Pさんの保釈を求める憲法研究者声明 | 関西大弾圧救援会・東京の会

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いま、関西では「反原発」の声をあげ、何人もの方が理不尽にも逮捕、起訴されています。
まったく他人事ではありません。
おかしいことを「おかしい」と言えない社会になる前に、いまできること…ともに考え、行動を起こしていきましょう! 2012.12.24

               Pさんの保釈を求める憲法研究者声明
 

 私たちは、憲法研究者として、現在、大阪拘置所に被告人勾留されているPさんを保釈 することを大阪地方裁判所に求めます。以下、その理由を述べます。
 
 Pさんは、2012年11月13日に「震災ガレキ」の受け入れに関する大阪市の説明会の会場であった大阪市立此花区民センターに行き、そこで建造物侵入(刑法130条)の容疑で現行犯逮捕され、同年12月4日に威力業務妨害罪(刑法234条)で起訴され、その後現在まで長期にわたり被告人勾留されています。
 
Pさんは、現行犯逮捕されており、起訴の時点までに捜査機関の証拠収集等は概ねなされているものと思われ、さらに2013年1月25日の勾留理由開示公判の際には、此花区民センターにおける自らの行動を堂々と説明している以上、そもそも何ら勾留する理由はないものと私たちは考えます。

以上の理由に加えて、私たちが、Pさんの保釈を求める最大の理由は、彼女に対する逮捕留置、被疑者勾留および被告人勾留の全期間を通じて、大阪府警布施署および大阪拘置所が彼女に対して必要とされる医療を施さないことにあります。

このような措置は、憲法で保障されている生命や身体の健康に対する個人の権利(日本国憲法13条)を侵害するものであり、捜査機関や検察による取調べがこのような状況において実施されることは、日本国憲法36条が「絶対に」禁止している「拷問」に該当する疑いが極めて強いものです。

したがって、このような違法な措置が継続されることは、憲法研究者として到底見過ごすことはできません。

憲法36条の「拷問」とは、被疑者ないし被告人に不必要な肉体的・生理的・精神的苦痛を与えることです。Pさんの弁護人および支援者らから私たちが得た情報によると、Pさんは、2012年11月13日に逮捕されて以降今日に至るまで留置所でも拘置所でも、適切な医療を受けられない状態が続いています。大阪拘置所へ移管された際には、薬を一切与えられない状態が数日間続き、Pさんは、固形物が全く喉を通らない状態にまで症状が悪化しました。

その結果、現在、弁護人の依頼により接見した専門医の「意見書」によると、不必要な長期勾留および不十分な医療の結果、持病の症状が非常に悪化させており、このまま勾留されつづけること自体がPさんに「悲惨な苦しい状況を強制し」、持病のさらなる「症状悪化をきたす」ものであって、医学上も許されないとのことです。
 
そもそもPさんは、大阪府警布施署における逮捕留置および被疑者勾留の段階から、逮捕以前からの主治医から処方されていたものと同じ薬の処方を繰り返し求めていましたが、それがなされない状態で取調べを受けていました。また、Pさんや弁護人からの度重なる要請により、ようやく処方された薬についても、何の説明もないままに、種類や分量が変更されました。

持病のある者に対して、必要な薬を与えず、身体的にも精神的にも苦痛状態に置いたまま、取調べをすることが許されるのであれば、捜査機関にとって「自白」を得ることは実に簡単です。苦痛状態から逃れ、適切な薬を得たいために被疑者が捜査機関の誘導通りにウソの自白をしてしまう可能性は非常に高いと考えられます。

また捜査機関が、自白を得るために被疑者にあえて適切な薬を与えず苦痛状態においておくことも可能です。

「拷問」によって得られた自白の証拠能力を否定している憲法38条2項の精神に照らしても、逮捕留置および被疑者勾留の段階で持病のある者に適切な投薬をしないということは絶対に許してはなりません。

また、刑法195条2項(特別公務員暴行陵辱罪)では、被疑者・被告人の拘禁という特別な職務を担う公務員の職権行使における犯罪行為として、被拘禁者に対する暴行、陵辱、加虐行為が定められています。

上記のとおり、大阪府警布施署および大阪拘置所の措置は、Pさんの身体的・精神的な健康を深刻に損ない、個人の尊厳を著しく傷つけるものであり、刑法195条2項の定める犯罪に該当する可能性が高いと言えます。

したがって、Pさんの保釈を裁判所が認めないことは、公権力による違法行為を黙認することにもなりかねません。
 
Pさんは、以上の通り、憲法上絶対に許されない「拷問」を受け、身体的・精神的に極めて深刻な損害を被っており、憲法研究者として許しがたいものです。

また、彼女に「悲惨な苦しい状況を強制」しつづけるならば、彼女が公判で自らの主張を尽くすための健康状態が著しく損なわれ、公判の公平性すら傷つけかねません。
 
以上の理由から、私たちは、Pさんを保釈することを強く求めます。
 
2013年2月19日
石川裕一郎(聖学院大学政治経済学部准教授)
石埼学(龍谷大学法科大学院教授)
岡田 健一郎(高知大学人文学部専任講師)
笹沼弘志(静岡大学人文学部教授)
中川律(宮崎大学教育文化学部専任講師)
成澤孝人(信州大学法科大学院教授)