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私的備忘録

書名:後宮の検屍女官2
作者:小野はるか
出版:角川文庫
内容:後宮を揺るがした死王の事件からひと月半。中宮(ちゅうぐう)と呼ばれる皇后の住まいで働く宦官だった孫延明(そんえんめい)は、春に起きた一連の事件ののち、中宮を辞して内廷を出た。そして大夫(たいふ)として皇太子に仕えるようになったが、冤罪で腐刑を受けた経歴が足枷となって朝廷での任官を阻まれる。結局、皇帝の詔(みことのり)で『掖廷令(えきていれい)』に任じられた。後宮に住まう妃嬪や女官の管理をし、彼女たちを捕らえるための獄も管轄下にあるという要職である。先の事件を解決した功績を評価されてのことであるが、延明は覚悟して『外』に出たというのに任ぜられたのは内廷職で、複雑な気持ちである。着任は夏至の後の予定だったが、夏至の半月前の深夜に掖廷獄で大火災が発生。失火の責任を取らされ、前掖廷令が獄送りとなったため、延明が急遽引き継ぐこととなる。一夜明けた、その昼。出火もとの獄舎と延焼先の中宮の涼楼(りょうろう)は鎮火したものの、後宮の玉堂はいまだ火がくすぶっている状況だった。玉堂は無人の建物であるため鎮火を待つことになる。延明が前任者から引き継いだ仕事のひとつに、今朝早く後宮八区で起きた『首吊り偽装殺人』の事件があった。犯人とされる宦官・如来(にょらい)は無実を主張しているという。調査のために掖廷署を出た延明の前に、ぼろぼろの少年宦官・華允(かいん)が現れて挨拶する。師父と呼ばれる教育係りの宦官から捨てられたという華允は、虐待された痛々しい状態である。側仕えにしてほしいと頼む華允を、雑用兼筆記係りとして延明は使うことにした。自殺に偽装した殺人事件の被害者・金剛(こんごう)は賭博癖があり、借金で首が回らなくなっていたようだ。そのことを苦にした自害と思われたが、他殺であると判明。遺体の発見者であり、金剛に金を貸していた如来が容疑者として若盧獄(じゃくろごく)に収監された。如来を尋問した延明は、金剛が吊るされていた木の下に埋めていたという如来の隠し財産を確認するために八区の塵(ごみ)捨て場の土坑へと向かった。華允が金の入った壺を掘り出し、延明は容疑者を無実だと考えたがそれを証明できない。そこで延明は検屍術の心得がある女官・姫桃花(きとうか)を頼ることにする。その頃、桃花は染めと織りのための部署・織室(しょくしつ)で、絹を織りあげる織房(しょくぼう)の女官になっていた。以前は皇帝の寵妃・梅婕妤(ばいしょうよ)の侍女だった桃花は、暴室(ぼうしつ)送りになった友人の女官・才里(さいり)を助けるために自身も故意に暴室行きとなり、今は降格されて部署異動となっていた。居眠りばかりの桃花と一緒に作業する同僚は、やや年上で部署の先輩である女官・紅子(こうし)と才里である。噂好きの才里は、火災で『死王騒動』の犯人が焼死したため又もや幽鬼の噂が流れていると話す。他にも後宮の妃嬪の勢力情報や宦官たちの人間関係に至るまで話は尽きない。三人が作業のかたわらお喋りしていると、織室の丞(じょう:副長官)である宦官・小海(しょうかい)が現われ、納品した寝具に直しが必要だと桃花が連れ出される。懲罰を心配する二人を残し、桃花が連れて行かれた先は掖廷獄の院子(にわ)である。途中で着替えさせられた桃花は男に変装し、官奴(かんど)・桃李(とうり)として検屍を行う。検屍の記録を記す延明は意外な結果を知る。宦官の冤罪は晴らされたが、ようやく鎮火した後宮の玉堂から無理心中と見られる遺体が発見される。無人のはずの玉堂を密会場所に使っていた妃嬪・馮充依(ふうじゅうい)が、恋慕した宦官・大海(たいかい)を刺殺したうえで首吊り自殺したらしい。馮充依は三人の公主を産んだ寵妃で『婕妤』の階級にまでのぼりつめた女性だが、皇帝の寵愛が冷めた後に宦官との密通が露見し、五階級降格の『充依』となって後宮の隅の殿舎で暮らしていた。密通相手の宦官は腰斬(ようざん)刑で処せられたが、その後も馮充依の火遊びは止まず、最近は大海に夢中になっていたという。反対に大海のほうは距離をとるようになっていたらしい。延明は不祥事に頭を痛める。一方、桃花は上司の小海が大海と同郷の義兄弟であると知り……。中華風後宮検屍ミステリ。
※暴室は病を得た女官や宮女の隔離施設であると同時に、罪を犯した者を収監するための獄でもある。医院ではないので治療を受けられるわけではなく、自然治癒するか死ぬかをただ待つだけの牢獄なのだ。行って戻ってくる者など皆無に等しい。
 

書名:後宮の検屍女官
作者:小野はるか
出版:角川文庫
内容:大光(だいこう)帝国の後宮は、幽鬼騒ぎに揺れていた。謀殺されたという噂の妃嬪(ひひん)李美人の棺から、死後に産まれた赤子の遺体が見つかったのだ。この赤子は男児であり、無事生まれていればいずれは王に冊封されたことから「死王」と呼ばれ、母の怨みを晴らすため、謀殺の首謀者をさがして夜な夜な後宮を這いずり回っているのだという。狐精(こせい)と揶揄される美貌の宦官・孫延明(そんえんめい)は「くだらない怪談」と笑顔で吐き捨てる。だが、『中宮娘娘(皇后さま)のお気に入り』である北方異民族出身の宦官・点青(てんせい)が尚書室にやって来て、皇后宮・正殿に呼び出される。皇后の文書係りである中宮尚書の延明が皇后許氏(きょし)の御前に跪くと、仕事を命じられる。帝が皇后に「幽鬼の目撃談のせいで、後宮の夜警がままならぬので、人手を派遣して夜警の支援をするように」と命じられたという。許皇后は皇太子を産んで以来の二十二年間、空閨をかこつ身だ。皇帝は側室ばかりを愛で、今は後宮最高位である梅婕妤(ばいしょうよ)を寵愛している。おかげで皇后の地位は不安定で、後宮は梅婕妤に掌握されてしまっている。延明が表向きの仕事とは別に、言外に求められた役目、それはこの機会に女官を誘惑し、後宮に内通者を作ること。部下を引き連れて延明が後宮の門内に到着すると、夜警を担当する下級女官たちが集まっていた。しかし、後宮門番の宦官・小少(しょうしょう)から女官一名が倒れたと報告される。小少に欠員の代わりをするように命じるが、あまりにも怯えるので延明も付き合うことになってしまう。夜警女官を誘惑するよう言いつけてある部下たちと女官たちの組分けや担当区の割りふりをしながら、延明は彼女たちの反応を見る。女官たちは『妖狐(ようこ)の微笑み』に釘付けだが、一人だけ反応が悪い。じっと俯いている女官は恐怖をこらえているのかと思えば、立ったまま居眠りをしていた。その女官の名は姫桃花(きとうか)。名の通り、桃の花のような愛らしい顔立ちではあるが、図太い娘のようだ。梅婕妤の暮らす一区で女官を誘惑しようと目論んでいた延明は、小少と桃花と一緒に一区を見回ったあと別れようとした。ところが、亡くなった李夫人が暮らしていた後宮三区に行くのを嫌がった小少が逃げてしまう。呆れ返った延明が、仕方なく桃花と夜警を続けようとうながすと、眠そうにぼんやりしていた彼女が笑いだす。「死者が分娩するのは、たんなる自然現象なのですけれども」延明が詳しく尋ねようとした時、三区の奥から女の悲鳴が聞こえた。声を頼りに駆けつけると、李美人つきの宮女たちがくらす舎房で、年若い宮女が事切れていた。李美人の侍女だったという碧林(へきりん)は、歯ぐきまでむき出すようにした嗤(わら)い顔に、不自然なほど弓なりに反った姿勢で死んでいた。発見者は同僚だという高莉莉(こうりり)で、延明が事情を聞くと、李美人の亡くなった翌日から体調を崩して寝込んでいた碧林に薬を届けに来たという。李美人の侍女が怪死をとげたことに、延明は頭を痛めた。死王騒動が膨れれば、内廷を治める立場の皇后が責任を問われかねない。そこへ桃花が進み出て、高莉莉に薬湯について詳しく問い質す。高莉莉は梅婕妤の侍女である桃花が現れたことに驚きつつも質問に答えるが、やがて激しく怯えだして叫ぶ。「死王の呪いで、碧林は死んだんだわ!」この件は、翌日には「死王に憑き殺された者が出た」と噂になって広まっていた。梅婕妤の侍女であり、書の代筆や詩作を代わって行う女史でもある桃花は、同僚で噂話が好きな才里(さいり)に夜警での面白い話はないかと聞かれる。桃花は『妖狐』を見た話をする。美貌の宦官・孫延明は五年前に罪を得て腐刑――浄身となり、その後に冤罪だったとして身分を回復したという数奇な身の上で有名だ。その夜も延明は後宮で夜警の指示を出した。後宮宦官・小少が欠席していたが、梅婕妤の侍女だと判った桃花と組んで見回りができるため都合が良かった。皇后に命じられた延明は、誘惑して桃花を味方に引き入れなけらばならない。延明は笑みを浮かべて気遣いで距離を詰めつつ、桃花に優しい言葉をかける。しかし、桃花は何の反応も示さない。豆腐に釘を打ち込んでいるような虚しい気分になった延明は、桃花を口説くのは無理だと諦めた。代わりに延明は梅婕妤の『隠された女官』という桃花の境遇に同情してみせる。情報によると、梅婕妤は見目麗しい女官を手元に囲い、帝に見初められないよう飼い殺しにするという。梅婕妤の悪口を言うようならば味方に引き込めると考えた延明の予想に反して、桃花は喜色満面にうなずいた。「大変快適に過ごしている」と答える桃花の野心のなさに、延明は呆気にとられる。夜警を恐がる女官と交替したと話す桃花に、延明は昨夜くわしく訊こうとしていた死者の出産について尋ねる。『棺内分娩(ぶんべん)』と呼ばれる自然現象を説明した桃花に対して、何処でそのような知識を得たのかと延明は尋ねる。桃花は代々つづく検屍官の家系に生まれ、十三歳のとき姫家の養女になったと答えた。祖父の手伝いをしていたという桃花は、世間では敬遠される検屍術とは『冤罪を無くす術』で誇るべき仕事だと語る。その言葉は、冤罪を身に刻まれた延明の胸に響いた。延明は『棺内分娩』について公表すれば死王騒動も落ち着くだろう、碧林も病死であったと発表したと話す。ところが、「碧林は病死であって、病死ではありません。傷害による致死(さつじん)ですわ」桃花は断固として言い切った……。中華風後宮検屍ミステリ。
※本書は第六回角川文庫キャラクター小説大賞『大賞』『読者賞』を受賞したカクヨム作品を、改稿の上、改題し、文庫化したもの。

