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私的備忘録

書名:翳(かげ)深き谷 上巻
原題:Valley of The Shadow
著者:ピーター・トレメイン(イギリス作家)
出版:創元推理文庫
内容:666年7月、アイルランド五王国の最大王国モアン(現マンスター地方)。ある事件を契機にキルデアの聖ブリジッド修道院を退いたフィデルマは、生家のキャシェル城に戻っている。そんな彼女に、国王である兄コルグーが一つの任務を与えた。いまだ古の神々を信奉する民が住まうモアン王国内の秘境である『グレン・ゲイシュ(禁忌の谷)』に赴き、国王の代理として同地の族長ラズラおよび指導者層と、同地にキリスト教の教会と学問所を設立するにあたっての折衝をしてくるよう要請されたのだ。カンタベリー大司教から使節として遣わされモアン王国に滞在しているサクソン人修道士エイダルフを伴い、現地に向かったフィデルマは峡谷の近くで、三十三名もの若者が惨殺されているのを発見する。全裸の若者たちは『三重の死』と呼ばれる方法で殺害されたうえに、『太陽回り』の円形に配置されており、異教の生贄の儀式を想起させた。キリスト教を拒み、先祖古来の神々を信仰し続けるグレン・ゲイシュの異教徒たちによる蛮行なのか?任務を遂行するために現場を離れたフィデルマは、グレン・ゲイシュの兵士を率いた族長の妹オーラに遭遇する。オーラに事件を知らせたフィデルマは、彼女の案内でグレン・ゲイシュに到着する。そこで、ウラー王国(現アルスター地方)のアード・マハからの使者である修道士ソリンが居ることを知った。ソリンは、自分の所属する教会がアイルランド内の最上位であると主張するが、何故グレン・ゲイシュに居るのか明確な理由を説明しない。そのうえ訪問の目的である折衝は全く進展しない。フィデルマが話し合いを行おうすると、神学論争を仕掛けられてしまうのだ。グレン・ゲイシュの指導者層から一般人に至るまで、多くの人々がキリスト教に対して反感を示したのである。フィデルマは宗教論争を中断させ、キャシェルへ戻ると発言するが……。
※1998年初版
※本書は『修道女フィデルマ』シリーズの長編第六作
※著者の本名は「ピーター・ベレスフォード・エリス」。有名なケルト学者。
※ある事件とは、短編集『修道女フィデルマの洞察』に収録されている「晩禱(ばんとう)の毒人参(ヘムロック)」のことである。
※カンタベリー:ケント王国の大寺院

ハイ・キング:大王
プロヴィンシャル・キングダム:上位王国
クラン:氏族
オナー・プライス:名誉の代価
ミード:蜂蜜酒
ピッチャー:柄付き水差し
筆記盤:この時代、重要な文書は、もちろん羊皮紙に記録されていたが、普通の、あるいは臨時の記録には、高価なヴェラム(上質羊皮紙)ではなく、石板や粘土板が使用された。『修道女フィデルマ』シリーズの中に、木製の浅い箱(ふね)に粘土を延ばし、鉄筆で記録するという描写が、よく出てくる。

清潔は、敬神に次ぐ美徳:身体の清潔に対する諺

スグリなどの漿果(ベリー)で眉を引き、唇も真っ赤に塗っている

香りを加えて固めた油脂、つまり石鹼を用いる。これをリネンの布に擦りつけて、泡立てるのである。
 

書名:乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…13巻
作者:山口悟
出版:一迅社文庫アイリス
内容:日本の女子高生だった「私」は、乙女ゲーム『FORTUNE・LOVER』の悪役令嬢カタリナ・クラエスに転生した。カタリナは頑張って破滅フラグを無事回避し、友情エンドで魔法学園を卒業した。そして、魔法省で働くことになったカタリナだが、ゲームに続編が存在することを知る。しかもカタリナは続編でも悪役だという。新たな破滅フラグを回避するために頑張るカタリナだが、何故か『闇の使い魔』やら『闇の契約の書』やら悪役のアイテムを手に入れてしまう。カタリナは学園の先輩で今は職場の上司であるラファエルの指導で闇の魔法の訓練に励んでいるが、ある日、ソルシエ国の友好国エテェネルの王弟セザール・ダル王子が留学してくることを知る。カタリナとセザール王子は、少し前にあった近隣諸国の会合で出会って互いの身分を知らないまま仲良くなった。ところが、セザール王子はゲーム続編の隠し攻略対象であることが分かった。続編の情報はほとんど無いものの、留学はゲームのイベントではないかとカタリナは推測する。婚約者のジオルド王子から留学の目的の一つに婚約者探しも含まれると聞いたカタリナは、セザール王子を避けようと決意する。しかし、王宮で女性達に囲まれているセザール王子に対して、ついつい助け舟をだしてしまったカタリナはお茶に誘われて……。
※『小説家になろう』サイトから書籍化したWeb小説。
 

