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私的備忘録

書名:大いなる遺産 下巻
原題:Great Expectations
作者:チャールズ・ディケンズ(イギリス作家)
出版:岩波文庫
内容:贈られた遺産をミス・ハヴィシャムからと信じたピップは、ハヴィシャムの養女エステラと結婚できるものと期待に胸をふくらます。しかし、成り上がりの紳士になったピップの前に、思ってもみなかった人物が恩人として現われ……。
※1861年刊行

ジェントルマンとは語源的には「いい家柄」の意である。すなわちイギリスでは十八世紀まで爵位貴族と地主層が上流階級を形成していたが、そのうちの地主階級をジェントリといい、もともとジェントルマンとはジェントリ階級の男性を指す、つまりその身分・地位を表わす言葉だった。貴族も地主層も広大な領地を有し、そこの小作地から上がる収入で、みずからは働かずして悠々自適の生活が送れる有閑層である。
産業革命をへて、成功した新興の産業資本家たちが巨万の富を手に入れ、新たにジェントリと同じような生活を始めた。金の力で社会の上層階層にのし上がった人間はジェントルマンと名乗っても文句は出ない。ジェントルマンの証明は財産とか生活費を稼ぐための職業を持たぬこととか、従来の基準を当てはめたのでは不十分となる。さらにまた十九世紀にはアッパー・ミドル(上層中産階級)は産業資本家だけではなく、上級官吏、将校、弁護士、医師、銀行家、国教会聖職者など高度専門職のものも加わって形成された。したがって十九世紀にはジェントルマンという言葉はもはやジェントリの社会的地位や身分の人間をあらわす本来の意味ではなくなり、新たな意味あいを帯び、道徳的・精神的基準へと変化していった。
 