殿舎の耳房(こべや)
正房(おもや)につながる戸口

婕妤が後宮内での位をしめす妃嬪である。

男児膝下有黄金:男の膝には黄金の価値がある
 

書名:トロイメライ
作者:池上永一
出版:角川書店
内容:19世紀、琉球王国。首里城に隣接する商都・那覇。王府の寺社座(じしゃざ)の奉行を退官した大貫(だいかん)長老は、那覇港近くの涅槃院(ねはんいん)という寺の住職におさまった。大貫長老は信仰を説くよりも、民に寄り添うことを専らとしており、違法行為にも寛容である。時には犯罪者を匿ったり、逃がしたりもしていた。ある朝、新米の筑佐事(ちくさじ=岡っ引き)である武太(むた)が涅槃院に乗り込んできて大貫長老を詰問した。「墓泥棒の真如古(まねこ)をどこに匿いやがった!」鳶色に近い赤毛の武太は十八歳、農家出身の十三人兄妹の末っ子だ。特技といえば三線(サンシン)の腕前くらいの武太が警察機構である大与座(おおくみざ)に雇われたのは、大貫長老の口利きがあったからだ。だが、兄姉と違って長老に反抗的なところがある武太は初仕事に意気込んでいた。手柄を立てて正式採用されれば釵(さい:十手に似た武器)持ちになれる。真如古は一族の共有財産である墓を無断で売り払って、先祖供養ができなくなればお家断絶も同じだ、と門中(むんちゅう)が平等所(ひらじょ=裁判所)に訴えたのだ。長老に「真如古のことを調べ、心で感じ、彼女の人生を理解しようと努力しろ。それができる者が筑佐事になれる」諭され、一笑に付した武太は舞台用の長い煙管(キセル)でさんざんに打ち据えられた。とはいえ「十貫瀬(じっかんじ)の『をなり宿』に隠れている」と教えてもらった武太は、長虹堤(ちょうこうてい)の途中にある小さな集落に向かう。『をなり宿』は寝泊まりできる居酒屋のような営業状態で、宿を切り盛りしている女将と娘三人は朝から晩まで美味い飯ばかり作っている。武太が訪ねた時は、王室の厨房である寄満(ユインチ)の役人・城間親雲上(ぐすくまペーチン)が王しか食べられないジーマミー(ピーナッツ)豆腐を内緒で作らせているところだった。女将に真如古を呼んでこさせると、質素な身なりのやつれた女だった。とても大金をだまし取った女詐欺師には見えない。事情を聞いてみると、裕福な士族だった屋良(やら)家に嫁いだものの、夫が病に倒れて収入がなくなったうえに、夫の死後は真如古ひとりが一族の祭祀の金銭負担をせねばならなかった。そこで真如古は墓を担保に大貫長老から銅銭二千貫文を借りた。だが、借金を返済すると手元にお金は残らなかった。真如古は悪いとは知りつつ伊波筑登之(いはちくどうん)に墓を転売する証文を交わした。しかし、門中の同意を得ずに売ったことで真如古は訴えられ、大与座に捕縛命令が出たのだ。事情を聞いた武太は涅槃院に戻り、先に証文を交わした大貫長老が介入すれば真如古は裁かれずに助かると提案する。長老は「裁きは公正でなければならない。同情で罪を消そうとするおまえは小悪党だ」と、またしても煙管で容赦なく打ち据えた。とぼとぼと武太が『をなり宿』に戻ると、ちょうど出来立てのジーマミー豆腐が振る舞われていた。武太と真如古の元にも口止め料と共犯のお誘いとして豆腐が届けられ、二人は口に入れた瞬間おいしさに仰け反ってしまった。豆腐を食べ終わると、武太は平等所で思うところを述べるように真如古に勧め、大与座に出頭させた。裁きの日、首里の平良橋(たいらばし)にある平等所には野次馬たちが押しかけ……『筑佐事の武太』。世間を賑わせている義賊・黒マンサージ(手巾)。義賊は黒朝衣(クルチョージン)姿に黒色の手巾で頭部を覆っている。筑佐事の武太としては、民衆に人気の義賊の存在は面白くない。そんな時、ジュリ(遊女)が殺される事件が起きるが、犯人は清国からの冊封使が乗ってきた御冠船(うかんせん)の船戸(船長)・謝海(しゃかい)であったため、身柄は清国に引き渡された。腹を立てた武太は、迎賓館である天使館へ出向き門を見張るが……『黒マンサージ』。大貫長老の仕事のひとつに口入(くちいれ)があった。いわゆる身元保証人になる制度だが、同時代の日本のような独立した稼業ではなく、有力者の信用を担保に紹介してやる緩やかな制度だ。ある日、三組の母子が口入を申し込んだ。出身地はばらばらだが、連れている子どもは同い年くらいで、三組一緒に長老と面談することになった。長老は証文を書き、奉公先の斡旋を約束すると、それぞれの母親に身売りの代金である銅銭六百貫文を渡した。母親たちが去ると、残された子どもたちの素養を見極めた長老が奉公先を決めた。聡明な少女・多根(たね)はあがま(女官見習い)に、器量良しの少女・美戸(みと)は遊郭街の置屋・花籠屋へ、そして特技はないが体格の良い少年・虎寿(とらじゅ)は糸満(いとまん)売りとなった。漁師の雇子(ヤトインガー)として素潜りで漁をするという、男子の年季奉公のなかでも最も過酷な身売りだ。虎寿は嫌がったが、身分も低く教養のない少年に普通の奉公先を与えることは大貫長老にもできなかった。三人の子どもは奉公先の主人が迎えにくるまで『をなり宿』に身を置くことになった。美味しいものを食べて束の間の幸せを味わうが、虎寿は恨み言を呟き続け、少女たちに悔しくないのかと問う。二人もジュリや結婚できない女官は嫌だと答える。そこで虎寿は宿を飛び出すと、夜のうちに涅槃院から三人の身請口入証文(みうけくちいれしょうもん)を盗み出し、二人の少女を連れて逃げ出す。翌日、事態に気付いた大貫長老は大与座に捜査を依頼し、筑佐事の武太は三人の行方を追うことに……『イベガマの祈り』。『をなり宿』で昼餉の暇に三線を取った武太。あまりにも上手すぎる音色を聞きつけた王府の式典担当の役人・踊奉行(おどりぶぎょう)がやって来ると、武太に三線を見せろとせまった。八年前に行方が知れなくなった幻の名器・盛島開鐘(もりしまケージョー)ではないかと疑われたのだ。武太が平伏して差し出した三線は痛んだ粗末なものだった。試しに踊奉行が弾いてみても、先程のような音色を出すことはできなかった。だが、返された三線を構えて武太が弾くと、盛島開鐘かと錯覚するほどの音が出る。腕前を褒められた武太が「三線の癖を知って、音と合う曲を選べば個性を引き出せる」と説明する。実は武太にはこれと同じような経験があり、それはトラウマになるほどの苦い記憶だった……『盛島開鐘の行方』。最近、辻で滅法評判のジュリ・魔加那(まかな)。その魔加那が海商・護得久(ごえく)にナンジャジーファー(銀の簪)をねだる。銅銭一万貫文をはたいて作らせた特注品のナンジャジーファーを魔加那に贈った護得久だが、彼女にあっさり袖にされてしまう。腹を立てた護得久は詐欺だと平等所に訴えるが……『ナンジャジーファー』。長虹堤のすぐ近くの牧志村。その寂れた村の片隅にカンジャースーヤーのサチと呼ばれるオバァがいた。那覇の人なら誰でも知っているオバァで、武太も可愛がられたものだった。そのサチオバァの体が弱っていると聞いた武太は、『をなり宿』の三姉妹を訪ね、ジューシー(炊き込みご飯)の差し入れを持って行きたいと頼む。かつてサチオバァから料理の手ほどきを受けた三姉妹は、オバァ得意のジューシーを思い出しながら調理する。四人連れ立ってサチオバァを見舞い、オバァの身の上話を聞く。翌朝、サチは静かに息を引き取った。速やかにサチの葬儀が執り行われるはずが、問題が起こり……『唄の浜』。日々町中で起こる事件に立ち向かいながら、法と正義の間で揺れる新米筑佐事の武太。人情味溢れる庶民たちが躍動する、エンタメ連作短編集。
※トロイメライ(Träumerei)とは、ドイツ語で「夢を見ること、夢想すること」。

