書名:かわらばん屋の娘
著者:森川成美
出版:くもん出版
内容:文久元年三月(1861年4月)、数え年十三歳の吟(ぎん)は、かわらばん屋の娘。江戸は本所の三笠町、路地裏の長屋のせまい一軒が家族の住まいでもあり、瓦版の工房でもある。去年母親さとがコロリ(コレラ)で死んでからは、父の緑青(ろくしょう)が書いた瓦版の記事に吟が絵を描いている。絵を描く以外にも吟は食事の支度や洗濯などの家事と、五歳の弟金太の世話をしなければならない。ある日、吟は男装して編笠をかぶり、両国広場で父と一緒にかわらばん売りをしていた。ところが、それををじっと見ている不審な侍の姿に吟が気付いて父親に知らせ、手持ちの瓦版を放り投げて二人は別々に逃げた。吟は両国橋を渡って馬喰町(ばくろちょう)の稲荷神社に駆け込んで隠れた。しばらくして、吟は社(やしろ)の裏から出ると旅籠屋(はたごや)の洗濯物を拝借して着替え、ゆかた姿の娘になって外に出た。途端に「お前もどろぼうの一味か」と子供みたいな若い侍に咎められるが、吟はしらばっくれ、侍がかわらばん売りの男を探している隙に逃げ帰った。しかし、長屋の我が家は泥棒に入られたような有り様で、近所のおばさんから父親が旅に出たと告げられる。実は父親が侍だったと教えられたうえに、吟は無一文で弟と置き去りにされた事が分かり……。
※かわらばんは、こっそりつくられていた。なぜなら、徳川幕府は世の中のうわさ・政治のこと・世をおどろかせる大事件などを出版物の題材とし、おおぜいの人びとに売ることを厳しく禁じていたからだ。かわらばんは編笠(あみがさ)を深くかぶって顔をかくし、二人一組で売っていたといわれている。
そもそも売ってはいけないものだから、いつなんどき、つかまるかもしれない。
だから、ふたり組で行くのだ。
かわらばんの中身を読みあげては、一枚ずつ売っていく。
そのあいだ、岡っ引き(町奉行所の役人にやとわれ、犯罪人の捜査や逮捕にあたった人)が来ないか、見張る。
かわらばん売りはたいてい、自分のいつも行く売り場のあたりを受けもっている岡っ引きに金をわたして、見逃してもらっているという。
書名:黒の皇子
著者:小森香折(こもりかおり)
出版:偕成社
内容:ラベンヌ王国の王都ミラの下町サン・モルで育った孤児の少年ノアは、大導師サロモンが残した魔法書に選ばれた『青の読み手』だ。ノアはサロモンの書に導かれ、しゃべるネズミ・パルメザンとともに『ナントの魔女』をさがす旅に出た。旅の途中、リバーレイという街で水牢(みずろう)に入れられた魔女を見にいったノアは捕まりそうになるが、熾火(おきび)のサンドラに助けられる。熾火とは、かつて魔女狩りにあったルドン派修道女の末裔たちだ。一方、リバーレイの領主は北の帝国ザスーンの錬金術師オルガトフと組んで、ラベンヌ国女王セシルの暗殺をもくろんでいた。ノアはサンドラの助けを得て、暗殺を阻止しオルガトフを倒す。しかし、オルガトフはレトに操られていたとみられている。レトはサロモンを裏切った弟子で、生まれ変わって世界をほろぼすといわれているからだ。ノアはサンドラの弟子になり、東ラベンヌのキトラ山 の中腹にある山小屋で秘術の修業を始めた。それから一年が過ぎた秋、ザスーン帝国でゾラー将軍による反乱が起き、皇帝一家が殺されたとの急報が入る。ノアたちはこの政変の背後に、世界を滅ぼすために復活するレトの存在を疑う。しかし、生き残りの第三皇子アレクセイが現われたことで事態は一変する。さらに、ラベンヌではセシル女王の双子の姉妹であるロゼに魔の手が迫っていた……。
※『青の読み手』シリーズ第三弾。
書名:アウシュヴィッツの図書係
原題:La Bibliotecaria de Auschwitz
著者:アントニオ・G・イトゥルベ(スペイン作家)
出版:集英社