書名:大いなる遺産 上巻
原題:Great Expectations
作者:チャールズ・ディケンズ(イギリス作家)
出版:岩波文庫
内容:フィリップ・ピリップことピップは赤ん坊のときに両親を亡くし、姉が嫁いだ鍛冶屋のジョー・ガージャリーのもとで暮らしている男の子。ピップの育った田舎は、テムズ河下流に広がる湿原地帯だ。クリスマス・イブの夕暮れ、ピップは両親と夭折した五人の兄たちが埋葬されている教会墓地で景色を眺めていると、恐ろしげな男に出遭った。ずぶ濡れで足枷を引きずっている男は、「明朝、誰にも言わずに食料とやすりを持って古い砲台に来い」とピップを脅す。ピップが家に帰ると、癇癪持ちの姉は遅い時間まで歩き回っていたと怒る。夕食のあと、大砲の音が響いて牢獄船(ハルクス)から囚人が逃げたことを報せた。クリスマスの早朝、まだ姉が眠っている隙にピップは食糧貯蔵庫で食べ物を盗み、仲良しの優しい義兄ジョーの道具箱からやすりを黙ったまま持ち出すと、こっそり家を抜け出した。霧のなか湿原を歩いていたピップは、眠っている脱獄囚を見つけて起こす。ところが、脱獄囚は昨日の男とは別人で、ピップを殴りそこねると逃げてしまった。そのあと砲台にたどり着いたピップは、待っていた脱獄囚に要求された食料とやすりを渡した。男に別の脱獄囚のことを教えると怒りだしたので、ピップは家に帰った。家ではクリスマスのお祝いの支度で姉が忙しくしていた。午後になるとお客がやってきた。協会事務職員ウォプスル、車輪製造職人ハブル夫妻、ジョーの伯父で雑穀商パンブルチュックを迎えて食卓を囲んでいると、兵士の一隊がやって来た。二人の囚人を追跡中だという軍曹は、壊れた手錠を鍛冶屋のジョーに直してほしいと頼む。ジョーの仕事が終わると、男性客たちは追跡に同行しようと言い出し、ピップも隊列の後ろを付いて行くことになる。湿原に出た一行は水門を越え、溝の底で取っ組み合っている脱獄囚二人を見つけた。引き離されて捕まった二人だが、顔に傷のある脱獄囚が殺されそうになったと片方を告発する。ピップと顔見知りの脱獄囚はかつての相棒に怨恨がある様子だったが、皆の前で「鍛冶屋で盗みを働いた」と嘘の告白をしたあと牢獄船に連行されていった。ある日、パンブルチュック伯父の大家であるミス・ハヴィシャムからピップが山の手のお屋敷に招待される。パンブルチュック伯父に連れられて古びた陰気な屋敷サティス・ハウスの門扉に到着すると、若くて綺麗だがお高くとまったお嬢さんが対応に出て来てピップだけが招き入れられた。エステラという名前の令嬢に閉ざされた真っ暗な屋敷内を案内されて面会したミス・ハヴィシャムは古くなって黄変したウェディングドレスをまとった白髪の女性だった。時計が九時二十分前で止まった部屋の中は披露宴の準備がされたまま放置されていた。ミス・ハヴィシャムの養女だというエステラと遊ぶように言われたピップはトランプをするが、エステラから「並以下の労働者の子」と言われて傷付く。それでも美しいエステラの魅力にピップは惹かれ好きになってしまう。これ以後、ピップは定期的に呼ばれてサティス・ハウスを訪ねてミス・ハヴィシャムやエステラに会った。ウォプスル氏の大叔母が経営する夜間学校に通っていたピップは、大叔母の孫娘で祖母を手伝って教師役も務めているビディに勉強について相談して指導を受けるようになる。ピップは屋敷に出入りするうちに、ミス・ハヴィシャムの親戚の男女に会ったり、うら若いジェントルマンに初対面でいきなり拳闘の相手をさせられたこともあった。十カ月ほどこうした日々が続いたあと、そろそろピップは義兄の鍛冶屋に年季奉公に出る年頃になっていた。その事をピップから聞き出していたミス・ハヴィシャムは、屋敷にガージャリー氏を連れてくるようにと言った。言いつけ通り年季奉公契約証文を持参したジョーとピップが面会すると、ミス・ハヴィシャムは年季奉公の謝礼金として25ギニーをジョーに渡した。ミス・ハヴィシャムは遠回しにピップの訪問はこれで最後だと告げた。二人が帰宅すると、待ち構えていたパンブルチュック伯父と姉がすぐに年季奉公の契約をするように勧めた。それでジョーとピップは町役場で手続きを行い、さらには祝いの宴会まで開かれた。こうして鍛冶屋で年季奉公をすることになったピップだが、サティス・ハウスを出入りしたことで鍛冶屋の暮らしに不満を持つようになりジェントルマンに憧れるようになっていた。奉公が始まって一年ほど経ったある日、ピップが休みを貰って出かけたあと、留守宅で姉が殴り倒される事件が起きた。事件の前にジョーが雇っていた渡り職人のオーリックと姉が口喧嘩をしていたため疑われたが、彼にはアリバイがあった。姉は一命を取り留めたものの介護が必要になった。ちょうどその頃、ピップが通っていた夜間学校を経営していたウォプスル氏の大叔母が亡くなり、学校の仕事を手伝っていた孫娘のビディが失業していた。それでビディが鍛冶屋に住みこんで働くことになった。ビディはピップより少し年上だが、仲が良かった。ジョーのところで年季奉公するようになって四年目、ロンドンの弁護士ジャガーズが訪ねてきた。ジャガーズの説明では、匿名の人物がピップに莫大な財産を相続させたいと申し出ているという。条件として恩人の名前を詮索してはならないということだった。だが、ピップはジャガーズをサティス・ハウスで見かけたことがあった。しかもピップが相続する財産に見合う教育を受けるためにジャガーズに紹介された家庭教師マシュー・ポケットはミス・ハヴィシャムの親戚だった。この有難い申し出をピップは受けて、紳士修行のためにロンドンへ旅立ったが……。
※週刊雑誌『一年じゅう』(All the Year Round)に1860年12月~61年8月まで連載され、単行本として1861年刊行
※ディケンズの創作ノートによれば、作品の時代背景は1810~30年、舞台はケント州で始まるが、冒頭部のピップの年齢は七歳くらいで、ジョーの鍛冶屋に年季奉公に出るのが十四歳、上京は十八歳で、第三部では二十三歳。