書名:鏡の迷宮 パリ警視庁怪事件捜査室
原題:Le Bureau des affaires occultes
作者:エリック・フアシエ(フランス作家)
出版:早川書房 (HAYAKAWA POCKET MYSTERY)
内容:1830年秋、七月革命直後のパリ。前途洋々たる代議士の子息リュシアン・ドーヴェルニュが、実家の館で開かれた盛大な夜会のさなか、魅せられたように鏡に見入ったあと、母親の面前で二階の窓から身を投げるという不可解な死を遂げた。婚約発表を控えていた青年が、なぜ唐突に自殺したのか?事件の捜査を任されたのは、二十三歳の若き警部ヴァランタン・ヴェルヌ。ヴァランタンは四年前に父を事故で失ったことで化学者から警官に転身し、パリ警視庁の風紀局で働くようになった。そして、仕事とは別の私的な事情から「ル・ヴィケール(助任司祭)」と呼ばれる幼児性愛者の男を追っていた。しかし、ヴァランタンは治安局への突然の異動とともにこの事件の担当を命じられる。ヴァランタンは死体安置室でドーヴェルニュ家の主治医テュソー氏から「自殺」と断言されるが、至福に満ちた表情を浮かべるリュシアンの遺体を見たことで不自然だという気持ちを抱く。次にドーヴェルニュ家を訪れたヴァランタンは、被害者の妹フェリシエンヌから兄が出入りしていた酒場の情報を入手する。『冠を戴く雉(きじ)たち』亭には共和主義者たちが出入りしており、そこで秘密結社の会合が開かれているという。元徒刑囚にして元治安局長の探偵ヴィドックの助けを借り、ヴァランタンが捜査を進めていくうちに、現体制に不満を持つ者たちの陰謀の影がちらつく。科学と薬学の知識を武器に奇怪な謎を解くため奔走するヴァランタンの身にも危険が迫り……。ルイ=フィリップを国王に据えた立憲君主制『七月王政』時代の歴史ミステリ。
※2021年初版
※作者は法学と薬学の博士号を持ち、大学教授として薬事法と薬事経済を教え、薬の歴史を紹介する小さな博物館で学芸員も務めている。

社交シーズン:当時のパリの夜会シーズンは十二月から復活祭まで。五月を過ぎると富裕層は田舎に遁世し、都に戻るのは晩秋になってからだった。

テリアカ:ローマ時代より作られてきた万能の解毒薬

驚異の部屋:珍品を保管、陳列する部屋

「馬銭子(まちんし)というアフリカ原産の植物からつくられた毒性の強い物質です。1818年にパリ薬学高等学院のペルティエ教授が初めて抽出に成功し、『ストリキニーネ』と名付けました」
「これは神経系に作用する薬です。肺活量を増大し、感覚を鋭敏にする治療効果があるとされています。ですが過剰に摂取すると筋肉が引きつり、一定量を超えると痙攣、心停止、さらには窒息死を引き起こす恐れがあります」