<収録作品>
●筑佐事(ちくさじ)の武太(むた)
●黒マンサージ
●イベガマの祈り
●盛島開鐘(もりしまケージョー)の行方
●ナンジャジーファー
●唄の浜

筑佐事=岡っ引き
マンサージ:手巾(しゅきん)
イベガマ:長虹堤(ちょうこうてい)の南端、水辺に風の鳴る丘があり、通称イベガマと呼ばれる聖地だ。国家事業の長虹堤建設の重労働で亡くなった神職・阿波根祝女(あはごんノロ)を祀っているのがこのイベガマである。
開鐘:開鐘とは王家所有の三線(サンシン)のこと。鐘のように響くという意味で、三線のなかでも特に美しい音色を出す真壁型三線につけられる称号。
ナンジャジーファー:ナンジャジーファーとは銀の簪のこと。この時代は身分によって簪の材質が異なる。王族は金、士族は銀、農民は真鍮(しんちゅう)か木の簪を使うことになっていた。日本と異なるのは男性も簪を使うこと。男性は短い簪二本組を十字に挿して使う。
 

書名:宝樹短篇作品合集 時間の王
作者:宝樹(バオシュー:中国作家)
出版:早川書房
内容:突然の事故で植物状態になった俺は、時間のコントロールが出来るようになる。記憶に引っ張ってもらうことで、俺は人生のあらゆる瞬間に意識を移す。俺が叶えたいことはただ一つ、十歳の頃に病院で出会った少女琪琪(チーチー)のこと。俺はすでに起きた歴史を改変することができたが、この全ては永遠に続くわけではない。時を戻っても急性白血病で亡くなった琪琪をよみがえらせることは出来ない……。自在に時を飛ぶ『時間の王』となった主人公の冒険と苦難を描く表題作。紀元前一億四千万年に始まり、紀元十二万年までを綴る、人類の『穴ぐら』生活。人類の進化と文明の隆盛、戦争による荒廃と文明の退化の歴史が描かれる〔穴居するものたち〕。時間旅行会社「リトル・タイム(小時代)」に大企業「郝(かく)の味」から持ち込まれた依頼。それは店の創業者がでっちあげた魚介麵の由緒を真実に改変し、店の名誉を守ること。リトル・タイムの担当者である「ぼく」こと林雨は、創業者の娘で「郝の味」の重役・郝思嘉(かくしか)と役者たちとともに三国時代にタイムトラベルする。赤壁の戦いで敗走する曹操を華容(かよう)の地で迎え入れ、魚介麵を食べさせる様子をひそかに撮影しようと一行は奮闘するが……〔三国献麵記〕。古代の蜀国の都市・広都(成都)で、生贄の祭祀を執り行おうとした杜宇(とう)王の前にまばゆい光とともに現れた神女「朱利(ジューリー)」。朱利の助言をもとに杜宇王は治水事業を行った。三年後、宴の席で毒を盛られて死にそうな杜宇王に丸薬を飲ませ、朱利は手首に嵌めた銀色の腕輪を動かして姿を消した。三日後に生き返った杜宇王は不老不死となっていた。五十年以上が経ち統治に飽きた杜宇王は譲位すると、朱利を探して外の世界を旅する。名を変えながら長い年月を生きる杜宇王は、五百年後に故郷に帰って朱利と再会する。数百年ごとに出会いと別れを繰り返す二人。朱里の言う「因果の環」とは?悠久の時をめぐる〔成都往事〕。タイムマシンの試作機が完成した。自分の開発したタイムマシンの被験者に選ばれた彼は、未来から来たことを証明できるデータを携えて実験に臨む。彼は人類史上初の時間旅行者となるが……〔最初のタイムトラベラー〕。大学のマドンナ沈琪(シェン・チー)を二年以上も口説いていた貧乏学生・姜大勇(ジアン・ダーヨン)は、「九百九十九本のばらを贈ってくれたら誘いに応じる」と言われる。学生寮のルームメイトで大勇の義兄弟でもある許琛(シュー・チェン)は、他の義兄弟たちと口をそろえて「それは断る口実だから諦めろ」と言う。だが、大勇は未来の子孫に手紙を書くという方法でばらを手に入れようとする。沈琪と大勇の子孫が生まれてくるために必要だからタイムマシンを使って助力しろというのだ。大勇が指定した土曜日の十九時半、女子寮の周りは野次馬や取材の新聞記者まで現れて大騒ぎになる。だが、時間になってもばらは届かない。やがて野次馬たちは居なくなったが、それでも大勇は待ち続ける。ところが、二十一時に配達員がばらを届けに現われ……〔九百九十九本のばら〕。戦争のせいで生存圏を失った人類が、移住先を求めて旅する宇宙船。その宇宙船はブラックホールの引力に引き寄せられて逃れられないでいた。宇宙船の最後の生存者にして人類最後の一人は、子供時代にある女の子から聞いた言葉を思い出す。「世界最後の一人が死ぬ瞬間に見る光景は暗黒」宇宙船の人口知能「アイピス」の名はギリシャ語で『希望』という意味。このまま人類は滅亡するのか?最後の生存者の考えは……〔暗黒へ〕。時間SFテーマの全七篇を収録。
※宝樹は、苗字と名前に分割せずこれでひとまとまりのペンネーム。
※作者は1980年、中国四川省広元市生まれ。歴史SF、時間SFを得意としている。また、「新垣平(シンユエピン)」というペンネームで武俠小説を発表している。

<収録作品>
穴居するものたち:2012年初出
三国献麵記:2015年初出
成都往事:2018年初出
最初のタイムトラベラー:2012年初出
九百九十九本のばら:2012年初出
時間の王:2015年初出
暗黒へ:2015年初出

吊りあがった丹鳳眼(たんほうがん)

道士の書く鬼画符(グイホワフー)
 

書名:劇場版 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 特装版
作者:山口悟
出版:一迅社文庫アイリス
内容:日本の女子高生だった「私」は、プレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢カタリナ・クラエスに転生する。友情エンドで破滅を回避したカタリナは、無事に魔法学園を卒業した。魔法省に入省を控えた頃、婚約者のジオルド王子にお茶に誘われてカタリナは登城する。お城の庭を一人で歩いているカタリナの影から、闇の使い魔である犬のポチが出てくる。そのまま駆けていってしまったポチを追いかけて、カタリナはお城の外れにある建物に入る。物置のような其処でポチを見つけて駆け寄ったカタリナは、ポチの後ろから出てきた黒いひよこに気付く。ひよこはお茶会に向かうカタリナについてきた。茶会に集まった皆に尋ねると、お城で飼っている鳥の雛ではないというので、そのままカタリナが連れて帰ったのだった。クラエス家で世話することになったひよこは「ピヨ」と名付け、皆で可愛がった。ある日、カタリナはメイドのアンとピヨをお供に街へ本を買いに出かける。馬車の窓から外を眺めていると、大きなテントが目に映った。それが異国の商隊のものだと聞いたカタリナは寄り道することにする。ソルシエから遠い国ムトラクから来たという交易品を見ていると、舞台でショーが始まる。踊り子に加えて虎のダンスが披露され、観衆は喝采(かっさい)と拍手を送った。カタリナから離れたピヨがテントの隙間から中に入ってしまい、雛が虎に食われることを危惧して後を追う。テントの中ではターバンを頭に巻いた美少年が手に乗せたひよこを撫でていた。動物と曲芸をするという少年はアーキルという名で、動物たらしらしくピヨが物凄く懐く。アーキルから今日のショーは顔見せで、明日が本番だと聞いたカタリナはリハーサルを見せてもらうことになる。ピヨを追いかけている間にはぐれたアンと合流し、集客の為だというステージを見学したカタリナは感動し、友人に宣伝すると約束する。別れ際、アラブ系美少年のアーキルの顔をどこか昔に見たような不思議な感覚をカタリナは覚えた。同じ頃、王宮では今まで国交のなかったムトラク国の使者が予定より早く到着すると知り、第二王子イアンが頭を抱えていた。国王夫妻も第一王子も公務で王都に不在だった。兄とともにジオルド王子はムラトクの王子と王女を迎えた。ところが、王女は友好の証としてソルシエの王族に輿入れするために来たと告げる。ソルシエの四人の王子には既に婚約者がいる。ジオルドたちは対応に頭を悩ませる。そんな事情を知らないカタリナは、友人たちをショーに誘う。外交に忙しい男性陣抜きで出かけることになったカタリナたち。カタリナ、マリア、メアリ、ソフィアは異国のショーを観賞し、商隊の人たちとも仲良くなって楽しいひと時を過ごす。舞台で動物たちに素晴らしい芸をさせるアーキルだが、実は彼には秘密があった。彼は動物を操る能力を持つムトラクの王子であり、ソルシエを訪れたのは国王の命令で……。エキゾチックな美少年との出会いは新たな破滅フラグ!?悪役令嬢の破滅回避ラブコメディ、劇場版アニメ原作ノベル。
※『小説家になろう』サイトから書籍化したWeb小説のシリーズ。
 