エステラ:星を意味する名前

書名: 写真探偵開化帳
作者:井川香四郎
出版:講談社文ホトガラ彦馬庫
内容:明治七年(1874年)一月、警視庁大警視(警視総監)川路利良(かわじとしよし)に招聘され、日本初のプロカメラマン上野彦馬(うえのひこま)は長崎から上京した。川路に「事件現場での証拠写真を撮ってほしい」と要請されるが、彦馬は「死体を写すと客足が途絶える」と断る。川路との面談をすませた彦馬は、旧知の女医おいね(楠本いね:シーボルトの娘)が築地(つきじ)の居留地で経営する産婦人科病院を訪ねる。ちょうどおいねの娘の高子(たかこ)も居合わせており、夜になると彦馬と助手の富重利平(とみしげりへい)はおいねと高子に誘われて牛鍋屋『河童』へ食事に行った。母娘の近況を聞きながら彦馬たちが牛鍋を食べていると、パンパンと短銃が発砲される音が聞こえた。彦馬が二階の窓から眼下を見ると、誰かが駆けて逃げていく。窓の真下には、仰向けに倒れた道行(みちゆき)姿の女性。彦馬が階段を駆け下り飛び出してみれば、そこに倒れていたのは、なんと女装をした男だった。匕首(あいくち)を握った男がすでに絶命していることを確認した彦馬は、写真機材を利平に取りに行かせ、雪に残った犯人の足跡を撮影した。巡査が駆けつけて死体を改め、野次馬が集まって騒然となった頃、元会津藩士だという佐川警部が現われて検死をおいねに頼む。事情聴取された彦馬は、撮影した事件現場の写真を提出した。翌日、女装死体の身元が元「赤報隊(せきほうたい)」にいた宮下小五郎という浪士だと判明して警視庁は騒然となった。彦馬が提出した写真を手がかりに捜査した警察は、銀座のカフェーの女給を殺人犯として逮捕したが、彼女は服毒自殺してしまう。同じ日の夜、おいねの所に食中毒をよそおった三人の男が駆け込んできたが、彼らはいきなり病院に逗留していた彦馬を襲う。三人組は女給の仲間だと名乗り、彦馬に「天誅を下す!」と叫び……。新政府内の意見の食い違いから西郷隆盛らが下野し、騒然とする世情を背景に起きた殺人事件の真相は?歴史ミステリ小説。