「有毒なナス科の植物だ。なかでも『三つの悪魔』と呼ばれる植物について」
「ベラドンナとチョウセンアサガオとヒヨスですね」
「『三つの悪魔』と呼ばれているのは、魔女集会で悪魔を呼び出すのにこれらの植物が使われたとの言い伝えがあるからです。みな毒性があり、死に至らしめる危険がある」
「ヒヨスは『美しき眠り草』とも呼ばれている。なぜなら、現実を感知する力を損ない、水薬として摂取すると二度と起きあがれない眠りに導くことすらあるからだ。(略)それら成分の主なものとは、非常に強力なアルカロイドだ」
「ベラドンナについては……ルイ=ニコラ・ヴォークランが帝政期にその主成分となるアルカロイドを単離することに成功した。そしてそのアルカロイドは数年前、ドイツの薬剤師によってアトロピンと名付けられた。これは命の糸を断ち切るとされているローマの神、アトロポスにちなむものだ。これの中毒症状としては、不安やめまいのほか、幻覚や痙攣発作が挙げられるが、昏睡したり、心肺器官が麻痺して死にいたる恐れもある。チョウセンアサガオもアトロピンを含んでいるが、まだ純粋な形では分離されていないアルカロイドも大量に入っている。そしてそれらもまた、錯乱や不安をかき立てる幻覚を引き起こす。(略)最近、プロイセン科学アカデミーで発表した論文を読んだのだが、そこではまだきちんと特定されていないこれらの成分のせいで中毒症状を起こした人が意識を失くし、そのあと記憶を喪失する可能性があると書かれていた(※チョウセンアサガオの主要アルカロイドであるスコポラミンがシュミットによって単離されたのが1892年のことで、以来、詐欺や強姦などの犯罪で使用されている)」

ジレ:胴着

「貴族を表す『ド』の小辞は飾りにすぎん」

アシル:ギリシャ神話の英雄アキレスの仏語名
 

書名:あの図書館の彼女たち
原題:The Paris Library
作者:ジャネット・スケスリン・チャールズ
出版:東京創元社
内容:1939年パリ。20歳のオディールは、本と図書館を愛するパリジェンヌ。今は疎遠になった大好きなおばの影響で幼いころから図書館に慣れ親しんで育つ。図書館学校で学んだオディールは、目につく全てのものをデューイ十進分類法の数字に変換するほどになった。そんなオディールは、女性は仕事などせず家庭にいれば良いという厳格な父親の反対を押し切り、アメリカ図書館の面接を受ける。念願かなって司書として採用されたオディールは、張り切って働き始める。女性館長や同僚、そして個性豊かな図書館利用者たちとの絆を深めていく。私生活では、警察署長の父親が日曜日の昼食に次々と部下たちを招待して引き合わせるのにうんざりしていたオディールだが、14人目に紹介されたポールと惹かれ合う。だが、折しも第二次世界大戦が始まろうという不穏な時代、やがてパリはナチス・ドイツに占領され、志願兵として戦場へ行った双子の兄弟レミーも捕虜となる。オディールの勤める図書館は病院や戦地にいる兵士に本を送るプロジェクトに取り組むが、ドイツ軍がパリを占領すると図書館の存続さえ危ぶまれるようになる。そんななかユダヤ人の図書館利用者に危機が訪れる。オディールは仲間と共に奔走するが……。
時は流れ、1983年米国モンタナ州フロイド。12歳の少女リリーは、『戦争花嫁』と呼ばれる孤独な隣家の老婦人オディールに興味をもつ。学校に提出するインタビューを口実に彼女と知り合いになったリリーは、隣家に出入りしてフランス語を教わるようになり、二人の間には世代を超えた友情が芽生えていく。だがリリーは、次第にオディールの謎めいた過去が気になり始め……。
※2020年初版
※作者は米国モンタナ州とパリに拠点を置く女性作家。パリのアメリカ図書館でプログラム・マネジャーとして働いた経験を活かし、本書を執筆した。
※『訳者あとがき』によると、本書の主人公オディールの働くパリのアメリカ図書館は、現在もパリに実在する図書館である。第一次世界大戦中にアメリカの図書館から戦地の兵士たちに送られた多数の本を基にして、『戦争という暗闇のあとに、本という光がある』という旗印を掲げ、1920年にアメリカ図書館協会と議会図書館によって創設された。これは単なる図書館というだけではなく、パリにありながら英語の書籍や定期刊行物を提供する、アメリカ文化の情報発信地であり、当然、利用者も職員もフランス人とは限らず、アメリカはもちろん色々な国からフランスへやってきた外国人が多く出入りする。貴重な文化交流の場であると同時に、世界大戦中には危険な場所とみなされることもあった。1940年から1944年まで、パリはナチスの占領下にあり、パリ市内の外国の図書館の多くが閉鎖され、アメリカ図書館はかろうじて活動を続けられたが、ユダヤ人の利用は禁じられた。そこで当時の図書館長ドロシー・リーダーと職員たちは、戦地の兵士たちに本を送るのと並行して、図書館に登録していたユダヤ人利用者たちに本を届けるという、秘密のサービスを始めた。1941年にリーダーがアメリカに帰国したのちは、シャンブラン伯爵夫人がその跡を継いで、この図書館は占領下のパリにおける『自由な世界への窓口』であり続けた。パリのアメリカ図書館は、2020年に創設百年を迎え、今日でも多くの利用者に愛されている。
※本書の出来事は実際の人間や事件に基づいているが、作者は幾つかの要素を変更している。物語の中のエピソードは手が加えられており、登場人物や本なども実在するものとしないものが混在している。