書名:リスボンのブック・スパイ
原題:The Book Spy
作者:アラン・フラド
出版:東京創元社
内容:日本による真珠湾攻撃の二週間後の1941年12月22日、ルーズベルト大統領は外国刊行物取得のための部局間委員会(IDC)の設立を命ずる書類にサインをした。IDCは、まもなく戦略情報局(ОSS)となる情報調整局(CОI)局長のウィリアム・ドノバン大佐が、ルーズベルトに提案したものだ。司書とマイクロフィルム専門家の部隊である。その目的は、アメリカの戦争機関のために敵国の新聞や本や定期刊行物を集めることだった。諜報員たちは、世界的危機において書籍を保存しようとする議会図書館のために資料を集めているアメリカの職員のふりをして、ヨーロッパの中立の都市へ派遣される。1942年5月、ニューヨーク公共図書館マイクロフィルム部で働く27歳のマリア・アルヴェスは、同僚のロイがIDCの面接に合格したことを知った。マリアの両親は移民で、職業は報道写真家だ。ドイツ出身の母とポルトガル出身の父に連れられて、彼らが仕事で派遣されるヨーロッパの街を途切れることなく旅行したマリアは、流暢に六カ国語を話せる。母のエリーズは1937年スペイン内乱を取材中に亡くなっていた。マリアは右手の薬指に形見のサファイアの指輪をはめていて、それを回転させると気持ちが落ち着く。マリアの両親はファシズムの台頭を嫌って自分の国から逃げてきたという。マリアは母親の犠牲を無駄にしない方法を探しており、危険を冒してでも戦争を終わらせたいと思っている。マリアはIDCに入ろうとして委員会の長フレデリック・キルガーに電話をかけたが、「アイヴィーリーグ出身の候補者しか考えていない」と断られ、これ以降は電話を受けてもらえなくなる。キルガーに断られてもあきらめず、マリアは情報調整局の長であるウィリアム・ドノバン大佐に手紙を書き、毎日電話をかけた。だが、毎回受付係から断られ、伝言の紙もゴミ箱行きらしかった。行き詰っていたマリアは、新聞記事でドノバン大佐がニューヨークに来ることを知る。アメリカ一の富豪ヴィンセント・アスターの屋敷で講演するという。しかし、アスター邸に招待されるためには、百万長者か社交界のメンバーでなければならない。マリアは本や新聞・電話帳などで調べ、講演会のために計画を立てた。マリアはアスター家のイベント・プランナーに電話をかけ、ヴィンセント・アスターの個人秘書の名を騙って講演会の招待客で欠席の連絡をした者たちの名前を聞き出した。マリアは図書館にある資料を使って欠席者について調べると、アスター家が使っている警備会社に連絡した。今度はヴィンセントの新妻ミニーの個人秘書を騙ったマリアは、ワイルダー夫妻の姪ミス・ヴァージニア・ワイルダーを招待客の名簿に追加するように依頼した。7月2日、マリアは給料を注ぎこんで上流社会にふさわしいイブニングドレスを身に纏い、父の手配したリムジンでアスター邸に乗り込む。講演会の後でドノバン大佐に直談判するその時まで目立たず過ごすつもりのマリアだったが、ミニー・アスターに話しかけられ、ヴィンセント・アスターに紹介されたことで雲行きが怪しくなる。講演を聞くために着席したマリアを挟むように二人の警備員が両側の壁際に立ち、彼女のほうを見ている。マリアは警備員に捕まる前にドノバン大佐に近づく方法を考えめぐらせた。講演が終わり、ドノバンが演台から離れて歩き出すと、マリアは立ち上がって前方に向かった。だが、ドノバンの数メートル手前で、警備員に追いつかれ、マリアは二の腕をつかまれた。マリアは諦められず、パンプスの踵で警備員の足を思い切り踏んだ。警備員の手から力が抜けると、マリアは前に飛び出して大佐を呼び止める。そして、自分はIDCの志願者であると直訴した。ヴィンセントが出席できなかった招待客の姪を騙って入ってきた女性だと告げると、ドノバン大佐は受付を通った方法をマリアに訊ねた。マリアが正直に説明すると、ドノバン大佐は「情報機関で働くのにふさわしい技能と勇気のある者」とマリアを評価して採用すると告げた。マリアはアスター夫妻と警備員に謝罪してから屋敷を去った。8月、マリアはワシントンDCに引っ越し、IDCの研修に合流する。其処には先に研修に参加していたかつての同僚ロイがいた。研修初日、マリアは使い慣れたライカのカメラからレコーダックに替わったことで苦戦し、研修生の中で最下位の成績だった。しかし、ロイとルームメイトのパイラーの助力で、マリアは遅れを取り戻すことができた。パイラーはナチズムの台頭と独裁政権を嫌い、スペイン内乱の前に家族で合衆国に移民したという女性だ。彼女もマリアと同じくアイヴィーリーグの出身ではなかったが、キルガーにスペインの司書たちにコネがあると訴えて採用されていた。9月になるとIDC職員の第一陣がヨーロッパの中立国に派遣されることになった。ロイはリスボンに派遣されるが、マリアとパイラーは選ばれなかった。マリアは改めて闘いに参加しようと決意する。同時期のポルトガル・リスボンでは、書店『リヴラリア・ソアレス』を経営する青年ティアゴ・ソアレスがユダヤ人避難民を命懸けで援助していた。28歳のティアゴの父はカトリック教徒のポルトガル人だが、母親はフランス系ユダヤ人だ。ティアゴの家族はドイツ占領下のフランスから逃げるユダヤ人のための逃避経路を動かしていた。この経路はフランス・ボルドー地方の母方祖父母のブドウ園から始まり、ポルトガル・ポルトの両親のブドウ園を経て、リスボンのティアゴの書店で終わる。67歳の店員ローザは、法律家の個人秘書として働いていた頃に文書偽造の技術を取得しており、ユダヤ人避難者のために渡航文書を直してくれている。ユダヤ人避難者の出入りする店は国家監視防衛警察(PVDE)に目をつけられており、マーティン・ネヴェス警察官がやって来ては検閲と称して本を没収される状況である。1942年7月、ボルドー近郊のシナゴーグでドイツ兵の強制捜査を受けたユダヤ人たちが逮捕されたという話を避難者から聞いたティアゴは、ユダヤ人の逃避経路を逆に辿って祖父母を助けに行こうと決心する。スペイン内乱の際に反ファシズムの闘士として戦ったティアゴがスペインを通るのは危険だし、半分ユダヤの血が入っている者がフランスでドイツ軍に捕まったら処刑されると反対する両親を押し切って旅立つ。ローザの用意した渡航文書のおかげで国境を越えられたティアゴは、スペイン・バスク地方のサンセバスティアンにあるベネディクト会修道院に立ち寄った。此処のフランシスコ修道士は祖父母の友人で、ユダヤ人避難者を支援しているのだ。ティアゴと面会したフランシスコ修道士は、祖父母がドイツ兵に逮捕されたと告げる。今日到着したユダヤ人避難者から伝えられたという。避難者に託されたという祖父母の手紙を読んで、ティアゴは泣き崩れた。1943年2月21日、遂にリスボンへ派遣されることになったマリアは、父のガスパールに見送られて飛行艇ヤンキー・クリッパーで旅立った。米国慰問協会(USО)の臨時便だという飛行艇は約19時間のフライトを経てリスボンに到着するはずだった。しかし、着陸に失敗した飛行艇はテージョ川に突っこむ。何とかシート・ベルトを外したマリアは水没した機内を泳ぎ、穴の開いた機体から水面に出て救助された。39名の乗客と乗務員のうち生存者は15名という大事故で、マリアは股関節の脱臼と背中を24針縫う怪我を負った。先にリスボンに赴任していたロイとパイラーが見舞いに訪れ、キルガーから帰国の指示が出ていると伝えられる。マリアは飛行艇の事故で亡くなった人たちは国のために働いていて命を落とした、その犠牲を無駄にさせないためにも自分はIDC職員として働くと主張し、二人にキルガーへの電報を打ってもらう。残留を許可されたマリアは退院すると、パイラーの住むアパートメントに引っ越した。マリアが任務を引き継ぎ、ロイとパイラーはスペイン・マドリードに拠点を設立するという計画は保留になっていた。まだ松葉杖が必要なマリアの健康が回復するのを待つためだ。3月、ロイとパイラーはポルトガル中部のコインブラへ出張し、リスボンに残ったマリアは書店めぐりに出かける。街を走るタクシーから広場や埠頭を眺めたマリアは、其処に居る大勢のユダヤ人避難者の様子が目に留まる。タクシーから降りたマリアは、ロイの一覧表に「しょぼい店」とメモされた書店に入る。歴史地区の通りルア・ド・クルシフィクソにある「リヴラリア・ソアレス」という店だ。店内で1936年刊行の『ドイツの産業文化』という本を見つけたマリアは、分野別に製造会社の名前と住所の一覧表があることに気付いた。この本に注目されないよう、フランスの詩集とハンガリーの小説やポーランドの料理本を買ったマリアは、IDC職員だと名乗って外国の出版物が欲しいと頼む。怪我人のマリアが墜落した飛行艇の乗客だったと知った店長のティアゴと店員のローザは親切だった。店を出たマリアは、ロシオ広場で避難者たちの様子を眺めていた。すると、ティアゴの姿を見つけた。ティアゴはベンチに本を置いたまま歩き去った。マリアがベンチのほうへ歩いていくと、ベンチに座っていた避難者の男性が本を開いた。そこにパスポートと現金のようなものが見えた。マリアは興味をかきたてられて、ティアゴを追いかける。マリアの松葉杖が敷石に引っかかって地面に倒れた。ティアゴが振り向いて、マリアに駆け寄る。背中の傷が開いて出血したマリアは病院を嫌がり、ティアゴの家で手当てを受け、着替えのシャツを借りる。ティアゴは逮捕されてポーランドの収容所に送られた祖父母と、家族で作ったユダヤ人避難者の逃避経路についてマリアに話す。マリアは自分の本当の任務について黙していたが、ティアゴは察する。ティアゴの呼んだタクシーに乗って帰宅したマリアは、彼の事をもっと知りたいと思う。だが、ティアゴはネヴェス警察官の脅迫を受けていた。家に押し入ったネヴェス警察官は、ティアゴの首に小剣を押しつけ、ゲシュタポに追われているユダヤ人ジャーナリストのヘンリ・レヴィンの捜索に協力するように強要していた。マリアが借りたシャツを返しに行くと、ティアゴは自宅に隠していた反ナチスのドイツ人作家の本を出してきた。すべて購入したマリアは裏ルートで手に入る本を注文する。取引が終わると、マリアとティアゴはお互いの身の上について話し合う。ティアゴはリスボンには秘密警察の密告者があふれていると言い、マリアに用心するように告げて別れた。5月、ポルトガルのリゾート地エストリルにマリア、ロイ、パイラーは呼び出された。ホテル・パラシオ・エストリルのバーで、イベリア半島におけるОSSの責任者である暗号名「アーガス」と会うことになっていた。バーにやって来たアーガスは、現状の説明とスパイが入り乱れている状況下の注意事項を述べ、ロイとパイラーにスペインへ発つように指示し、最後に三人にカジノで遊んで行けと言って去った。上司の勧めに従いカジノ・エストリルに向かったマリアは二人と別れ、ドイツ人の会話を盗み聞きできないかと考えていると、スイスの銀行家ラーズ・スタイガーに話しかけられる。三年前に妻子を事故で失ったというラーズは、ギャンブルで喪失感を紛らわしているらしく、自分の金でギャンブルを楽しまないかとマリアを誘う。一ゲームだけという約束で誘いに乗ったマリアは、結局一時間以上ルーレットで遊んだ。ラーズは勝利金の半分を固辞するマリアに押しつけた。そして、またカジノに来ることがあれば連絡してほしいと名刺を渡される。マリアはこのお金はティアゴの活動に寄付しようと考える。ティアゴとマリアはお互い惹かれ合っているが、マリアは職務が第一だと考えている。翌日、スペインに発つロイとパイラーを見送ったマリアはアパートメントに戻った。そこへアーガスが訪ねてくる。マリアが知り合ったラーズはナチスの金を洗浄している男で、イギリスの情報機関が監視している人物だという。アーガスはスパイとなってラーズに近づいてほしいと告げる。マリアは表向きはIDC職員のまま、スパイとして活動することになるが……。
※2023年原書初版
※作者はアメリカのオハイオ州とポルトガルを拠点として執筆活動をしている作家。
※ヒロイン・マリアのモデルは、アデル・キブルという実在の女性。キブルはマイクロ写真の専門家で、七カ国語を操り、IDC職員としてストックホルムに配置されて大きな成果を上げた。スパイとして暗躍するマリアのエピソードは、フォーティテュード作戦で重要な役を演じたフアン・プホル・ガルシアという二重スパイの実話が基になっている。
※アイヴィーリーグ:Wikipediaによると『アイビー・リーグ(英: Ivy League)とは 、アメリカ合衆国北東部にある8つの私立大学の総称。米国の政財界・学界・法曹界を先導する卒業生を数多く輩出しており、米国社会では伝統的に「東海岸の裕福なエリート校グループ」と捉えられている。』