書名:きつねの橋 巻の三 玉の小箱
作者:久保田香里
出版:偕成社
内容:平安時代、京の都。相模国碓井(さがみのくにうすい)の豪族の子、平貞道(たいらのさだみち)は郎党(ろうとう)として源頼光(みなもとのよりみつ)に仕えている。主である頼光が領地の摂津国多田(せっつのくにただ)で起きたいざこざの解決のために出かけ、居残りの貞道は故郷から出てきた父の家人(けにん)安永(やすなが)の買い物に付き合っていた。すると、遠助(とおすけ)という名前の貴族の下人(げにん)が安永に声をかけた。安永が旅の途中で一緒になったという遠助は、近江国の瀬田橋(せたのはし)で妖しい女に声をかけられ、開けてはならない小箱を届けてほしいと頼まれて預かっているという。用を済ませて故郷に帰る安永を見送った貞道のところへ、白きつねの葉月が会いに来た。前帝(さきのみかど)の姫宮であり前斎院(さきのさいいん)でもあった尊子姫(たかこひめ)を慕う葉月は、人の娘に化けて女房として仕えている。姫宮の新居である一条邸に誘われた貞道が葉月と一緒に大路(おおじ)を歩いていると、きょろきょろしている遠助の姿を見かける。遠助がつまずいて小箱を落とすと、それに驚いた牛車の牛が暴れ出す。きつねに戻った葉月が牛を宥め、貞道が牛を止めると同じ郎党の渡辺綱(わたねべのつな)が駆けよってきた。牛車の主は頼光の異母弟・源頼信(みなもとのよりのぶ)だったのだ。牛が牛車をふりまわした際に中から転がり落ちた頼信は、通りがかりの人々に笑われたことに腹を立て、原因となった男を探し出すように命じた。頼信が渡辺綱を伴って去ると、貞道も葉月と合流して一条邸へ向かった。姫宮のために市(いち)で買い求めた香木に火をつけた葉月だが、燃える香木から煙が出て姫宮が咳きこむ。葉月はあわてて姫宮を避難させ、貞道は香炉をつかんで庭に投げ、香木の火を消した。そこへ姫宮の叔父の使いだという女房・中務(なかつかさ)の君が現われ、騒ぎを見とがめて葉月を叱責する。数日後、姫宮を教育する中務の君の厳しさを葉月に愚痴られた貞道が、ふたたび一条邸を訪れると、其処には庭師として働く遠助がいた。一方、主の留守宅を守る貞道のほうは、主の異母弟・頼信の新居をさがす手伝いをすることになる。夕暮れ時に渡辺綱と他の郎党とともに貞道は「鬼殿(おにどの)」と呼ばれる廃墟に足を踏み入れた。敷地内を見て回った貞道たちは焚火跡を見つけ、渡辺綱がその事を頼信に報告すると、盗賊が出入りしていると判断した頼信は夜に現われるのを待とうと宣言する。やがて夜になると、くずれた塀から盗賊たちが現われて盗んだ品物が置かれてゆく。最後に頭目が現われると、頼信の指図で捕物が始まった。ふと塀のわきから小さな手が見えた貞道は子供がいることに驚く。子供の後ろに大人も居て、貞道が二人を捕まえてみると、大人のほうは遠助だった。貞道が詰問すると、遠助は牛が暴れたときに落とした小箱を盗んだ子供を探していただけだと説明する。とっさに貞道は建物の裏手の井戸横の草むらのなかに二人を隠した。貞道が庭に戻ると捕物は終っていた。そのとき暗い空に光が走った。不審に思った渡辺綱が止める間もなく建物の裏を見に行き、子供は見つかってしまったが見逃してもらえた。頼信たちが敷地を出て行くと、子供は女の子なのに「あやめ丸」という男の子の名前を名乗って貞道に礼を言った。あやめ丸が抱えていた小箱を開けると、透き通った玉が光っていて……。
 

書名:メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行Ⅱ ブダペスト篇
原題:European Travel for The Monstrous Gentlewoman
作者:シオドラ・ゴス
出版:新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
内容:ウィーンで精神科病院に閉じ込められていたルシンダを救出したメアリたちは、ソシエテ・デザルキミスト(錬金術師協会)の会合が開かれるブダペストを目指してオーストリア=ハンガリー帝国を馬車で旅していた。ところが、御者の父子に裏切られて崩れかけた古城シュタイアーマルクに連れて行かれてしまう。其処にはメアリの父親であるマッド・サイエンティストのジキル博士が待ち構えていた。ジキル博士はルシンダから血液を抜き取って、患者の治療に使うが失敗する。錬金術師協会に所属するジキル博士やヴァン・ヘルシングには、ルシンダを使って是が非でも実現したい野望があるというのだが……。
※2018年初版