「妊娠していたとき、あなたのパパと一緒に窓辺の椅子に座って、コマドリ(ロビン)を観察した。あなたはもう少しで、ロビンになるところだったのよ。あなたが生まれたあと、看護師さんに、そう名づけようと思うと話した。でもパパはリリーにしたがるだろうとわかってた。この家を買ったとき、スズラン(リリー・オブ・ザ・ヴァリー)が咲いていたからよ」

ミュリエル・ジュベールとは会ったことがなかった。同い歳ぐらいの女性、黒髪を編んで頭の上にまとめているが、それでも百五十センチあるかないかだった。
「アドモアゼル・ジュベールかしら?」
彼女はビッツィと呼んでくれと言った。テキサス出身の登録者が彼女を見て「なんと、イッツイ・ビッツィ(ちっちゃい)お嬢ちゃんだ!」と叫んでから、みんながそう呼ぶようになった。
 

書名:騎士から逃げた花嫁
原題:From This Moment On
作者:リン・カーランド(アメリカ作家)
出版:竹書房・ラズベリーブックス
内容:13世紀。フランスの海岸に建つメニュレイ・シュル・メールの城では、領主の末娘シビルが、行き先も知らされずに嫁ぎ先に向けて旅立とうとしていた。二年前からシビルの世話係を務める騎士アンリも護衛として同行する。実は、アンリは二十歳の女性が変装した姿。本名はエレオノールで、メニュレイ・シュル・メールの領主の盟友であるソロングの領主の娘。子どもの頃から継母マリーに虐待されていたエレオノールは、二年前に「バーカムシャーの殺戮者」と呼ばれる悪名高いイングランドの騎士コリンとの縁談が決まった。継母からコリンの悪行を吹き込まれたエレオノールは、恐れをなして逃げ出した。生家を出奔したエレオノールは旅の途中で領主夫人イザボーに拾われ、彼女の配慮のおかげで今まで無事に過ごせていたのだ。エレオノールの亡き実母の友人だというイザボーは、アンリの正体に気付いていたのである。シビルと共に旅に出るエレオノールに金貨を渡したイザボーは、「海を渡った後は、シビルと離れて新しい人生を築きなさい」と助言する。だが、海を渡ってイングランドに着いてからも、エレオノールは旅の一行から離れられないでいた。シビルの護衛として同行している騎士エティエンヌが横柄なうえに攻撃的で、エレオノールは暴力を振るわれており逃げる隙を見つけられないでいた。一行が長旅の末にたどり着いた場所は、イングランドの島に建つブラックモア城。この城の城主クリストファーは、バーカムシャーの騎士コリンの親友なのだ。そして今、ブラックモア城にコリンが滞在していて、なんとシビルの縁談の相手はコリンだったのだ。バーカムシャーの跡取り息子であるコリンは三十二歳で、父親から次々に押しつけられる縁談にうんざりしている。しかも、花嫁候補者たちは、ありとあらゆる理由でコリンとの結婚を断ってきた。会ってもいないのに断られてしまう訳は、醜い容姿のせいか、それともイングランドどころかフランスにまで轟き渡っている極悪非道の評判のせいか。フランスのソロング領主の娘エレオノールに至っては、二年前に破談理由すら告げずに失踪してしまっている。アキテーヌの相続人にして美貌の王妃エレオノールと同名の名前に心惹かれていたコリンは、内心ひどく傷つき、その場の勢いで、もしソロングのエレオノールを見つけたらこの手で殺すと宣言した過去がある。自分を殺すと宣言した男に出会ったエレオノールは、何とかブラックモア城を脱走しなければと考える。ところが、コリンの方は持ち前の騎士道精神を発揮して、軟弱なアンリをいっぱしの騎士に育てようと決心する。エレオノールは男に身をやつしてまで避けてきた元婚約者に剣術を教わるはめに陥り、いつ自分の正体が露見するか不安を抱えながら綱渡りのような毎日が始まる。そんななか横暴な騎士エティエンヌも暗躍し始め……。
※2002年初版