蠟燭に火をつけた。慎重に紙を炎にかざし(略)これは、玉ねぎの搾り汁を万年筆に入れて書いたものだ。乾燥した液体が熱によって酸化して、褐色の文字が現われた。

小さなレバーのついている、ペンのように見える金属製のものを持ち出した。
「これは、スティンガー・ペン型銃だ。22口径の薬莢(やっきょう)が入っている。実際に使うには――安全ピンをはずして、至近距離で相手に向けて、レバーを押す」

ハリー:ハロルドの愛称

「マルガレーテは、グレトルという名前で通っています」

書名:卵をめぐる祖父の戦争
原題:City of Thieves
作者:デイヴィッド・ベニオフ(アメリカ作家)
内容:「私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している。」作家のデイヴィッドは、フロリダで隠居生活を送る祖父母を訪ねる。ロシア系移民でありユダヤ人でもある祖父レフ・アブラモヴィッチ・ベニオフから、第二次世界大戦中の体験談を取材するためだ。祖父の話の大半は、1942年の最初の一週間、祖母に出会い、親友ができ、ドイツ人をふたり殺した冒険に関するものだった。当時17歳のレフは、ナチスドイツ軍に包囲されたレニングラード(サンクトペテルブルグ)で飢えと寒さに苛まれていた。ユダヤ人の父親は自著の詩集が原因で1937年に秘密警察に連行されて二度と戻って来ず、母と妹はヴァジマに疎開していた。事の起こりは1941年の大晦日の夜、『キーロフ五階消防団』の団長だったレフは共同住宅の屋上で空の見張りに就いていた。幼馴染みの三人、ヴェラ・オシポヴナと双子のアントコルスキー兄弟が一緒に任務についていた。サーチライトのひとつが市のほうに向かって落ちてくるパラシュートを照らし、それに気づいたヴェラが叫びながら指差した。ドイツ空軍の軍服を着た男でだらりとぶら下がった様子からすでに死んでいるのは明らかだった。風に吹かれてドイツ兵はこちらのヴォイノヴァ通りのほうへ運ばれていた。四人は消火器材を放ったらかしにして、階段を駆け下り落下傘をつけた兵士を探した。パラシュートがしぼんで落ちると、四人は死んだ兵士のそばに集まった。どうやら凍死したらしい兵士の腰からグリシャ・アントコルスキーがワルサーPPKの銃を抜き取り、オレッグ・アントコルスキーが黒革の手袋を脱がし、ヴェラはゴーグルに手を伸ばし、レフは兵士の足首に縛り付けてあったナイフを自分の足首に縛りつけた。皆でフラスクのキャップを取ってコニャックの回し飲みをしていると、軍用トラックが近付いてきた。夜間外出禁止令を許可なく破った者は死刑、消防任務を放棄しても死刑、略奪行為も死刑だ。慌てて四人は走った。中庭の門の内側に逃げようと鉄の桟に飛びつき、レフが後ろを振り返ると、ヴェラが足を滑らせて転んでいた。ヴェラと目が合ったレフは置き去りに出来ず、彼女のへまを憎みながらも助ける。ヴェラが門を越え、後に続こうとしたレフは兵士に足首を掴まれ引きずり下ろされた。四人の兵士に囲まれ、軍用トラックに押し込まれたレフはネヴァ河畔の拘置所、通称「十字」に収監された。しばらくすると、金髪碧眼のコサック人の若い兵士が同じ監房に入れられた。彼はレフに「ユダヤ人か」と尋ね、「ニコライ・アレクサンドロヴィッチ・ヴラゾフです。友達にはコーリャと呼ばれています」と自己紹介した。コーリャは自分は脱走兵ではない、学生だと主張し、卒業論文の「ウシャコヴォの『中庭の猟犬』考」について語り出した。翌朝、処刑されると考えていたレフは、コーリャと共に軍用自動車に乗せられ、カメノオストロフスキー(石の島)橋を渡り、元は貴族の屋敷だった邸宅に連れて行かれた。そこで秘密警察(NKVD)のグレチコ大佐の前に二人は突き出された。大佐は二人の罪状を明らかにしたうえで、紅茶とトーストの朝食をとらせた。それからフレンチドアから外に出ると、凍ったネヴァ川でスケートしている毛皮のコートを着た娘を眺めた。彼女は大佐の娘で、来週の金曜日に結婚するという。大佐の妻は伝統どおりにウェディングケーキが必要で、ケーキがない式は不吉だと考えている。ところが卵が無いと大佐は言い、二人に卵一ダースを手に入れる任務を命令する。任務と引き換えに命を助けるという。二人は配給カードを取りあげられ、木曜日の夜明けまでに卵を持ってくるように告げられた。持ってこなければカードは返さないし、新しいカードが支給されることもない。大佐は夜間外出禁止令の免除許可証と百ルーブル札四枚をコーリャに渡した。屋敷を出た二人は歩いて橋を渡り、市の中心部に戻ると南のヘイマーケットに向かった。闇市でなら卵が見つかるかもしれない。コーリャは歩きながらウシャコヴォの『中庭の猟犬』に絡めながら女を口説く方法についてレフに語る。ヘイマーケットまでの道のりは遠く、おそらく六キロはあっただろう。南に向かって歩き続け、二十歳だというコーリャはフランス女の写真とドイツ製のナイフを賭けてチェスをしないかと持ちかける。実はレフは14歳で辞めるまでチェス・クラブに所属しており、ジュニアの選手としてレニングラード州のトーナメント大会でメダルを貰ったこともあった。だらだらとしゃべり続けるコーリャに答えながらレフは歩き、ヘイマーケットに到着した。二人は卵を求めて露店をめぐるが、9月以降卵を見かけた者はいなかった。かわりに幾つかの噂話を聞いた。軍上層部がモスクワから空輸で取り寄せた、ナルヴァ門近くに住む老人が屋上の小屋で鶏を飼っている等々。売り子の少年と噂話について言い合うコーリャを眺めていたレフに、見たこともないような大男が声をかける。大男が卵を持っていると分かったレフは大急ぎでコーリャを呼ぶ。コーリャは「図書館キャンディ」と呼ばれる本から取り出した製本糊を煮詰めて棒状にしたものを少佐の百ルーブルで購入していた。二人でひげの大男のもとに戻ると、大男は二人を五階建てのレンガ造りの建物に案内した。窓はすべてベニヤ板で塞がれていて、大男は鍵を開けると、ドアを押さえて立った。レフは卵を取ってきてほしいと大男に言うが、通りで商売は出来ないと拒否される。仕方なくコーリャが中に入り、レフが後に続く。背後でドアが閉まり、中は薄暗かった。四階まで上がると、大男はドアを叩き、「客を連れてきた」と言った。ドアが開くと、血だらけのエプロンをつけた女がいた。大男に促されて中に入ると、部屋の中は掛けられている白いシーツで仕切ってあった。ドアを閉めると、シーツが風をはらんでふくらんだ。そのとき、シーツの向こうの奥が見えた。鉤爪にひっかけられた白い肉片が鎖で天井から吊るされていた。人間の女の太もも、子供の胸郭、切り落とされた人の腕。そして、鉄パイプを取り出した大男が襲い掛かり、男の女房が肉切り包丁で襲い掛かった。コーリャが女の顎をパンチし、女がくずおれた。レフは走り出て階段まで逃げた。大男と戦っていたコーリャが部屋から飛び出してくると、二人で建物から逃げ、町中へと走り出した。走っている軍用車を見つけ、両腕を上げ、飛び出す。人食い夫婦がいると訴え、車から降りた将校を案内する。人食い夫婦は既に逃げていた。夫婦の名前をリストに載せて、配給カードを無効にするが、今は警察もあまり機能してないから捕まらないだろうと言われる。二人はレフの住む共同住宅「キーロフ」に向かうが、其処は爆撃されて瓦礫の山になっていた。コンクリートの塊をどけようとするレフを引きずり、コーリャの元恋人だというソーニャ・イヴァーノヴナの所へ行く。快く迎え入れてくれたソーニャの所には六人ほどの男女がいた。外科医と看護婦で二十四時間勤務を終えたばかりのようだった。コーリャとソーニャは一緒に寝室に消えた。翌朝、鶏を飼っているという噂の老人を探しに二人はナルヴァ門へ向かう。門の近くでコーリャは聞き込みのついでに水を運ぶ少女たちを手伝い、老人の住居と噂が真実だと確認する。屋上の小屋に足を踏み入れた二人は、鶏を盗みにくる者を警戒したまま死んだ老人を見つける。老人の孫らしき瘦せ細った少年ヴァディムが、寒さで鶏が次々に死んだと語り、懐に抱いて温めていた最後の一羽を二人に譲る。今にも死にそうなヴァディムに有り金すべてとキャンディを渡して二人はソーニャの所に戻る。ところがソーニャの友人の外科医が「この鶏は雄だ」と告げる。雄鶏は夕食のスープにして皆で食べてしまった。翌朝、コーリャはレニングラードから五十キロ離れたムガへ行こうと言う。ムガにはソーニャの叔父が責任者をしている家禽のコルホーズ(集団農場)があるから、其処で卵を調達しようというのだ。だが、ムガはドイツ軍の前線の向こう側に位置する。コーリャに説得されたレフはいやいや閉鎖された線路を辿ってムガに向かうが……。
※2008年初版
※本書はメタフィクションの形を取っており、作者本人らしき(同姓同名の)人物がフロリダで隠居生活を送る祖父母を訪ねるプロローグから始まる。ロシア系移民の祖父から第二次世界大戦中の体験談を聞くためだ。しかし、実際の作者の祖父母は父方母方ともにアメリカ生まれで、すでに他界しているそうだ。つまり、プロローグからすでに百パーセント、フィクションということである。