背筋がぞくぞくしてきた――両腕に鳥肌が立っているのを感じる。古いヨークシャーの迷信を思い出して、〝誰かがお墓の上を歩いているんですよ″

書名:メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行Ⅰ ウィーン篇
原題:European Travel for The Monstrous Gentlewoman
作者:シオドラ・ゴス
出版:新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
内容:19世紀末のロンドン。数奇な巡りあわせで出会った五人のモンスター娘――科学者ジキル博士の娘メアリ、ジキル博士の裏の顔である犯罪者ハイドの娘ダイアナ、獣人の研究者モロー博士が造り出したピューマ娘キャサリン、人造人間を探求したフランケンシュタインに死体から蘇生されたジュスティーヌ、医師にして植物学者ラパチーニ博士の「毒をもつ娘」ベアトリーチェ――は、自分たちの父親が所属していたソシエテ・デザルキミスト(錬金術師協会)を調べるために「アテナ・クラブ」を結成し、メアリの家に同居している。中世の錬金術師が行っていた物質の変成突然変異の研究を、父親たちは若い娘を実験台にして試み、メアリたちが誕生したのだと知ったものの真相を探る手がかりは少ない。八月下旬、オーストリアのウィーンから手紙が届く。メアリのかつての家庭教師ミス・ウィルヘルミナ・マリーが転送してきたのは、錬金術師協会の有力会員であるヴァン・ヘルシング教授の娘ルシンダからの手紙だった。父親の実験台にされている自分を救い出してほしいという。「アテナ・クラブ」の面々は計画を立て、メアリは雇い主である名探偵シャーロック・ホームズに事情を話して休暇を願い出た。ホームズは予定があって同行できないが、ウィーンでの伝手としてアイリーン・ノートンに手紙を出そうと言われる。さらにメアリたちの計画では日数がかかりすぎることを指摘したホームズは、解決策として資金提供を申し出る。「ルシンダが消えた」という電報を受け取った直後だったこともあり、メアリたちは提案を受け入れた。だが、精神科病院の院長セワードを探っていたキャサリンは、プレンディックがまだロンドンにいて活動していることを知り、ウィーンには行かず残留することになる。男装して「ジャスティン・フランク」と名乗るジュスティーヌと妹を装うメアリが英国海峡をフェリーで渡るが、密航して後を追ってきたダイアナに気付いて合流する。パリからオリエント急行でウィーンを目指す三人に、ハインリッヒ・ヴァルトマンと名乗る大学生が近付き……。
※2018年初版

キャット:キャサリンの愛称
キャサリン→カテリーナ(イタリア語)→カトリン(ハンガリー語)
ビー:ベアトリーチェの愛称
ダイアナ→ディアーヌ(フランス語)
アーチー:アーチボルドの愛称

書名:鯉姫婚姻譚
作者:藍銅ツバメ(らんどう)
出版:新潮社
内容:呉服店の跡取り息子だった孫一郎(まごいちろう)は商才がなく、店に大損害を出して妻にも愛想をつかされて離縁されてしまう。父が亡くなると、優秀な異母弟・清吉(せいきち)が店の跡を継ぎ、孫一郎は二十八歳にして若隠居の身の上になった。ところが、亡父が遺した隠居用の屋敷で暮らし始めると、庭の池には人魚が飼われているではないか。腰骨から下は鯉のような尾鰭をもつ十歳くらいの童女に見える人魚は、「おたつね、孫一郎と夫婦になってあげようと思うの」と言い出す。おたつは亡父に孫一郎のことを頼まれたという。孫一郎は人と鯉では夫婦にはなれないと諭すが、おたつは納得しない。夫婦になればずっと一緒にいられて幸せに暮らせると主張した。孫一郎は人と人じゃないものが夫婦になったら結末は酷いものになると説明する。すると、「お話をきくのは好き」だと言うおたつが話をねだった。それで、孫一郎はねだられるままに人と人以外のものが夫婦になって悲しい終わりを迎えたお話を語り始める。『猿婿』『八百比丘尼』『つらら女』『蛇女房』『馬婿』、移ろう季節とともに孫一郎は語って聞かせ、寒くなると人魚は池の底で眠って動かなくなった。暖かくなると、冬眠から目覚めたおたつは急激に成長しており十三歳くらいの見た目になっていた。お話を語り始めて一年が過ぎた頃、おたつは池を出ていくと言い、水の沢山ある所へ連れて行ってほしいと頼む。おたつに着物を着せて髪を結い、孫一郎は親戚の娘を湖見物に連れて行くということにして、駕籠に乗せて運ぶことにしたが……。
※2022年初版
 