アンリ:ヘンリーのフランス語読み

殺戮者(ブッチャー)
肉屋(ブッチャー)

書名:ケイレブ ハーバードのネイティブ・アメリカン
原題:Caleb's Crossing
作者:ジェラルディン・ブルックス
出版:平凡社
内容:米国マサチューセッツ州マーサズ・ヴィニヤード島グレートハーバーで生まれ育ったベサイア・メイフィールドは、特許状を得て島を管轄している植民地行政官を祖父に、島の先住民ワンパノアグ族への福音宣教に熱心な牧師を父にもつ少女。1660年3月、父に師事して勉学を学ぶためにワンパノアグ族の少年ケイレブ・チェーシャトゥーモークが家に下宿する話を聞いた15歳のベサイアは、三年前の彼との出会いを振り返って手記をしたためる。12歳の春、双子の弟を亡くして間もないベサイアは、一人で馬に乗って出かけて海岸で貝を拾っていた。そこでワンパノアグ族の少年チェーシャトゥーモークと出会ったベサイアは、先住民に布教する父から覚えた彼らの言葉を話したことがきっかけで彼と交流するようになる。お互いの言葉を教え合ったり、一緒に食事をしたりと仲良くなった二人はお互いに名前をつける。ベサイアは嵐になる前の雲の色みたいな目をしているから「ストーム・アイ」。チェーシャトゥーモークは旧約聖書の登場人物にちなんで「ケイレブ」。ケイレブはノブノケットの酋長ナーノソの息子で、おじのポーウォー(呪術師)の後継者とみなされているという。あるとき本に興味を示したケイレブに、ベサイアは教理問答書を使って読み書きを教える。秘密の友情が三年目に入ったある日、ケイレブは一人前の男になる儀式として厳しい冬を一人で耐えて生き延びる荒行に出て行った。だが、その間にワンパノアグ族の村で天然痘が流行し、ケイレブの家族を含む大勢の人間が死んだ。ワンパノアグ族のポーウォー(呪術師)が疫病を治せなかったという理由で、生き残った先住民たちはキリスト教に帰依するようになる。そして、荒行を終えて戻ってきたケイレブもキリスト教を学ぶようになる。一方、ベサイアも母親が出産で命を落とし、赤ん坊の妹の世話と家事で忙しくなったために一人歩きは出来なくなり、ケイレブとは疎遠になっていた。やがてベサイアの父は勉学の成果がめざましいケイレブを大学に進学させようと考える。その矢先に、牧師の乗った船が難破し、彼は帰らぬ人となった。父を亡くしたベサイアは後見人となった祖父に、兄メイクピースの進学費用のために年季奉公をするように指示される。奉公先はハーバード大学の準備学校を経営するケンブリッジのコールレット先生の寄宿学校だ。学校には兄と一緒にワンパノアグ族のケイレブとジョエルも入学する。1661年、17歳のベサイアはケンブリッジでの生活を書き留める――。アメリカ先住民として最初にハーバード大学を卒業したケイレブ・チェーシャトゥーモークの生涯を、友人のイギリス人入植者の娘ベサイアの視点で綴る物語。
※2011年初版
※『訳者あとがき』によると、原題のCrossingとは「渡ること」。ネイティブ・アメリカンであるワンパノアグ族のケイレブは進学のために島から本土に渡るが、この題には「異文化世界に渡ること」という意味も込められている。
※作者はオーストラリア生まれ。ジャーナリストの夫トニー・ホルヴィッツと本書の舞台である米国マサチューセッツ州マーサズ・ヴィニヤード島に暮らす。
※本書は作者が史実から着想を得たフィクションです。本書におけるケイレブの人物描写は、すべて想像の産物である。物語に登場するメイフィールド一家は、宣教師メイヒュー一家に関する伝記史料から着想を得ているが、個々の人物像はすべてフィクションであり実在の人物とは無関係である。主人公ベサイアは完全に架空の人物である。
※実在のケイレブ・チェーシャトゥーモークは、1646年前後に、当時この地のワンパノアグ族がノーエップあるいはカパウォックと呼んでいた島(現在のマーサズ・ヴィニヤード島)で生まれた。少数のイギリス人が入植した五年後のこと。父はワンパノアグの小規模な集団の酋長でした。こうした幾つかの集団が暮らしていたのはノブノケットと呼ばれる地域だが、現在はウェスト・チョップという地名で知られている。イギリス人の小集落とは十マイル離れていた。1659年、ケイレブは同じマーサズ・ヴィニヤード島出身のジョエル・アイアクーミスとともに、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるイライジャ・コールレットのグラマー・スクールに入学している。入学者の中には彼らを含めて五人のインディアンがいた。五人はマシュー・メイヒューと一緒に同校に入学している。すぐ隣にはハーバード・カレッジがあった。ケイレブとジョエルは1661年にハーバード大学に入学を許される。1665年、ケイレブはアメリカ先住民として最初にハーバード大学を卒業した人物となる。
※ハーバード大学の前身である『ニュータウンの大学』が設立されたのは1636年。マサチューセッツ湾植民地設立から六年後のこと。17世紀末までの卒業生の総数はわずか465人。ケイレブ・チェーシャトゥーモークは、そんなエリートの一人である。今日のハーバード大学は、世界に名を知られた超一流の総合大学だが、17世紀に創立された当初は、牧師養成を主たる目的としたごく慎ましやかな学校だった。当時のピューリタンの考えによると、牧師は大学教育を受けていなければならなかったので、どうしても植民地に自前の大学を設立する必要があった。実のところハーバードは、1650年の大学憲章に「イギリス人とインディアンの若者を知識と信仰において教育する」という目的を掲げている。インディアンに教養や文化を教えるだけでなく、ゆくゆくはそれを通してインディアンへの福音宣教を彼ら自身で担ってもらおう、という目論見だったのだ。1656年、二階建てのインディアン・カレッジが建てられるが、それ以前にも、少なくとも一名、ジョン・ササモンというインディアン学生がハーバードに在籍していたことが分かっている。インディアン・カレッジには、ニプマク族のジョン・プリンターが営む印刷局があり、最初のインディアン向け聖書など多くのアルゴンキン語の書物が出版された。
※グレートハーバー:現在のエドガータウン

