#552 【マニアな一基】~クルドサック鉄塔~ 東京電力柿生線31号 | 関東土木保安協会

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冬は鉄塔。
関東土木保安協会です。


以前、我らがバイブルのデイリーポータルZに「鉄塔が御神木みたいになっている 」という面白い記事が掲載されました。
これは、元々建っている鉄塔が、造成などにより周囲を道路で囲まれた結果、ラウンドアバウトの中心やそのサークル内に立つ御神木のようになってしまっている例が多数ある、というものです。

そしてその記事でも触れていますが、クルドサックという道路がありますが、このクルドサックに鉄塔が建ってしまっているという例もあるのでした。。
それでは、思い立ったがクルドサック。


簡単にクルドサックのお話をしましょう。
街路設計の一つで、住宅地などにおいて袋小路の先に円形のロータリーを設け、通過交通を防止させ住民の安全性を高めつつ、車両の転回性を損ねない手法です。
クルドサックはロータリーの分多くの道路用地を必要とするため、国内にはそう多くはありません。
関東で知るところでは横浜のたまプラーザや板橋区の常磐台などに設けられています。
分譲する不動産側からすれば、国内の住宅地事情より可能な限り宅地面積を増やしたいのと、転回するのは基本的に外部の車両で、車庫を用いるのであれば住民は転回の不便性をネガティブ要素と捉えないこともあり、クルドサック設置の優先順位は全くもって低いのでしょう。

さぁ、このロータリーの中に、鉄塔が建っているとしたら、なんだかワクワクしますね。

▲たまプラーザの一例。広めにとられた袋小路の先端は大型の消防車すら転回できそうだ

そしてこちらがその鉄塔、東京電力PGの柿生線/川崎火力線31号になります。
柿生線は上段2回線、川崎火力線が下段2回線の4回線で、全て154kV規格で碍子連が長く迫力があります。
横浜と川崎の市境の丘陵地を跳ねるように進んでいます。

▲クルドサック鉄塔の柿生線31号鉄塔

鉄塔を見るとよく見る四角鉄塔ですねとなるわけですが、下を見てみるとあら不思議、袋小路の道路に囲まれています。

▲鉄塔北側にある公園から足元を見ると、円形の道路に囲まれている

わかりにくいので少し近寄ってみます。
鉄塔が円形の道路に囲まれています。袋小路のクルドサックです!
近寄りすぎると鉄塔全体が写りません。
クルドサックらしい撮影のジレンマです。

▲クルドサックの中に鉄塔が建っている

基礎がやたらと新しいのですが、この鉄塔は2019年に建て替えられたばかりの鉄塔です。
柿生線は1960年代初期に建てられた鉄塔達でしたが、元々アップダウンの激しい丘陵地に建設された故に、丘の上に低い鉄塔を建てている箇所もあり、一部は周囲の宅地化の進展などで線下の離隔が小さくなっている箇所も多く見られ、建て替えがされた箇所も複数あります。
古い鉄塔が無くなるのは少し残念ですが、場所が変わらず建て替えされたのは嬉しい限りです。
(今時点で、Google Mapのストリートビュー機能で先輩の姿を拝むことができました)


▲白く光る美しいコンクリートが目立つ

円形のコンクリートは前のものを流用し、その上に新しい八角形のコンクリートが固められたようです。
右の方に見られるU字溝をひっくり返した踏み台もお馴染み感があります。
緑のフェンスも新品に変えられました。綺麗です。
台形のような形でコンクリートのクラックを修繕したような跡がありますが、これも前の鉄塔から引き継いでいるようで、一体何でしょうか。

▲北東には公園が広がり、子供達を見守っている

凛々しくサークルの真ん中に立つ柿生線31号。
2019年5月竣工、56mのスリムな現代っ子に生まれ変わりました。
少しノンクライムが高めに見えます。
願うなら、前の鉄塔も拝みたかったところです。

▲凛々しく立つ

クルドサックの入口に戻ります。
この辺は本当に急な傾斜地で、歩くとすぐ息が切れるくらいの斜面に住宅街が広がっています。
そのために道路も斜面縦方向の道路があまりなく、仮に袋小路を失くせば斜面に対し縦方向に抜け道で使うドライバーも増えると考えられます。
不便なように思えますが、慣れた周辺住民からすれば、そんなことを思っているのは部外者の私だけかもしれません。

▲クルドサックを一周すると、急な傾斜が目の前に広がった

そういえば、鉄塔ファンが愛する鉄塔のプレート、東京電力仕様ですが、気付かぬうちに西暦表示に変わっています!
これは読み替え不要になるのでありがたいですね!
(そもそも関係者のためにあるのですがね)
和暦がお堅い大企業からも消えていく、令和の時代です。

▲柿生線31号のプレート。いつの間にか西暦表示になった

道路に囲まれた送電鉄塔。
そのプレミアム感、出逢えるとまさに御神木にお祈りしたくなるのがよくわかります。
この建て替えられたばかりの31号も、また新しい御神木として来訪者を待っていることでしょう。。




〈参考〉
・デイリーポータルZ : 「鉄塔が御神木みたいになっている 」