書名:新訳 アンクル・トムの小屋
原題:Uncle Tom's Cabin (全二巻)
作者:ハリエット・ビーチャー・ストウ(アメリカ作家)
出版:明石書店
内容:19世紀半ばのアメリカ。ケンタッキー州P町の農園主シェルビー氏は、借金のために自分の所有する奴隷を売却しなければならない。債権者でもある奴隷商人ヘイリーと自宅で交渉するシェルビー氏は、忠実で有能な黒人奴隷トムを手放すことにする。しかし、ヘイリーは納得せずに子供の奴隷も要求しているところに、五歳くらいの混血の子供ハリーが部屋に入って来る。ハリーを気に入ったヘイリーが売却を迫ると、子供の母親である混血奴隷娘エライザがやってきて息子を連れて出て行く。若く美しいエライザを見たヘイリーは彼女も売ってほしいと言うが、シェルビー氏は断った。だが、部屋を出て行く途中だったエライザがドアの所で二人の商談を小耳にはさむ。ショックを受けたエライザは仕事を失敗し、女主人に理由を聞かれて売却される不安を訴える。エライザを宥めたシェルビー夫人は、夜になると寝室で夫にその件について話す。すると、シェルビー氏が奴隷商人にトムとハリーを売ったと認めたので、妻は嘆き悲しみ奴隷制度を呪う。夫妻の寝室には大きな納戸が続いており、其処に隠れて話を聞いていたエライザは音を立てずに外の廊下へ出て行った。エライザは自分の部屋に戻って荷物を用意すると、子供を抱きかかえて屋敷を出た。屋敷の隣りには丸太小屋が建っており、アンクル・トムと家族が住んでいる。その日の夕方、アンクル・トムは丸太小屋で十三歳になる若主人ジョージからアルファベット文字の書き方を習っていた。小屋の台所ではお屋敷の料理人でもあるトムの妻のクロウおばが夕食を調理しており、トムの家族とジョージは食卓を共にした。夕食のあとは小屋で週に一回の祈禱集会が開かれ、ジョージも参加して集まった黒人たちに聖書を読んで聞かせた。集会が盛り上がって長引いた結果、トムとクロウおばは真夜中過ぎになっても起きていた。そこへ子供を抱えて屋敷を逃げ出したエライザが立ち寄り、自分の子供とトムが主人の借金のために売られ、明日になれば奴隷商人が引き取りに来ることを教える。クロウおばは夫に今すぐイライザたちと一緒に逃げるように勧めるが、自分が売られなければ債権者によってお屋敷と奴隷たちが売り払われてしまうと知ったトムは断る。主人の信頼を裏切れないと言ったあと、トムは泣き崩れた。エライザは他家の奴隷である自分の夫へ「カナダへ逃げる」と伝言してほしいと頼むと立ち去った。エライザの夫はジョージ・ハリスという名前の混血の青年奴隷で、シェルビー氏の近隣の地主ハリス氏が所有していた。ジョージは主人によって麻布工場に賃貸しされて働いていた頃にエライザと知り合って結婚した。だが、聡明なジョージが麻の繊維を洗浄する機械を発明すると、彼の主人は劣等感を刺激され、麻布工場との賃貸契約を解除した。引き留める工場主を振り切ってジョージを連れ戻すと、主人は農園での苦役に就かせて虐待するようになった。しかもシェルビー氏を嫌うハリス氏は、他の女奴隷を妻にしなければジョージを深南部に売り飛ばすと脅した。とうとう我慢できなくなったジョージは、カナダへの逃亡計画を立てていることをエライザに打ち明けていたのだ。ジョージが決意を告げた同じ日に、奴隷商人に二人の息子ハリーが売られ、エライザは子供と引き離されまいとして逃げ出すことになった。朝になると、母子が逃げたことが発覚して屋敷は大騒ぎになる。