内容:9歳の少女ディタことエディタ・アドレロヴァの幸せな子供時代は、1939年3月15日のドイツ軍のチェコ進駐とともに終わった。ユダヤ人の子供たちは、学校に行くことも公園で遊ぶことも禁止された。1942年11月、ディタは家族と一緒に、生まれ育ったプラハを追放され、テレジーンのゲットーで一年間過ごした後、1943年12月、貨車に乗せられ三日三晩飲まず食わずで、アウシュヴィッツ第二強制収容所ビルケナウに到着した。ディタと両親が収容されたBⅡb区画は家族収容所で、「死の工場」とも呼ばれたアウシュヴィッツ=ビルケナウにあって異色な存在だった。教育も本も禁じられていたアウシュヴィッツ収容所の中のBⅡb区画三十一号棟に、青少年のリーダー、フレディ・ヒルシュは密かに学校を作っていた。そこにはわずか八冊だけの小さな図書館もあり、先生たちに『授業』のための本を貸し出し、一日の終わりに本を回収して秘密の場所に隠すと言う危険な仕事がディタに託された。図書係となったディタは古本を修繕し、ナチスに見つからないように洋服の内側に秘密のポケットを縫い付けて、本を持ち運びした。本が大好きなディタは、『世界地図』を開いては収容所の柵を越えて世界中を旅することを想像し、『兵士シュヴェイクの冒険』をこっそり読みながら、主人公のドタバタに笑顔になる。先生たちが実際に手元にない本でも記憶を辿って子供たちに語り聞かせてくれた物語もある。ディタは、恐ろしいナチスの絶滅収容所の中でさえ、生きる意欲、読書の意欲を決して失わない。なぜなら「本を開けることは汽車に乗ってバケーションに出かけるようなもの」だったのだ。
※2012年出版
※本書は、第二次世界大戦中、ユダヤ人であるがゆえにアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所に送られた少女の実話を元にしたフィクション。モデルとなった少女ディタ・クラウス(旧姓ポラフォヴァ。1929年、プラハ生まれのチェコ系ユダヤ人)の本名はエディタ、通称ディタ、愛称ディティンカ。ただし、本人はいつもディタ・クラウスと署名し、そう呼ばれることを望んでいるという。
※テレジーン:プラハから六十キロほど離れたところにある城塞都市。ドイツ語ではテレージエンシュタット。
フレディ:アルフレートの愛称
ベス:エリーザベトの愛称
ハンス・アドレル、父さんだ
母エリーザベト・アドレロヴァ、愛称リースル
※チェコ人の名字は、男性と女性で語尾が変化する
書名:お姫さまとゴブリンの物語
原題:The Princess and Goblin
著者:マクドナルド
出版:岩波少年文庫
内容:昔、ある国にアイリーンという名のお姫さまが生まれました。王妃さまの体が弱かったために、アイリーン姫は田舎の山の中腹にある館で育てられました。山の地下には恐ろしいゴブリンが住んでいて夜になると地面の上に出てくるので、アイリーン姫は夜に外へ出たことがありませんでした。八歳になったアイリーン姫は、雨の日に館の中を探検していて屋根裏部屋で自分の先祖である大きなおばあさまに出会うが、そのことを話しても乳母のルーティは信じてくれませんでした。ある日うっかり山で日暮れまで乳母と散歩していたアイリーン姫は、道に迷ってしまったうえにゴブリンに遭遇してしまいます。そこへ鉱夫の息子であるカーディ少年が通りかかって、二人を助けて館まで送り届けてくれました。そして、カーディがお母さんへのプレゼントを買うお金を稼ぐために夜 の鉱山で働いていると、ゴブリンたちの悪だくみする話し声が聞こえてきて……。
※1870~1871年雑誌連載、1872年単行本刊行
※著者はスコットランド生まれ
「王さまは、その女の足あとさえ大事にしなさるぐらいだったんだからな」
王は発言を嘉納(かのう)するしるしに、うなずいてみせ
※嘉納: 献上品などを目上の者が快く受け入れること。人の箴言(しんげん)、意見などを喜んで聞き入れること。
書名:俳句ガール
著者:堀直子
出版:小峰書店
内容:小学四年生の梅野つむぎは、二学期が始まってから毎日が憂鬱。一人暮らしの祖母にボケの症状がでて母親が世話をしに行くようになったため、代わりにつむぎが家事をしなければいけないからだ。日曜日、デイサービスに通っている祖母の薬を届けるために、つむぎはひまわりホームへ出かけた。そこで祖母の詠んだ俳句が一等賞を貰っていることに気付く。翌日の放課後、不満を抱えたつむぎは自分の気持ちを詠んだ俳句を黒板に書き残す。次の日、登校するとつむぎの俳句に加えて誰かが新しい俳句を黒板に書いていて驚く。あの俳句を詠んだのは誰……?
