居住者はマンション管理者の保管書類を当然に閲覧謄写できるか | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 最高裁ウェブサイトがハッキングから復旧するまでは最高裁判例をとりあげるのは難しいので、マンションの区分所有者=管理組合員(少数派)と管理組合の理事側(多数派)との間でしばしば見受けられる問題を裁判例とともに取り上げてみましたマンション

 徴収した管理費の使途に疑問をもった少数派が(例:毎年のエレベーター保守点検費が高すぎる、業者と理事側が癒着しているのではないか?懇親会費とあるが誰と誰が飲食したのか不明、公私混同して無駄遣いしているのではないか?)、弁護士やマンション管理士など外部の第三者から助言を得る前提作業として、多数派に対し、総勘定元帳・現金出納帳・帳票となる預金通帳や領収書や請求書の閲覧や謄写を求める行動にでることがあります100円

 ところが、一般の管理規約には管理組合員からの閲覧謄写請求権を認める規定を欠くことが珍しくありません。たとえば、民事訴訟の記録に関していうと、民事訴訟法91条1項により民事訴訟法91条2項5項と92条で制限されないときには全ての市民に対する閲覧請求権が付与されています。謄写についても、民事訴訟法91条3項により民事訴訟法91条5項と92条で制限されないときには当事者と利害関係者に対する謄写請求権が付与されています(さすがに誰も彼もコピーできるという制度にはなっていません)。他方、建物区分所有法には管理組合が保管する書類の閲覧謄写に関する規定は存在しませんマンション
 少数派から言わせると「管理費は強制的に各区分所有者が管理組合から徴収されるもので、いわば組合員全員で合有する資産である。管理規約に明文の規定がないからといって、個々の組合員が調べることが一切できないのはおかしい。これでは多数派の専横を放置することを法が是認することになる。」という主張に基づき、管理規約に明文の規定がない場面で、閲覧謄写を求める争いがいくつもおきました。


1、東京高裁2000/11/30判時1737号38頁
 管理規約に組合員への閲覧も謄写も認める規定が存在しない場合、閲覧謄写を組合員に認めるか否かは、管理組合ごとの自律的な規律にもっぱら委ねられるべき事柄であるから、裁判所が管理組合の自治を侵して、閲覧や謄写の請求権を組合員に付与することはできない。
2、東京高裁2002/8/28判時1812号91頁
 管理規約に組合員への閲覧請求権のみを付与する規定が存在する場合、謄写の請求を認める規定は見当たらずとも、書類の閲覧が許される場合には、コピー機を利用しての複写が造作なく可能であるときは、機械的謄写請求も許していると類推適用することはできるので、組合員は謄写もできる(傍論)。
3、東京高裁2011/9/15判タ1375号223頁
 管理規約に組合員への閲覧請求権のみを付与する規定が存在する場合であっても、謄写と閲覧とは作業を介したり費用負担が発生するという点で異なる問題が生じるのだから、明文の規定を欠く以上は、組合員は閲覧はできても謄写はできない。閲覧のみしかできないと知るための時間が余計にかかるという事情があっても謄写は認めない。
 


 いまだタイトルの論点に関する最高裁の判断はないのですが、私は管理規約の明文の規定を欠いたまま、正義を制度的に担保すべきという視点のみから組合員に対する請求権を付与する理屈を編み出すことは、法構造として難しいように思います。上記で民事訴訟法をあげたのは、原則と例外を細かく規約の形で定めることで初めて閲覧謄写請求の円滑な遂行が確保されることの例示のためでもあります。

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