預金の無断引出に対し相続開始後に使える手続は | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 「何千万円もある」と聞いていたはずの被相続人の預金Yenが、被相続人の死亡後にふたを開けてみたらほとんど無くなっていたゼロという法律相談を受けることがよくあります

 ちなみに被相続人の銀行預金の口座履歴は、ほかの法定相続人の協力がなくとも、単独で取り寄せることが可能です(最高裁2009/1/ 22 判タ1290号132頁)。
 
 ほとんど預金が無くなってしまった原因として、被相続人の心身不調で施設に入所している間病院、施設費などを支払うために預金の管理を任されていた法定相続人の1人が、ほしいままに引き出して着服ケケケしていたりなどと、まさしく怒り新党ですデラックス

 そんなとき、法律相談では、まず「警察に横領だから調べてほしいと訴えたが、警察は何もしてくれない。告訴手続をとってほしい。弁護士が言えば警察も動くはず」と持ちかけられます。

 が、警察は「法は家庭に入らず。民事不介入と言いはなち、弁護士が告訴手続をとろうとしても受理せず、仮に受理しても捜査に着手ようとしないのが常套です
 捜査の端緒を眼前に消極的態度をとる警察がケシカランというのは私も同じ気持ですが、なかなか実際に警察はいてくれません

 次に、「じゃあ裁判所だと家庭裁判所に遺産分割調停を申し立ててみたが、書記官や調停委員相続開始前のお金の動きは遺産の調停でとりあげる対象ではないと言って何に使ったか相手に聞こうともしない
  
 
次回から弁護士が代理人に就任してもらい、裁判所に詳しく調査するよう働きかけてほしい。」と法律相談で持ちかけられます。

 が、これについても最高裁ウェブサイトで名古屋家裁がハッキリ「家庭裁判所では相続開始前に消失した預金についての調査をすることはありません」と宣言しており、全国どこの家裁でも弁護士が就いても同じ運用を貫くのではないでしょうか。
 http://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/tetuzuki/isan/riyou.html#no3_3

 じゃあ無断引出した法定相続人じゃない、その他の法定相続人は泣き寝入りしかないのでしょうか

 この場合、前記最高裁ウェブサイトでも明言しているとおり「被相続人の生前無断引き出された分を取り戻す手続は、家裁の遺産分割ではなく、地裁・簡裁での民事訴訟で責任追及する」という手段をとって対処することになります

 つまり、残っている遺産は家裁の調停で不当に減少させられた(残っていたはずの)遺産相当額は地裁・簡裁での訴訟で、2つの窓口に分離して決着をつける必要があるのです。

 ちなみに、1回の相続であるけれども、裁判所が2つだからということで、別々の弁護士料金発生することもあります。手続に必要な印紙代も全然変わってきます。
 依頼する弁護士との間で、きちんとその点をハッキリさせ委任契約を交わしておく必要があります。

 
 で前記最高裁ウェブサイトでは「不当利得返還請求訴訟」だけ銘打っていますけれども、実際の裁判では不法行為責任としての損害賠償請求と悪意の不当利得を選択的に主張しているケースが普通です。

 不法行為と悪意の不当利得とはおそらく遅延損害金の起算点は同じでしょうが(最高裁2009/7/17判タ1031号116頁と最高裁19 62/9/4判タ139号51 )、3つの大きな相違点があるからです

弁護士費用⇒前者は弁護士費用を加算して請求できるが(最高裁1969/2/27判タ
2
32号276頁 )、後者は加算できない(最高裁2009/11/9判タ1313号112頁 )。

立証すべき要件⇒後者は相手方の故意過失を主張立証する必要はないが、前者はそれを主張立証する必要がある
 他方、後者は相手方が利得したことまでを主張立証する必要があるが、前者被相続人の損失さえ主張立証すればよい。

消滅時効後者消滅時効は引出行為時から10年だが(最高裁1980/1/24判タ409号73頁 )、前者の消滅時効は引出の事実と加害者を被害者(この場合は被相続人)が知ってから3年

 2つの法律構成を選択的に主張するのは①~③のメリットデメリットを状況に応じて使い分けられるようにするためです。

 進行手順としては、遺産分割の請求は消滅時効にかからないことや、前提問題が解決するまで遺産の最終決着ができないことから、ⅰ→ⅱまたはⅲという手順がもっとも無駄がない経験上感じます。

ⅰ先行して地裁・簡裁に無断引出に絞った訴訟を提起する。
ⅱもし訴訟で和解ができそうならば、その時点で遺産分割調停を家裁に申し立てて、両者を並行して和解を進める。
ⅲもし訴訟で和解ができなさそうなら、訴訟の判決を確定させ前提問題をクリアにした上で、遺産分割調停を家裁に申し立てる。


 ただ、「無断で」引きだされていること、すなわち、引き出しの事実が預金履歴から見つかっても、その引き出しの際に被相続人の同意が無かったことの立証責任は賠償請求者側にあります。
 ですから、単に不自然に多額の引き出しがなされているだけでは、賠償請求の前提立証を尽くしたことにはならないのです。ご留意下さい。
   立証すべき事柄を簡潔にまとめたPDF

 ☆補足ですが、被相続人の遺産は建物1棟しかなく(現在は、相続人Aがそこに居住。しかし手元不如意)、もう一方の相続人Bが被相続人の生前に預金を無断引き出ししていたという場面において、AのBに対する不当利得返還請求権を実現させるためという法律構成により、A単独で建物を取得させ代償金の支払を免じる遺産分割審判があるそうです(東京高裁2011/4/11判時2206号22頁)。

 ★判タ1414号74頁に《被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について》なる論文が発表されました、必読です。

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