ピーテル:レニングラードの愛称

リョーヴァ:レフの愛称
コーリャ:ニコライの愛称
ヴィカという愛称の持ち主はヴィクトリヤ
 

書名:死霊魔術の容疑者 The Suspects of Necromancy
作者:駄犬
出版:GC NOVELS
内容:巨大な版図を誇るラーマ国。しかし、一代で大国を築き上げた「武王」が病に伏したことで各地で反乱が発生し、ラーマ国を滅ぼす勢いとなっていた。ところが、その反乱軍を突如アンデッドの軍団が襲う。不死の軍勢の前に反乱軍は敗れ、ラーマ国軍は持ち直した。アンデッドの軍団を操れるのは禁忌とされる死霊魔術師だけだ。その死霊魔術師の行方を追って、ラーマ国と反乱軍の双方が動き出していた。謎の死霊魔術師の行方を追う王国の騎士コンラートは、薬屋に出入りする怪しげな少女ルナに事情聴取する。死霊魔術師の弟子だというルナは、自分の生い立ちを語り始める。その昔、強力な魔法の力で世界を支配していたアスラの民。その特徴は金髪、赤い眼、白い肌、そして強い魔力。アスラの民の末裔である女児ルナは競りに掛けられ、金貨百枚で人買いの夫婦メイソンとモリーに落札された。人買いの屋敷で他の買われた子供たちと一緒に教育を受けたルナは、金貨五百枚で死霊魔術師カーンに売られた。カーンの弟子になったルナは、師匠の屋敷のあるラーマ国の王都に連れ帰られる。其処は結界の張られた幽霊屋敷もといゴミ屋敷だった。ルナは人買いの所で培った家事能力を発揮し、師匠の作ったアンデッドを使役して屋敷を整え、家事労働の合間に魔法の勉強に励んだ。カーンとの暮らしに慣れると、ルナは師匠の魔法薬を薬屋に納品するために街に出かけるようになる。師匠に渡された認識阻害の護符のおかげで、ルナは街で目立つことも危険に遭うこともなかったが、誰とも交流できず寂しい生活を送っていた。ところが、行きつけの薬屋が老婆から20歳くらいの黒髪の女性ルシアナに代替わりする。ルシアナには護符が効かないらしく、ルナは彼女と顔馴染みになり仲良くなる。ある日、ルナは偉そうな金髪碧眼の少年に声をかけられる。無視したルナの肩を掴んできたので、「無礼なあなたに話す価値はない」と少年を突き放して去った。次に会った時、少年は礼儀正しく自己紹介し、ルナにお茶を驕ると申し出たので付き合うことにした。金髪の少年は「ラト」、彼に従う黒髪の男の子は「キリアン」という名で、二人とルナは何度か会ううちに仲良くなる。実は二人がルナに近づいたのは、ある思惑があってのことだった。死霊魔術師カーンがアスラの民を生贄にして吸血鬼から不死の王に変貌する魔術儀式を行うのではないかと危ぶんでおり、身分を偽って探りにきたのだった。実は薬屋のルシアナも、本当はキリアンの姉で魔術師だった。三人がカーンの動向を警戒していると、恐ろしいほどの魔力の高まりを感知し……。ファンタジック・サスペンス。
※本書は、小説投稿サイト『小説家になろう』に掲載されたものを、加筆のうえ書籍化したもの。
※web版『https://ncode.syosetu.com/n4096if/』
 

ABEMAで視聴。

『怪異と乙女と神隠し』
見えてはいけない「!」の標識――それは、そこに“怪異”があった証。

人々が噂する怪談、都市伝説、現代怪異の一部は実在する。
とある街の書店員の二人、緒川菫子(おがわすみれこ)と化野蓮(あだしのれん)は街で次々と起こる不可思議な事件に立ち向かっていく。

しかし化野には、菫子の知らない秘密があった。
これは現代社会に巣食うミステリーに挑む凸凹コンビの、ささやかな友情と別れの物語。

 

第1話 呪書と乙女と誕生日
閑古鳥が鳴くみどり書店で、デビュー作以降は鳴かず飛ばずで休業状態の作家でもある書店員の緒川菫子は、今日も同僚の化野蓮と不毛な無駄話に花を咲かせている。
そこへ現れた店長は、明日が誕生日の菫子に“逆万引きの本”をプレゼントする。
書店にいつの間にか増える“逆万引きの本”とは、誰がいつ置いていったのか分からない、出所不明な不気味な本。
深夜0時を過ぎ、28歳になった菫子はふと、その本を読んでしまうのだが……。

 

第2話 校舎とよだれと団地妻
月読の変若水(をちみず)の呪いで“変若人(をちびと)”となり、自在に若返ることができるようになった菫子。
時を同じくして化野の妹の乙(おと)は、自身の通う学校で怪異の気配を察知していた。
奇妙な理由で不登校者が続出するコオネ女学院に、菫子は乙の友達のふりをして潜入することに。
若かりし制服姿で、乙の友人たち(天地 のどか・桑島 麻里・宇佐美 エリカ・赤根 珠緒)に紹介され、女子校ライフに舞い上がる菫子だったが……。