※2018年出版
書名:鉄腕ゲッツ行状記 ……ある盗賊騎士の回想録……
原題:Lebens=Beschreibung Herrn Goetzens von Berlichingen zugenannt mit der eisernen Hand.
著者:ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン
出版:白水社
内容:ドイツの騎士ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン(1480or1481年~1562年)の回想録。ゲッツは「中世最後の騎士」と呼ばれた神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン一世の時代に、若年より剛勇をもって知られた小貴族。1504年のバイエルン継承戦争で右手首から先をカルバリン砲で吹き飛ばされたが、精巧な鉄製の義手を得て、以後ますます暴れ回る。口実を見つけては大貴族や都市にフェーデ(私闘)をしかけ、賠償金や身代金を強奪するのだ。そのため「盗賊騎士・鉄腕ゲッツ」と呼ばれて恐れられたが、ドイツ農民戦争に際しては農民軍の隊長に担ぎ出されている。この回想録では決闘やら襲撃の一部始終がいきいきと語られており、文化史の一級資料であるとともに興趣尽きせぬ読み物となっている。なおマルティン・ルターやアルブレヒト・デューラーは同時代人である。
※本書の底本は1775年刊行。この回想録は1731年、ニュルンベルクの出版業者アダム・ヨナタン・フェルスエッカーによって初めて上梓された。そのとき編者は、三種類の写本を参照して最良のテクストを得るよう努めた、と記しているが、それから今日までに十種を越える写本が発見されている。
※ゲッツはゴットフリートの愛称。したがって本書の著者名はゴットフリートであるが、すべての版がそうしているように、ゲッツで記述されている。
※フェーデ(時に「私闘」と訳される)とは本来、ゲルマン法にあった『自力救済権』にもとづいたものであった。中世盛期までは、豪族のあいだで臣下が殺されたとか領地の境界線がずらされたとかいった争いが持ち上がったとき、いちいち皇帝に訴え出ていたのでは間尺に合わないと、たがいが力で解決するという道が認められていた。これが本来のフェーデであったが、ゲッツの頃になると、一部の騎士たちはこの自力救済権(ファウストレヒト)を勝手に拡大解釈して、繫栄している都市を狙い、またときには大貴族をも相手に、権利を侵されたという口実をもうけてはフェーデをしかけ、和解金をせしめようとした。
フェーデには約束事があり、本来の襲撃に先立って書状(本書では果たし状と訳す:要求とその根拠を明記した文書)を相手方に送ることになっていて、これに反した場合は卑怯者(フェアレーター:本来は「裏切り者」の意)と見なされた。
ただし、大半のフェーデでは襲撃が成功してから果たし状が送られた。
ユンカー(騎士見習い):騎士という称号は父から子へ伝えられるものではなく、騎士になろうとする者は慣例に従ってそのためのあらゆる段階を踏まなければならず、もしもそれが終えられなければ、いつまでも騎士見習いのままであった。
年齢が、一般に騎士となることのできた二十歳前後
『騎士の牢』という権利:騎士の場合は、指定された場所にとどまることを誓えば入牢を免れる、という権利があった。1515年捕虜となったゲッツは塔への幽閉を免れ、宿屋で軟禁状態となった。こうした待遇は騎士の牢と呼ばれ、夫人も同居、友人の来訪も自由、という恵まれたものであった。
自分の屋敷にとどまっていただきます:人質にした騎士にたいし、自分の騎士としての名誉にかけて、自分を捕らえた人間の要求が満たされるまでは自宅から離れない、と誓わせることをいう。
クンツ:コンラートの愛称
スタフーゼン:エウスタヒウスの略
イェルク:ゲオルクの短縮形
俗に言う猫に鈴を付ける役を引き受け、この件を解決しよう
帝国は戦士たちを差し向けた。このときの告発状(ファインツ・プリーフ)を見れば明らかだ。そして追放と重追放に処せられた。
※最初のアハト刑(帝国追放刑)が宣告され、二度目すなわち重追放(略)
教会に行けば坊主ども(プフアツフエン)が、説教壇の上からこのわしにむかって火のついた蠟燭を投げつけ、さっさと空を飛ぶ鳥に食われてしまうがいい、とぬかす始末だった。