そこへ馬にまたがった奴隷商人ヘイリーが現われ、事態を知って激怒する。ヘイリーが奴隷の逃亡についてシェルビー氏を責めると、自分の潔白を証明するために捕獲の人員を貸し出すと言われる。お屋敷の黒人奴隷サムとアンディは馬に乗ってヘイリーの道案内をするよう言いつけられる。少年奴隷アンディは寝起きの主人に髭剃り用の水を運んだ際に見聞きしたことをサムに伝え、奥様はエライザと子供に捕まってほしくないのだと教える。サムが厩から二頭の馬をお屋敷に連れてくると、シェルビー夫人がバルコニーに出てきて言った。「馬をあまり速く走らせないようにしてね。先週から少しびっこをひくようになったわ」サムは尖ったぶなの実を拾ってヘイリーの馬に近づくと、鞍の調節に見せかけて鞍の下に小さな実を入れておいた。それでヘイリーが出発しようと馬に乗った瞬間、馬は地面からはね上がって騎手を放り投げた。ヘイリーが落馬するとサムは叫び声をあげて手綱に飛びついたが、馬は振り切って飛び跳ねていった。アンディも二頭の馬の手綱を放し、大声を出して駆けまわった。逃げて行った三頭の馬を追いかけまわして捕まえた時には12時近くになっており、疲れ切った馬を休ませるためにもヘイリーたちは昼食をとることにした。午後になってようやく出発したヘイリーたちは、奴隷が逃亡する際に通る地下鉄道のルートを辿ることにした。だが、道案内のサムはわざと遠回りになるような道へ誘導する。一方、子供を連れて逃げたエライザは自由州のオハイオ州へ行くためにオハイオ川のほとりの村にたどり着いたが、2月の川はたくさんの流氷でせき止められて渡し船が通えない状態だった。川岸の宿屋に入ったエライザが渡し船について尋ねると、女主人は夜に一艘だけ荷物を運ぶ船が出ると答える。仕方なく母子が宿で休みながら船を待っていると、彼女たちを探して奴隷商人たちがやってきた。馬を駆けていたサムは窓辺に立つエライザの姿を目にすると、わざと帽子を吹き飛ばして叫び声をあげた。その声にはっとしたエライザは、一行が正面の入口にまわって行くと、部屋の横の出口から川岸へ出た。子供を抱きかかえて逃げて行くエライザの姿を見つけたヘイリーは後を追った。追い詰められて絶望したエライザは川岸から飛んで流氷に乗り、死に物狂いで次々と流氷の上を飛んでいった。靴は脱げ、ストッキングは破れ、血の足跡を残しながらオハイオ側の川岸を目指したエライザを、一人の男が手を貸して土手から引き上げてくれた。エライザが土手の上から姿を消すと、サムは自分にはこの川を渡れないと言ってアンディと一緒に屋敷へ帰ってしまった。一人になったヘイリーはむしゃくしゃした気持ちで宿屋に戻った。これからのことをヘイリーが考えていると、新たな客たちが戸口にやってきた。新来の二人連れの片方は、かつてヘイリーと一緒に仕事をしていたトム・ローカーだった。これは幸運が巡ってきたとヘイリーは挨拶に行き、トムの相棒マークスを紹介される。ヘイリーは二人に酒をおごり、自分に起きた災厄について話した。話を聞いたマークスは、自分たちに母子を捕まえてほしいのかと確認する。ヘイリーは母親のほうはシェルビー氏の持ち物なので関係ない、子供のほうだけだと答える。母親が若くてきれいな奴隷娘だと知ったマークスは、母子を捕まえたら母親のほうはニューオーリンズで売って一儲けしようと計画を立てる。トム・ローカーは子供を捕まえる手間賃として五十ドルをヘイリーに支払わせると、川を渡って母子を追跡することにした。