#416 【マニアな一基】 犬伏線8号 ~優しさの環境調和型鉄塔~ | 関東土木保安協会

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みなさんこんにちは。
関東土木保安協会です。
 
栃木県小山市。
両毛線に沿うように、東京電力犬伏線という送電線があります。
この犬伏線の8号鉄塔こそ、私が鉄塔を見始めて最初に認識した「環境調和型鉄塔」です。
 
 
 
 
環境調和型鉄塔は周囲の景観に配慮した鉄塔で、1~4本の鋼管柱を用いて建てられるものです。
鉄塔が何故武骨な土木施設に見えてしまうかというと、トラス構造の(美しい)幾何学模様からでしょう。
こんな(美しい)模様が上から下まで続く鋼の塔が建っていれば、一般的にはあまりいい印象を抱かない筈ですので(美しいのに)。
そこで、この(美しい)幾何学模様を極力消し去り、直線的なパーツのみで構成しようと頑張ったのが、この環境調和型と言われる鉄塔群です。
基本的には鋼管による鉄柱か、柱を複数用いる場合はラーメン構造の鉄塔となります。
また色合いも、通常のグレーでは無機質であるため、その環境に合わせ、様々なカラーリングが施されます。白、茶、緑…鉄塔とは思えないようなイメージに仕上がります。
 
▲環境調和型鉄塔の例 (北本線8号鉄塔)
 
しかしながら、通常のアングル材よりは費用がかかるらしく、本当に必要とされたところしか使われていませんね。
このため、手前まで普通の四角鉄塔なのに、ここだけ環境調和型鉄塔、という場面が多数見られます。
 
個人的には、普通の四角鉄塔の方が好きではありますが、時折現れる環境調和型も送電線ファミリー中のアクセントであって、かつ土木施設が周囲環境と融合する具体策でもあるため、その立地環境からまじまじと見てしまいます。
 
そんな環境調和型鉄塔をこれまで何本も紹介してきましたが、初めてこんなに長々とお話ししました。私自身、今回の子には思い入れがあるのでしょう。
 
▲犬伏線8号外観
 
この犬伏線8号鉄塔は、小山ゆうえんちの敷地内に位置するために、このデザインで建てられました。
小山ゆうえんちは、桜金造さんの歌とCMでもお馴染みだったのですが、残念ながら2005年に閉園してしまいました。
 
▲珍しい色合いだ
 
さて鉄塔を見てください。鮮やかな緑色です。
薄い緑色などはよくみますが、これほどはっきりした黄緑系の色合いは珍しいかと思います。
 
前後の鉄塔は通常の四角鉄塔のため、その差が歴然ですね。
何やら鋼材が張り出していますが、それは後述します。
 
▲手前の7号は普通の四角鉄塔だ
 
当時、手前の7号と共に園内に立地していたのですが、こちらの8号は敷地端に位置するものの、建物などで隠れる場所でもなく丸見えになるため、このような鉄塔になったかとみられます。
 
▲紅白の9号との間で思川を渡る
 
鋼管柱1本や2本でもいいのでは?とも思いましたが、実はこのあと思川の渡河に入ります。
次の9号までロングスパンになります。張力がかかるために、鋼管4本+耐張碍子の鉄塔になっています。
 
▲現在でも周囲との調和が素晴らしい
 
しかしながら、全体を明るい黄緑で塗装することで、まるで遊園地のアトラクションの一つでは、とも思えるような鉄塔です。
環境調和型のメリットをよく活かした仕上がりになっているかと思います。
 
▲腕金が張り出しているのが特徴
 
私も初めて鉄塔を意識して見始めた幼い時に、この緑色の鉄塔は強烈に印象に残りました。
何故この場所に?という疑問と、何やら優しげなその表情で、気になってしまったのです。
その後、この鉄塔が環境調和型鉄塔という種類であることを知り、納得したのでした。
 
▲小山変電所から市街を西に進む犬伏線
 
ここで、犬伏線について少しご説明を。
鉄塔の上2回線が犬伏線で、下2回線が大平線です。
小山変電所から佐野市の犬伏(いぬぶし)変電所までを結ぶ送電線なのでこの名が付いています。
犬伏線は昇圧予定があるのか、途中の33号鉄塔までは154kV対応の少し大柄な鉄塔で建設されています。
現状では碍子まで154kV規格となっており、一目見ただけでは66kVとは分かりません。
この8号鉄塔をはじめ、前後の鉄塔を見る限りでは、犬伏線が154kV、大平線は66kVの組合せにみえますが、実際はどちらも66kVなんですね。
 
▲当時の小山遊園地向けの引き込みがあった

この8号は、当時の特高需要家であった小山ゆうえんち(思川観光)向けに大平線から引き込みがあり、その分岐鉄塔でした。張り出した鋼材は、皆様お察しの通り、腕金の名残です。
上写真でも、その一部には相表示が残っているのが分かります。
 