※アハト刑(帝国追放刑)の宣告は、『フォーゲルフライ』すなわち『いっさいの法による保護の剝奪』を意味した。フォーゲルフライとは「鳥のように自由」の意である。またカトリック教会では破門宣告の際に火のついた蠟燭を投げつけることになっていた
※アハト刑の宣告とともに、ゲッツが受け取っていた封土は皇帝の指名した委員により旧の所有者に戻され、もとからの完全所有地は皇帝の役人により没収されることになっていた。
復讐放棄の宣誓(ウアフェーデ)
「Leck mich im Arsch!」(くそったれ!、直訳は「俺の尻をなめろ!」)
※ドイツ人が「ゲッツと聞けば誰もが思い浮かべる」という言葉。
万聖節の日:十一月一日、先祖の墓参りをする
うべなって:もっともであると思う。同意する。
書名:保健室には魔女が必要
著者:石川宏千花(いしかわひろちか)
出版:偕成社
内容:語り手の「わたし」は魔女で、中学校の保健室の先生として働いている。人間の世界に流通している『おまじない』の大半は魔女が生みだしたもの。自分が生みだした『おまじない』を、期限までに一つでも多く世間に定着させた魔女が勝者となる七魔女決定戦に参加している「わたし」。「学校には、おまじないが必要だ」という先代の七魔女の言葉を胸に秘め、今日も「わたし」は保健室にやってくる生徒たちの悩みを聞き、それを解決する『おまじない』を授ける。6話からなる連作短編集。
※2022年出版。収録作品「自分のきらいなところが消えてなくなるおまじない」は『鬼ヶ島通信』(2018年Autumn第70号+1号)に掲載された「保健室の魔女」に、加筆修正したものです。
書名:ページズ書店の仲間たち1 ティリー・ページズと魔法の図書館
原題:Pages & Co.(1) Tilly and The Bookwanderers
著者:アナ・ジェームス
出版:文響社
内容:マチルダ・ローズ・ページズことティリーは十一歳の少女。父親は生まれる前に亡くなり、母親はティリーが赤ちゃんの頃に失踪したため、ロンドン北部で祖父母が経営する『ページズ書店』で育った。十月のハーフタームの宿題は「今まで読んだことのない作家の本を一冊読むこと」で、本が好きなティリーには最高だ。近所のカフェの女主人メリーの息子オスカーは同級生で、宿題用の本をさがしにページズ書店にやってきた。同じ頃、書店でおかしなことが起きる。祖父母が友人と談笑しているかと思うと瞬く間に消えたり、ティリーのお気に入りの本のキャラクターである『不思議の国のアリス』や『赤毛のアン』が現われて話しかけてきたり。この出来事をティリーはオスカーに話すが、「想像上の友だち」と言われてしまう。信じてもらえずティリーは怒るが、ついにオスカーと一緒に本の中へ連れて行かれて物語の世界を体験する。実は二人は本の中を旅することができる「ブックワンダラー(本の旅人)」だと分かる。二人はティリーの祖父アーチボルドに連れられて読者と物語を守る「大英(だいえい)〝地下″図書館」へ行き本の旅人として登録する。ティリーとオスカーは本のなかで冒険を繰り広げながら、何故かティリーに付きまとう図書館員イーノック・チョークの怪(あや)しい行動や、ティリーの母親の行方を追うことに……。
※初版2018年
※作者はロンドン北部在住。
※ハーフターム:イギリスで各学期の中間にある休み
英語圏では親しみをこめて愛称でよびあうことが多い。本書でも「マチルダ」は「ティリー」、おばあちゃんの「エリザベス」は「エルシー」。また、ページズ書店をおとずれるおばあちゃんの古くからの友人「リジー」も「エリザベス」の愛称。英和辞書で「エリザベス」を調べると、エリザベスの愛称は「エルシー」や「リジー」のほかに「ベス」や「ベッツィ」など二十ほど。名前によってはいくつもの愛称がある。
「ページズ書店(英語ではPages & Co.〔ページズ・アンド・コー〕)」
クラムス:パン粉、パンくずなどの意味
アーチー:アーチボルドの愛称
金色のbee(ミツバチ)のチャームがついたネックレスを引っぱり出し、「ママの名前はBeatrice(ベアトリス)で愛称はBea(ビー)。ママも、これとそっくりのネックレスをおそろいでもっててね」
※beeもBeaも「ビー」と発音する。
「さあ、ブレイク・ア・レッグ。これは、舞台にあがる役者とかにかける言葉で、〝がんばってこい″って意味だ」
※文字どおりに訳すと「脚(あし)を折れ」という意味
コックニー(ロンドンなまり)のある声