雌馬の「スペックル(まだら模様)」に乗る

チェーシャトゥーモーク。ワンパノアグ語で「憎まれっ子」という意味。
ベサイアというのは「召し使い」という意味。
「ベサイアというのは神のしもべという意味なの」

「この字は<エイ>」砂地に<A>と書いた。「この字には読み方が二つあって、<ア>とも発音するの。こう覚えるといいわ。アダム・エイト・ジ・アップル(Adam ate the apple)」(アダムは、りんごを食べた)。

脂肪と灰汁(あく)を手に入れた。灰に混ぜて石鹸をこしらえるため。

チューター:個別指導教師
大学のフェロー
レトリック:修辞学
「一般人(コモナー)の連中(フェロー)」授業料を二倍払って講義に出席している年長の人々(フェロー・コモナー)

「僕には五人の兄貴がいる。――名前はレスト、サンクフル、ウォッチング、ペイシェンス、コンシダー――名は体を表すと言うが兄貴たちは正反対だ。でも、ちゃんとここでやっていけた。だから、アサートン家の忠告に従えば君もやっていけるさ。辛抱(ペイシェンス)強く観察(ウォッチング)しろ。そうすれば、すぐに落ち着いて(レスト)考えられる(コンシダー)ようになるし、感謝に満ちた(サンクフル)生活が送れるようになる。というか、僕はそう願う(ホープ)よ」
わたしはホープ・アサートンに微笑みかけた。