▲もう30年以上も前の鉄塔なのだ
 
竣工は1985年5月、高さ56mです。
この前後の鉄塔も同時期の建設です。
航空写真で見ると、以前この場所には別の鉄塔が今の犬伏線と似たような送電ルート上にありましたが、今の鉄塔に建て替えられたのでしょう。
 
▲近くで見るとメイクの乱れが
 
流石に塗装は数回行っていると思われますが、既に剥離箇所も多く、この可愛らしい塗装を維持するため是非とも再塗装していただきたいところです。
再塗装で色が変わるのはよくある話ですので、ひょっとすると遊園地カラーである黄緑で無くなってしまう可能性もあります。どうなることでしょう。
 
▲1986年3月の航空写真。竣工間もない犬伏線と当時の園内が確認できる(出典:国土地理院空中写真)
 
さて、そろそろ締めに入りましょう、長すぎですからね。
小山ゆうえんちは2005年に閉園した、と話しました。
先日、福岡のスペースワールドも閉園となりましたが、少子化の波もあるなかで、コンテンツとして魅力が薄れてきた従来の遊園地は閉園の一途を辿っています。
ここ小山ゆうえんちも、晩年は温泉施設を開業させるなどてこ入れを図りましたが、時代の波には逆らえず閉園となりました。
晩年は看板なども陳腐化し、外から見てもやっているのかいないのか分からないので非常に寂しく感じていた記憶があります。
 
話は少し逸れ、ここには小山ゆうえんちの他に、敷地内に大型ショッピングセンターがありました。
Dマートというもので、ダイエー系列のディスカウントショップでした。
広い店内にはずらりと品物が並び、言わばロジャースとドンキホーテのようなお店でした。
ドムドムバーガーも入店していました。懐かしい。
 
その後ですが、閉園後の一時期は、解体中の遊具や無残な荒野を見せなんとも残念な姿となっていましたが、「おやまゆうえんハーヴェストウォーク」として新たに整備され、2007年に開業しました。
ハーヴェストウォークは、大小複数の建物で構成されたショッピングモールなので、同じ一つの大きな建物内にあるのではないため、テーマパーク内を散策しているような感覚が味わえますよ。
一部店舗には「小山ゆうえんち店」の名前も残り、当時を思い起こさせます。
 
犬伏線8号も、このハーヴェストウォークの隅に位置することになり、分岐の腕金と黄緑の外装を残しながらひっそりと建っています。
今の足下には、子供向けの小さな遊び場が設置されており、その柔らかな印象を十分に発揮しています。
実はこのハーヴェストウォークには、小山ゆうえんち時代のアトラクションが残されています。
メリーゴーランドと、コーヒーカップです。
 
▲メリーゴーランドタウンの名もつけられている
 
コーヒーカップは回転せずに休憩ベンチとだけ活用されていますが、メリーゴーランドは現役で、いまでも多くの子供たちに人気です。
元々は横浜ドリームランドから転用してきたものでした。
 
▲コーヒー店の前に、コーヒーカップが
 
近くで見ると、そのコテコテの遊具感が強烈で、周囲の21世紀の空気の中浮いているように感じましたが、まじまじと見ると、その豪勢な造りと2階建てによる迫力に引き込まれました。正直にかっこいいです。
馬車やパンプキンなど馬以外のアイテムもあるので、幼児でも一緒に乗ることができますね。
 
▲雰囲気プンプンな2階建てメリーゴーランドは健在だ!
 
観覧車とともに残されるはずでしたが、状態が悪いことからメリーゴーランドのみ残され、現在に至ります。ゆうえんち跡地だという貴重な生き証人です。15分間隔で運転し、今のところ平日は無料で運転しているとの事です。
私も平日に訪れましたが、比較的空いているモール内に対し、運転前には必ず行列ができており人気を感じました。
 
▲重厚な造りで、よくできている
 
時は移り、時代は変わり、人々の求めるものや志向も多種多様となり、昭和は平成へ、そしてその次の時代へ。
小山ゆうえんちはなくなってしまいましたが、その跡地には当時を偲ぶ遊具も名前も残され、現在は子供達のみならず、若者、そして大人達の笑顔でも賑わいを見せています。
犬伏線8号鉄塔も、我々鉄塔愛好家からすれば、その当時を思い出させてくれる、貴重なランドマークですね。
彼はその優しい姿で、たくさんの人々の笑顔をこれからも見守り続けてくれることでしょう。
 
 
〈参考〉
・おやまゆうえんハーヴェストウォーク : 公式ホームページ
 
・小山ゆうえんち(閉園) : 公式ホームページ