村を訪問し、住民に何が欲しいかを尋ねることを繰り返しました。その結果、清潔な水→学校施設→職場というプロセスを経ることが現地のニーズに合致していることが分かったのです。
「多くのNGOはワシントンかどこかの象牙の塔が母体で、現地駐在員は母体の指示に従い、アフリカの人々にあなた方はこれが必要で、これがほしいはずだと押し付けている」

2、コストを削減し中間業者を排除する
 NGOの腐敗と搾取と非効率性を暴いた本に接し、エチオピアを助けるにはNGOに任せてはダメだと痛感したそうです。
 アフリカでは、NGO欧米職員がピカピカのレンジローバーを乗り回し、自分の子どもを名門私立学校に通わせるのが普通の景色です。また、報告書を書くために現地調査に向かう人物はファーストクラスで移動していました。
 寄付金を出した人は恵まれないアフリカの人々を助けるつもりで出したのに、まさか寄付金でそういう費用がまかなわれているなんて思いもしないのではないでしょうか。
 そこでバーバーは地域ごとで村民のニーズを聞きだして、提案書と計算書を添付するプロジェクトに競合入札を導入しました。
「ある地域のチームが生徒1人あたり162ドルかかる学校を立てたいと言ってきても、近隣地域で生徒1人当たり63ドルの費用で学校が立っていたならば、前者には資金は出さない。常軌を逸したコストは腐敗の兆候だから」
 バーバーはペーパーワークも大幅に減らしています。大量の文書を書く人件費、読む人の人件費を考えたら、貧しい人々に渡すお金が無くなるからという理由で。

3、説明責任を持たせる
 バーバーはどんな援助にも成果目標を取り入れています。
 エチオピアのチームに資金を提供する場合、最初は第1四半期分の援助金しか渡しません。そのチームが一定数の井戸を掘るなり学校を設立するなりして目標を達成したら、初めて第2四半期分の援助金を渡します。が、目標を達成しなければ援助を打ち切るのです。

 当初は要求がきつすぎて余りに懲罰的と嫌われていたし、半分近くのチームが途中で援助を打ち切られていたのですが、次第になじんできたそうです。
「開発途上国は施しに依存している。援助を受けるのが当然の権利になっている。寄付をする側も受ける側もお互いを信頼していない。私たちはそれを変えようとしているんだ。」

4、顧客を巻き込む
 アフリカの慈善プロジェクトの多くは、寄付をする側が関心を無くしたとき、寄付を受ける側が自発性を失って頓挫してしまうのが現実です。
 そこでバーバーは、現地住民を巻き込むことを実践しています。例えば、井戸の場合、修理や管理にあたる現地人による給水委員会の設立をサポートしました。
 他方、NGOのつくった井戸の多くは地元民が修理用部品を持たず修理のノウハウもないので、壊れたらそのまま放置されてしまうのです。

5、レバレッジを活用する
 バーバーはビジネスの経験から、地元NGOに資金援助を行うことでゼロから立ち上げるよりも効率が良いことを知っていました。エチオピアでもそれを実践しました。
 他方、スマトラ沖地震の翌日、家族会議で100万ドル寄付することを決めたものの、バーバーのお眼鏡に適う効率的でビジネス志向のわかっている慈善団体がなかなか見つからず、寄付相手を特定するまでに3週間もかかったことが紹介されていました。慈善事業にビジネス志向で取り組んでいる団体はまだまだ少ないのです
「心から寄付したいという衝動を感じた。が、その後アタマが働き出した。単に自己満足で寄付したいなら赤十字に寄付することもできた。しかし、社会投資家としては入念な調査をせずにいられなかったんだ。」

 最後に、新富裕層の中からバーバーのような社会起業家があまた輩出されることを望んでこの記事を終えます。
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