#590 カラオケボックス ビッグエコー ~小さな箱が静かに語る平成のレジャー文化史~ | 関東土木保安協会

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関東土木保安協会です。
時々出てくる商業施設の話題になります。

カラオケボックス。
その名の通りカラオケを搭載したボックスです。
今は駅前などのビルインタイプや、郊外型のロードサイド専用店舗、モール型式の建物のテナントで入るタイプの3つに大別できると思われるカラオケボックスの店舗ですが、30年ほど前辺りではカラオケボックスといえば専用の小型プレハブを並べた店舗もメジャーでした。

カラオケボックスチェーンの中でも、第一興商が手掛けていたブランド「ビッグエコー」は、当時からその一角を占めていた大手で、人気の漫才コンビダウンタウンを起用したCMも印象に残っている方も多いと思います。 
同社はカラオケの音響機材を提供しているメーカーでしたが、その流れからカラオケボックス業界に参入したのは1988年9月のことです。
福岡に第一号店となる小型プレハブ店舗「二又瀬店」を開店させるや、破竹の勢いで全国にボックスをばら蒔いていきました。

時はバブル全盛期。ミラーボールなどのディスコ要素も盛り込んだカラオケボックスは、90年代には夜の遊びから昼から遊べる老若男女のレジャーとして大衆娯楽の地位を固めるに至りました。
その後、団体から少グループ化へ、そして個人へと旅行やレジャーのニーズが変化する社会の変化にも見事に適応したカラオケボックスは、ROUND1を初めとする複合アミューズメント施設においても設置され、今日に至ります。

懐かしいカラオケボックスの略歴をまとめてみましたが、この黎明期のプレハブ形式のカラオケボックス自体を見たことがない方も増えてきたかと思います。
そんななか、比較的美しい状態で残っているカラオケボックスを街で見かけました。閉店後に譲渡されたのでしょう。
ビッグエコーの当時のロゴに、ドアのナンバリング。堂々たる往年のその姿は実に貴重で、最早産業遺産に相応しいものではないでしょうか。

▲元ビッグエコーのプレハブ

元々は船舶輸送用コンテナを流用した事から始まった、カラオケボックス店舗。
このビッグエコーのタイプは、防音措置などを施したコンテナサイズの専用小型プレハブで、営業時には入室用の廊下が組まれ、10~20個くらいが敷地内に並んでいました。
入口には庇があるのはこのためですが、この個体はトタンを後付けしているように見えます。恐らくビニールが破れてしまったのでしょう。
今では物置で使用されているようですが、やはり入口に庇があるのと無いのでは利便性が違いますものね。

フロントは別にあり、そこで受付をしたものです。
屋外なので、風雨が強い時は吹き込む雨にさらされながら伝票やマイクを持って指定された番号の部屋へ移動していきました。

▲ロゴなども剥がれがなく、綺麗な状態だ

「SINCE1988」の文字も誇らしげな当時のロゴ。
2匹のカエルさんはビッグエコーのトレンドマークでした。
服装や男女の組み合わせに、当時の歌番組の雰囲気や、デュエットソングが流行った歴史を感じさせます。
当時は「カラオケキャビン」と名乗っていたのですね。
確かに、コンテナ然とした流用品の店舗からすれば、この新規に起こした独自の専用ボックスは、キャビンの名に相応しいものだったことでしょう。

▲懐かしい当時のロゴ

プレハブには丁寧に銘板がつけられていました。
第一興商の製品です。
「ビッグエコー」とあります。ひょっとして、このカラオケ用プレハブボックスの製品名が「ビッグエコー」で、後のブランド名へ転化していったのではないかと思わせるような記載内容です。
どなたかこの経緯をご存じでしょうか。公式ホームページ等にはもちろん記載がありません。

1990年3月製です。
二又瀬店の開店から1年と6か月。
かなり初期の製品だというのがわかります。
コンテナボックスの元祖が、上で述べた通り船舶用を改造した店舗なのですが、1985年に開店という話なので、5年間でこのような製品を造るに至るまで当時の業界は進化していたのですね。

▲プレハブの銘板。ビッグエコーが製品名なのだろうか

時代は移り変わり、ビルイン型やロードサイド型の店舗が増えるに連れ、このようなプレハブを並べた形式の店舗は新規には設置されなくなってきました。
また、安価なカラオケチェーンや居抜き型店舗の増加もあり、閉店に追いやられた店舗もあり、その際に撤去がしやすいこのハコは退けられてしまうことが多かったのでしょう。
探せば全国にまだあるのかもしれませんが、私はここ10年くらいは営業中の店舗を見たことがありません。

レジャーや娯楽は、レトロなものが持て囃されたりはするものの、このような現存している手段における古典的な営業スタイル、ネオクラシックな案件については、ほとんどの方が記録もしないですし、知らぬ間に記憶も薄くなっていってしまっているかと思います。

友達と、家族と。放課後、飲み会後。様々な場面で様々な人が、色々な記憶を抱いたであろうカラオケボックス達。
本当は残すべき、超近代の産業遺産達が、社会にはまだまだあるのだろうなぁと日頃から思っていますが、その希少性が少なければ少ないほど、残らず消えていくように見えるのは、何とも皮肉な消費社会の構造です。
ビッグエコー。
カラオケシステムも捨て去ったプレハブが、思いもよらずふと隠れていた遠い記憶を響き起こしたのでした。



〈参考〉
・一般社団法人全国カラオケ事業者協会 : 歴史年表解説 


・株式会社第一興商 : 会社沿革 


・一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 : カラオケ文化をけん引した「ビッグエコー30年の歩み」