一方、屋敷に戻ったサムとアンディは、氷の流れる川を渡って自由州にエライザが逃亡したとシェルビー夫妻に報告した。シェルビー夫人は神に感謝し、屋敷の黒人奴隷たちも喜んだ。翌朝、アンクル・トムは家族と最後の食事をとって荷造りをした。そこへシェルビー夫人が来て、お金が出来次第トムを買い戻すと約束する。そのとき奴隷商人ヘイリーがやって来て、トムを馬車に乗せた。お屋敷中の使用人に見送られながら、トムたちは出発した。途中、若主人ジョージが馬で追いかけてきた。ジョージは遊びに出かけていたのだが、トムが売られることを知って追いかけてきたのだ。トムを連れ戻すと約束したジョージは、約束を思い出せるようにと一ドル銀貨に穴をあけて紐を通し、トムの首にかけた。若主人と別れの挨拶をかわしたトムは、奴隷商人が買い集めた奴隷たちと一緒にニューオーリンズ行きの船に乗せられた。船の乗客のなかに、金髪に青い瞳の六歳くらいのエヴァンジェリンという名前の女の子がいた。エヴァは船中どこにでも出入りして元気に飛び回っていた。エヴァは鎖につながれた奴隷たちを見ると、飴や木の実や果物を持って来て渡した。子供好きのトムは、小枝や果物の種を使って子供が喜ぶオモチャを作ってエヴァに渡した。あるときエヴァが船から落ち、トムが助ける出来事が起きた。エヴァは父親にトムを買い取ってほしいとねだる。エヴァの父親はオーガスティン・セント・クレアという名前の、ニューオーリンズに住む財産家の紳士だ。セント・クレアはヴァーモントの親戚の家を訪ねた帰りで、病弱な妻の代わりに家庭の面倒をみてもらうために従姉のオフィーリアをともなっていた。セント・クレアに買い取られたトムは、ニューオーリンズのお屋敷で御者を務めながらエヴァの遊び相手をするようになる。セント・クレアは奴隷に対して甘すぎるくらいの寛大な主人だった。ところが、エヴァが病に倒れ……。
※『アンクル・トムの小屋、卑しい人々の生活』(Uncle Tom's Cabin; or Life among the Lowly)は、1851年6月から翌年の4月にかけて、奴隷制廃止論者たちの機関誌の一つ『ナショナル・イアラ』(National Era)に連載され、大きな反響があった。まだ連載が終わらない1852年3月に単行本として出版された。
※現代では「Uncle Tom」は軽蔑語・蔑称を意味する。辞典には「白人に対して卑屈に媚びへつらう黒人」という意味で記載されている。物語当時の黒人コミュニティでは、年上の男性や女性に「uncle(おじ)」や「aunt(おば)」の呼称をつけた。

※深南部:ミシシッピー川下流域の農園では、奴隷たちのおかれた状況は最悪だった。奴隷たちは「深南部に売られる」ということを、酷い目に合わされることと同義にとった。

※地下鉄道:南北戦争以前、奴隷がカナダや北部の自由州に逃亡するのを助けるため、白人や黒人によって組織されていた秘密組織の逃亡ルート。

リジー:エライザの愛称
ソル:ソロモンの愛称
オーガスト:オーガスティンの愛称
フィーリィ:オフィーリアの愛称
エム:エメリンの愛称
キャス:キャシーの愛称

近所の人々から、短く郷士シンクレアと呼ばれていたオフィーリア・セント・クレア嬢の父

「エヴァンジェリン!何てお前にふさわしい名前だ。神様は、お前を、私への一つの福音として、造りたもうたのではないだろうか?」
エヴァンジェリスト:福音伝道者