第3話 角といじめと髪飾り
早くに両親を失った畦目真奈美(うなめまなみ)は、田舎に暮らす祖母のもとで育った。
貧しくも穏やかで優しい日々を送っていたが、周囲からの当たりは強く畦目はひどくいじめられた。
その過去から、教員になっていじめをなくすことを強く願っていた。
菫子からヨダレカケの話を聞いた化野は怪異の存在を確信し、怪異を捕らえるための作戦を決行する。

第4話 お風呂と掃除とサプライズ
今日も閑古鳥が鳴くみどり書店。
そこへ畦目がやって来て、憑き物が落ちたように話すが、頭にはいまだに塵輪鬼のツノが生えたままだった……。
そんな平穏な日常に戻り、休日を執筆活動に費やしていた菫子。
花見酒で創作意欲を整えていると、化野から「2、3日、乙(おと)を預かってほしい」と連絡が入り、玄関には乙が立っていた。

第5話 下着とお菓子と紅い服
化野が時空のおっさんの元を訪れているあいだ乙を預かることになり、ここぞとばかりにコオネ女学院に乗り込む菫子。
乙や友人たちとお喋りをしながらお菓子を食べて青春を謳歌し、その夜は銭湯でばったり畦目に遭遇して3人で一緒に過ごすことになった。
しかし、穏やかな時間もつかの間、新たな怪異の影が菫子と乙に忍び寄っていた……。

第6話 怪異とメイドとお嬢様
一年前の雨の日に行方不明になったトモコを探しているというシズク。
最後のビデオ通話に映った赤い服から、化野は怪異を台湾の有名な都市伝説“紅衣少女孩(フォンイーシャオニュイハイ)”と予測する。
ただ、紅衣少女孩の怪談に、ノックや雨の要素がないのが気がかりで……。
乙はシズクを助けたい一心で、過保護に心配する化野を振り払って捜索を始める。

第7話 駅とはさみとヘアカット
海を越えて変質した紅衣少女孩は、雨の日にノックに応じた生者を取り殺し、さらには生者と入れ替わって成仏する“替死鬼”の特性をあわせ持つ怪異になっていた。
それを知りながらシズクは、放置子で行き場をなくしていた自分を、家のドアを開けて招き入れてくれたトモコを解放しようと紅衣少女孩のノックに応じてしまう……。

第8話 本と不倫と人魚姫
幼い頃の菫子は、口下手でトラブルを起こしやすい子どもだった。
その日も友達とケンカをして逃げ出してしまい、走るうちに辿り着いたのが“玉心堂書店”だった。
店主の女性は本を読んで涙を流し、菫子にも本を薦めた。
店に入り浸って読書に没頭するようになった菫子に、店主はうまく喋るために「文章を書いてごらん」と助言する。

第9話 夢とダンスと付喪神
乙の友達でアイドルになることを夢見る天地(あめつち)のどか。
しかし病院の令嬢で将来を嘱望されるのどかは、家では家庭教師と勉強ばかりの日々を送っていた。
親の期待を裏切って夢を追う勇気が出ない……そんな彼女の癒しが、人気VTuberの姫魚(ひめうお)よるむん。
いつも生配信を見て励まされていたが、ある日、突然よるむんの引退が発表されて……。

第10話 ライブと呪いと中の人
よるむんが人気配信者の配信を次々とジャックし始めて、騒ぎは急速に拡大する。
のどかだけでも助けようとする化野だったが、よるむんをかばって拒絶するのどか。
そこへ、畦目が車椅子に乗った女性を連れてきた。
彼女は花村 美甘(はなむら みかも)、VTuberとしてよるむんに声を当てる“中の人”で、よるむんを止めるために力を貸してほしいと語り始める。

第11話 猫と水着と黒法師
化野が菫子と河原の土手道を歩いていると、いつの間にか河原は異空間になっていた。
スマホが鳴り、時空のおっさんの警告とともに現れたのは、街の怪異を仕切る“猫の王”。
危うく殺されそうになる化野だったが、菫子の日頃の行いが功を奏して見逃してもらい……。
化野はよるむんの件で得た呪物を携えて、切符と交換するためにきさらぎ駅へ向かう。

第12話 切符と動画と神隠し
菫子の前から化野が消えた。
乙は元の世界に帰る前に畦目の家を訪れ、ひとつのお願いをする。
電車に乗る日、きさらぎ駅に戻ると、そこに猫の王が現れた。
化野が止めに入ったが、猫の王との対話で10年ものあいだ忘れていた真実を思い出す乙。
ホームに向かう道中で、ためらいながら乙は “化野蓮という怪異”に語りかける……。

 

