別居を無理やり解消したら婚姻費用の支払をせずに済むのか | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 名古屋地裁岡崎支部2011/10/27判タ1372号190頁です。

2007/6/17 夫Xが自宅を出て別居を開始し、翌月、離婚調停を申立
2007/9/26 妻Yが夫Xに婚姻費用分担の調停を申立→審判に移行
2008/3/11 「夫Xは妻Yに《離婚又は別居状態の解消に至るまで》毎月13万円の婚姻費用を支払え」との審判が出る。
2010/10/6 夫Xが自宅で寝起きを開始する。会社は休職中だった。
2011/2/25 夫Xからの離婚裁判は請求棄却で確定

 妻Yは夫Xに対して2010/10/6以降の婚姻費用を支払うよう求めたのですが、夫Xは2010/10/6以降は妻Yとの別居状態は解消しているのだからと言って、審判が命じる月13万円の支払を拒絶しました

 結局、審判を債務名義として夫Xの給与などが差し押さえられるに至ったのですが、別居状態が解消して以降の婚姻費用を請求債権とする差押を許すのはおかしいと提訴したのがこの事件です。


 結論から言えば夫の主張は退けられたのですが、その理由が法的観点からユニークでしたので記事にとりあげてみました。

婚姻費用を支払うべき夫Xが、妻Yの居住する自宅で寝起きするようになったのならば、審判の《別居状態の解消》には該当する。

しかし、夫Xは妻Yとの結婚生活を修復する為でなく、あえて審判の《別居状態の解消》という状態を作り出して婚姻費用の支払義務を免れる目的で自宅に戻ってきたのだから、民法130条類推適用により、妻Yはいまだ《別居状態の解消》は成就されていないと主張できる

 は文言に合致するから驚きはないでしょうはどういうことなのかと不思議に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 民法130を使えば、Aがこの絵を売ってくれたら10万円の報酬を支払うよとBに約束した後、10万円の報酬を支払うのが惜しくなってA自らその絵を第三者に売却してBが売る行動を妨害した場合、Bは売る約束が成就したものとみなして、10万円請求できたりします

 この民法130条は条件が達成することで不利益を被る者自らが条件成就を妨害した場合には、みなし成就とすることを定めています。

 ところが、条件が達成することで利益を受ける者自ら(本件でいえば別居を解消することで婚姻費用支払義務を免れる夫X)が、自ら条件成就を達成した場合(本件でいえば自ら別居を解消する)の取り扱いを明記した条文ありません。

 しかし、このような場面では民法130条を類推適用してみなし不成就としてよいと最高裁1994/5/31 判タ857号91頁は説示しました。本件の妻Yと夫Xの間にもこの理屈を適用してよいと判断されたのです。

 
 なお夫Xがあえて自宅に戻ったのは、うつ病による傷病欠勤のため審判で命じられた婚姻費用をそのまま支払いきれないという事情があったからのようですが、それなら事情変更による婚姻費用減額の調停を改めて申し立てるべきだったなどと、裁判所は指摘しています。

 そのほか、家庭内別居の場合の婚姻費用は通常の別居比べて同じ金額でよいのかなどという論点が付随して発生します。
 これについては婚姻費用の算定を巡る実務上の諸問題》判タ1208号24頁論文が婚姻費用に関するいろんな論点を網羅的にとりあげていますので紹介しておきます。
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