植松光子です。
病気の原因は、そのかたの体質や食事、家庭の環境などが関係するので、来店のたびにお聞きしながら会話をしていると、人生相談を受けることがある。
この仕事をしていてよかった、と思うこともたびたびある。
大学生のころから、時々アトピーで来店されていたA君が、昨日、帰り際に深刻な顔で話し始めた。
「1歳になる自分の娘が心臓の手術を来月緊急に受けることになった。胸に10cmくらい傷跡が残ると医師から言われた。
将来思春期になったころ、傷で悩むであろう。そのときに親としてどのような態度をとったらいいだろうか」と。
簡単に答えられる内容ではない。
ふと、ある一人の40代の女性を思い出して、彼女の話をした。
アトピーで漢方薬を当店で飲み始め、その経過を写真にとってカルテに貼ってある。
彼女の背中はアトピーで真っ赤になっていると同時に、首から背中までまっすぐ手術の跡が残っているのが写っているのである。
脊椎側弯症の手術跡である。
次第にアトピーは良くなり、今ではすっかりきれいになったが、彼女はその傷跡が見えるカルテの写真を見ながら、
「わーよくなった(^∇^)」と喜んでいる。
そのあっけらかんとした態度を思い出して彼にその様子を話した。
黙って聞いていた彼が帰る準備をしている、ちょうどそのとき、その話をした彼女がなんと、ふらっと来店されたのである。彼女に彼の話をして、
「背中の傷を気にしていない様子なので、その秘訣を話してあげていただけないかしら」
と頼むと、笑いながら「いいわよ」と気軽に引き受けてくださった。
店の応接間で、私が背中の傷の話を始めると、
「ああ、それね」とまったく歯牙にもかけない様子だった。
「胸にもあるのよ」
「心臓の中隔欠損症で当時は成功率30%だったので、親に大事に大事に育てられたの。
わがままいっぱいに育ってしまったの。だからかもしれない。あんまりいろんなことをくよくよ考えないの」
「胸を見てみる?あんまり大きなバストでないけど」
躊躇する私たちの目の前で真っ白な胸を広げて見せてくれた。
そこには白い3mm幅くらいの手術跡が薄く10cmくらいの長さで真ん中に走っていた。
ケロイド状に赤く盛り上がったものを予想していた彼は、ほっと安心したようだった。
恐る恐る彼は、
「写真をとってもいいですか?妻にも見せたいので」
「いいわよ」明るく返事をして、彼女は胸を広げてくれた。
真っ白な胸に走る、白い傷跡は私の目にはとても清らかに映った。
度量の深い彼女に心の内で感謝した。
百聞は一見にしかず。
彼ら若い夫婦は、どんなに気が楽になったことだろうか。