書名:解放 ナンシーの闘い
原題:Liberation
作者:イモジェン・キーリー
出版:集英社文庫
内容:第二次世界大戦期、ドイツ占領下のフランス。1943年1月、マルセイユの旧市街がドイツ軍に焼き討ちされる中をナンシー・ウェイクは逃げ回っていた。旧市街の貧民窟で闇商人に注文していた、今日の結婚披露宴で飲むための特別なシャンパンを受け取りにやってきていたのだ。ゴミ溜めに隠れてドイツ兵をやり過ごそうとしたナンシーは、少年が射殺される一部始終を目撃した。オーストラリア出身の元ジャーナリストであるナンシー・ウェイクは、レジスタンス(抵抗運動)の連絡員にして逃がし屋として活動しており、ナチスからは「白ねずみ」のあだ名で指名手配され賞金もかけられている。潜伏するレジスタンスや工作員の掃討が目的の市街戦から逃れたナンシーは、彼女の身を案じる花婿が待つ式場に向かった。裕福な実業家アンリ・フィオッカと式を挙げたナンシーは、豪華な結婚披露宴の陰でレジスタンスの仲間に自分が目にした虐殺について伝えた。そのころマルセイユに新しく赴任してきたマルクス・フレドリク・ベーム少佐は、工作員狩りが専門のゲシュタポ(秘密国家警察)だった。ますます取り締まりが厳しくなるなか、トゥールーズの連絡員から知らせがきた。脱獄した捕虜を引き受けるべく、イギリスの潜水艦が沿岸を航行する。脱出作戦決行の夜、ナンシーとレジスタンス仲間のアントワンとフィリップは、二十人の兵士を潜伏していた隠れ家から海岸へ連れ出す。迎えのボードに兵士たちが乗り込んでいると、海岸沿いの道路からひと筋の光がさした。運悪くサーチライトに姿を捕らえられてしまい、たちまちドイツ兵からの銃弾が飛ぶ。ボートは沖へ逃げ、ナンシーたちは森へ飛びこむ。ドイツ兵の追跡をかわそうとするナンシーたちだが、アントワンに銃弾が命中し重傷を負う。逃げ切れないと悟ったアントワンは自害し、ナンシーとフィリップは危地を逃れた。悲しむナンシーをアンリは慰める。夫婦でひそかに聞いたラジオのBBC放送でヒトラーがスターリングラードで第六軍を失い、連合国軍は北アフリカ戦線で勝利を収めたことを知った。だが、フランスが占領されている現状は変わらない。一方、ベーム少佐のところへ密告があった。密告者はフィオッカの工場を解雇された男で、アンリ・フィオッカは儲けを労働者に分配せずにレジスタンスの支援に回しているというのだ。その情報をもとにアンリは逮捕され、ナンシーは抗議するが取り合ってもらえない。しかもベーム少佐に捕虜脱出事件の報告が届き、レジスタンスに女性がいることが判明する。ベームは「白ねずみ」の正体は裕福な婦人ではないかと推測し、その条件に合う人物はマダム・フィオッカだと気付く。ゲシュタポ本部から帰宅したナンシーは、レジスタンス仲間の手引きで隣家の小火騒ぎに乗じて監視の目をかいくぐり脱走する。ナンシーは偽造パスポートを使い、レジスタンスの隠れ家を転々としながら逃げた。レジスタンスの逃亡ルートを辿る途中で、ナンシーは脱獄した捕虜のイギリス兵たちと合流する。そして、ピレネー山脈を越えてフランスを脱出するためにペルピニャン行きの汽車に乗り込んだ。だが、駅に到着する直前、ドイツ軍に列車を止められる。慌てたナンシーは相席していた英兵二人と一緒に汽車から飛び下り、葡萄畑に逃げ込むとドイツ兵から必死にのがれた。この際にナンシーはパスポートや婚約指輪の入ったハンドバッグを失いショックを受けるが、それを赤毛の英兵に嘲笑された。三人は徒歩でペルピニャンにたどり着くと、協力者の道案内でピレネー山脈を越えてスペインに出国した。スペインからロンドンに渡ったナンシーは、結婚前にアンリが手配したという弁護士からイギリスの銀行に口座があることを伝えられ、ピカデリーの家を借りる。ナンシーは夫を助けるために自由フランス軍に志願するが、女性の入隊は受付けていないと断られる。焦燥と不満を抱えるナンシーに、レジスタンスを通じて知っていたイアン・ギャロウが接触する。ギャロウの紹介で、ナンシーは英国特殊作戦執行部(SОE)のバックマスター大佐と面談した。SОEに採用されたナンシーはスコットランドで訓練を受ける。ナンシーは訓練生のなかで唯一人の女性であったため、体力面で男性に敵わず落ちこぼれて苦労する。そのうえ男性たちからは嫌がらせを受け孤立する。特にピレネー山脈越えの時にひと悶着あった赤毛の英兵と訓練所で再会し、彼からたびたび妨害をうけていた。ナンシーと同じように孤立していたデンデンことデニス・レイクは、同性愛者であることが原因で訓練生から毛嫌いされていた。元サーカスの空中ブランコ芸人だったデンデンは銃が嫌いだが、無線機の扱いに秀でていた。友人になったナンシーとデンデンは、訓練所を出ると同じ場所に派遣されることになった。SОEの大尉となったナンシーたちの任地は、フランスのオーヴェルニュ地方だった。バックマスター大佐からはその地方最大のマキ(抵抗運動)組織のリーダー・ガスパール少佐に接触し、支配権を確立するように命令される。隻眼のガスパールは、イギリスを目の敵にしているという。デンデンはモンリュソンの町外れ、ナンシーはガスパールの拠点があるムシェ山のあたりにパラシュート降下し、無線機を回収したデンデンとナンシーが合流するという予定だ。飛行機から飛び下りたナンシーのパラシュートは木の枝に引っかかってしまった。ガスパールの組織から迎えにきたという男はタルディヴァと名乗り、木に引っかかったパラシュートを回収した。タルディヴァは戦争が始まるまでは仕立屋をしており、上等のシルクで作られたパラシュートを土に埋めることに反対だった。仕方なくナンシーは、彼を味方に引き込むべくパラシュートを渡した。タルディヴァの案内でガスパールの元へ向かおうとしたナンシーは後頭部を殴られて気を失った。次に気が付いたときには、ナンシーは拘束されていた。縛られたままガスパールと対面したナンシーは尋問に反論し、言葉を尽くして説得しようとしたが無駄だった。それでも何とか殺されずに解放されたナンシーだったが、身の危険を感じてガスパールの拠点から去ることにした。ナンシーは別組織のリーダーと接触することに決め、タルディヴァの案内でショード・ゼーグ近くの高地を拠点とするフルニエに会いに行く。その移動の途中で無線機を回収したデンデンと再会し、三人一緒でフルニエの野営地にたどり着く。フルニエたちの眼前でデンデンが無線でロンドンの人間と通信し、支援物資と支援金を餌に組織を懐柔する。だが、彼らは戦闘経験のない烏合の衆がほとんどで、兵士として訓練する必要があった。ナンシーは戦闘員の家族に給金を支払うために村々を巡り、ドイツ軍の情報を収集した。そして、若者たちに実戦を経験させるためにドイツ軍の送信所を襲撃する計画を立てた。ナンシーは送信所付近の偵察をし、マキ組織の志願者五名を率いた。この奇襲で、初めてナンシーは人を殺した。襲撃が成功したことでマキ組織の士気は上がり、これ以降、小規模な奇襲や破壊工作の作戦が繰り返されるようになった。組織の戦闘員たちもナンシーの指揮を受け入れるようになり、彼女の生活空間として内装工事を施したバスが送られた。だが、あるとき偵察に出たナンシーは、町の市場でドイツ兵が拷問しているところを目撃する。拘束された若い夫婦のうち、身籠っている妻の腹が銃剣で切り裂かれた。夫の方はガスパールの戦闘員だった。それを双眼鏡ごしに見ているしかないナンシーの目に、ベーム少佐の姿が映る。夫婦が殺されると、ナンシーは自転車で三十キロの道を移動し、ムシェ山中腹でマキ組織の見張りに接触してガスパールのところへ案内させた。ナンシーは自分が目撃したことを伝え、ガスパールに拠点を引き払うように告げる。しかし、ガスパールは断った。ショード・ゼーグの野営地に戻ったナンシーは、一連の出来事をフルニエ、タルディヴァ、デンデンといった主だったメンバーに伝える。自業自得だというフルニエを説得し、ナンシーは救出作戦を立案する。ムシェ山を包囲するドイツ軍の地上部隊を攻撃し、ガスパールたちが逃げられるように援護するのだ。ナンシーたちは部下にトラップを仕掛けるよう指示し、ゲリラ戦が始まる……。ノルマンディーに上陸する連合国軍を支援し、フランス解放までの激動の日々を戦い抜いた実在の女性を描くフィクション。
※本書はふたりの作家の合作であり、「イモジェン・キーリー」はイモジェン・ロバートスンとダービー・キーリーの合作ペンネーム。イギリス出身のイモジェン・ロバートスンは、ミステリー作家。ダービー・キーリーはハリウッドで活躍する脚本家で、本書映画版の脚本も手掛けている。
※著者あとがきによると、「本書の執筆に当たっては出来事が起きた順序と日付を変え、いくつかのエピソードを創作し、実在の人物を数名割愛し、複数の人物を合成してキャラクターを創った。」とあり、本書に登場するゲシュタポの少佐マルクス・フレドリク・ベームも、ゲシュタポを象徴する人物として作者が創作したとある。
※著者&訳者あとがきによると、ナンシー・ウェイクは1912年にニュージーランドの首都ウェリントンで生まれ、オーストラリアで育った。十六歳で家を出てアメリカ・ニューヨークに渡り、記者としてハースト・ニュースペーパー・グループに勤務し、ヨーロッパを飛び回った。取材先のウィーンとベルリンでユダヤ人への迫害を目撃し、レジスタンスの活動に身を投じる。第二次世界大戦開戦直後よりレジスタンス組織のパット・オレアリーとイアン・ギャロウが確立した逃亡ルートにおいて連絡係を務め、亡命者と脱獄囚の国外脱出に尽力し、どんな検問もすり抜ける才能ゆえにドイツ軍に「白ねずみ」とあだ名された。小説冒頭で、マルセイユの港が爆撃で壊滅的被害を受けた1943年1月に披露宴を行ったことになっているが、実際には1939年11月30日に南フランスの裕福な実業家アンリ・フィオッカと結婚した。結婚してからは社交界の花形という身分を隠れ蓑に、夫の資産を武器として抵抗運動を支援した。ナチスに拘留されたギャロウの脱獄資金を用立て、逃走を助けたのもナンシーだ。ゲシュタポに睨まれ電話を盗聴されていると知って42年にマルセイユを離れ、ピレネー山脈経由でスペインに逃れた。ナンシーがマルセイユを離れてまもなく、アンリ・フィオッカはゲシュタポに連行された。家族に懇願されてもナンシーに関する情報を明かさず、アンリは拷問の末、43年10月16日に殺害された。ナンシーが夫の死を知ったのは、フランスが解放された後のことだった。ナンシーはイギリスに逃げ延びたものの自由フランス軍に入隊を断られ、ギャロウの口添えで英国特殊作戦執行部(SОE)に採用された。ナンシーは訓練を経て、1944年春、フランスにパラシュート降下。レジスタンスの男たちを率いて戦場で戦い、女スパイの処刑を命じたのも本当にあった話だ。マルセイユでアンリ・フィオッカを殺害したゲシュタポは、ナンシーの捜索に血道を上げた。オーヴェルニュ地方全体に人相書きを貼り、賞金の額をつり上げ、たびたびマキにスパイを潜入させようと試みた。ナンシーが統率に手を焼く抵抗組織マキは、実戦経験のあるメンバーがほとんどいない烏合の衆だった。当時ドイツはフランスの若者を事実上強制的にドイツの工場で働かせていた。ドイツ行きを拒めば食料の配給切符をもらえなくなり、行ったら行ったで多くが懲戒キャンプに送られ、重労働と栄養不足に苦しんだ。そのため忌避者が続出し、三~五万人が山に入ってマキに参加したという。またスペイン内戦で敗れた反ファシズム勢力がピレネー山脈を越えてフランスに逃れ、マキに加わる例もあった。小説で描いたコスヌ・ダリエの戦いはフィクションであり、ナンシーの活躍を象徴的に脚色したものである。終戦後、ナンシー、ガスパール、タルディヴァ、デニス・レイクはフランス政府よりレジオンドヌール勲章シュヴァリエに叙された。フランスの解放を見届けたナンシーはイギリスの政府機関にしばらく勤務した後、故郷オーストラリアに戻った。1957年にイギリス空軍のパイロットだったジョン・ファーマーと再婚して四十年をともにした。85年には自伝を出版して注目を集める。夫の死後、九十歳を目前にしてナンシーはイギリスに戻り、2011年にロンドンで九十八年の生涯を閉じた。本人の希望どおり、その遺灰はモンリュソンから八キロ離れたヴェルネ村の近くに撒かれた。
※ナンシーは『The White Mouse』、デニス・レイクは『Rake's Progress』のタイトルで自伝を執筆、モーリス・バックマスターがSОEの活動を振り返った1958年の傑作『They Fought Alone』は、いまも入手可能である。

バッキー:バックマスターの略称

「任地はオーヴェルニュ地方になる。ヴィシーに近いから、ドイツ兵がうようよしているぞ。気候は厳しく、始終雨が降り、地形は山がちで非常に険しい。つまりレジスタンス組織にはうってつけの環境だ。野放図に茂りなかなか根絶やしにできない地域特有の灌木(かんぼく)にちなんで、彼らは『マキ』を名乗っている。」

山道を十分ほど下ったところに、ショード・ゼーグ(熱湯)の地名の由来となった温泉が湧いている

木炭自動車:木炭を燃やして走る自動車

モン・コロネル:大佐殿