後見人の横領の一部、国が国に補填を命じた | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 広島高裁2012/2/20判タ1385号141頁です、2審で確定しました。
http://kouken.ne.jp/index.php?itemid=513&catid=5

2001/12/26 被後見人Xが交通事故で四肢麻痺、意識障害。
2004/2/18  調査官はXの姪Bと面接調査後、Bを成年後見人に選任 ※Bは知的障害者でしたが、そのことを家裁は知りませんでした。
2004/11/1  成年後見人Bとあいおい損保との間で、4770万円を賠償する和解契約を締結し、同額がB名義の口座に入金された。

2005/1/27   調査官による第1回後見監督。この際、保険金入金からわずか4カ月で470万円も払い出されている事実が発覚。
 しかし、Bはおろしたお金のうち300万円を手元に保管していると虚偽の説明をしたので、そのままとなる。
2006/3/15  調査官による第2回後見監督。この面談の際、前回の調査からさらに3600万円も共犯者(Bの母)と共謀してお金をおろし、使途不明金が発生している事実が発覚した。
 その後、Bは平成18年4~8月にかけて231万円をさらに着服した。

2006/7/14  森谷正秀弁護士を2人目の成年後見人に選任。
2006/8/13  Bは新たな成年後見人に通帳と印鑑の引き渡しを拒絶したので、預金支払停止手続を講じてようやく横領が止まった。
2009/12/24  Bに懲役1年8カ月の実刑。共犯者の母は執行猶予。
 
 森谷正秀弁護士がBや共犯者の母に不法行為に基づく横領額の損害賠償を請求したのは無論ですけれども(ただし回収の見込ゼロ)、加えて、国(広島家裁福山支部)にも①~④の選任監督不行届を理由に、Xが被った被害額を国家賠償をすべしと提訴したのです。

①国は多額の賠償金を監督する能力がBにあるか否かを慎重に審査すべきだった。他人の財産を管理する能力がBにないことは慎重に審査すれば国も知りえたはずである。
 つまり、Bを成年後見人に選任したこと自体に過失がある。

②第1回後見監督で、Bが4か月足らずで470万円も払い戻した事実を知った以上、Bの説明が場当たり的な不自然なものであることには容易に気づけた。1年も間をおかず少なくとも3か月後に確認すれば3600万円もの被害の拡大は防げた。

③第2回後見監督直後に、直ちに手続を講じなかったため、さらなる231万円の横領を防ぐことができなかった。ここに過失がある。

④最高裁は、成年後見人の選任監督、さらには金銭の不正利用をチェックする仕組みを全国的に制度化すべきだったのに、そのような指導を怠ったので、今回の横領が発生した。この最高裁の不作為に過失がある。

 ①~④の主張について広島高裁は次のとおり説示し、Xの被害総額は4000万円にのぼっていたのですけれども、そのうち④の231万円の範囲でのみ国家賠償責任を認めたのです。

『家庭裁判所が、被後見人に対して国家賠償責任を負う場面とは、家事審判官に与えられた権限を逸脱し著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる。』
家事審判官の成年後見人の選任やその後見監督に何らかの不備があったというだけでは足りず、α:家事審判官が成年後見人の選任の際に成年後見人が被後見人の財産を横領することを認識していた、もしくは、成年後見人が被後見人の財産を横領することを容易に認識できたにもかかわらずその者を成年後見人に選任した、あるいはβ:成年後見人が横領行為を行っていることを認識していた、もしくは容易認識できたにもかかわらずさらなる被害発生を防止しなかった場合に限られる』

①→B選任時にはBの横領が予測される状態にあったとは言い難い。
②→たしかに調査官は470万円の払戻を発見しているけれども、被後見人の財産管理方法は成年後見人の裁量的判断に委ねられているところ、一応合理的な説明がBから調査官になされており、調査官がBの横領に疑いを抱かなかった点が著しく合理性を欠くとまではいえない。
③→調査官や家事審判官は3600万円を超える使途不明金を確認した時点で、このまま放置すれば今後も同様の横領が繰り返される可能性が高いことを認識したものといえる。直ちにBを解任すべきだった。
④→主張自体失当。個別の事件の過失を議論するのに、最高裁の不作為があったからという組み立ては無理。

 どうだろうか。まっさきに『』の厳格な賠償基準が先行して定立されてしまうと、被後見人はまさしく泣き寝入りになってしまう。
 自身に提訴能力も預金の出入りを管理する能力も無いのだから、自己責任というシチュエーションもなく、やられ損もいいとこである。最近は親族後見人だけでなく専門職後見人による横領も珍しくなくなった。
 日弁連は自分たちのシマが信託銀行に荒らされるからか、もっともらしい理屈をつけて後見制度支援信託の導入に反対のスタンスをとっているが、本当に被後見人が望んでいるのは、安心してお金を守ってもらえる制度が今すぐ完備されることではないのか。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2011/110327_4.html
 

 自己決定権の尊重などをおためごかしにいつ実現するか心もとない対策を堂々と打ちだす神経は、この広島高裁のようにたとえ国相手にのちについた後見人弁護士が裁判しても横領された額の5%しか回収させてもらえない状況を目の当たりにすると、どうにも無神経すぎるように思えるのだ。
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