書名:風起隴西(ふうきろうせい) 三国密偵伝
作者:馬伯庸(マー・ボーヨン:中国作家)
出版:A HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOK
内容:西暦230年前後の三国時代の中国。蜀漢の諸葛亮による魏への北伐が続くなか、蜀軍は連弩を使って王双(おうそう)将軍率いる魏軍を壊滅させる。魏の天水郡(現在の甘粛省天水)上邽(じょうけい)の街で暮らす陳恭(ちんきょう)は、妻を亡くした独り身の男だ。天水太守府の主記を務める陳恭は、実は蜀漢の間諜である。諸葛丞相が丞相府のなかに設立した秘密諜報機関である司聞曹(しぶんそう)の所属で、魏の情報収集を主管しているのだ。太和三年(西暦229年:蜀の建興七年)二月六日、鄴城(ぎょう:河北省臨漳、魏の本拠地)の間諜から送られてきた定期連絡を読んでいた陳恭は、とある情報が気になった。雍州刺史・郭淮(かくわい)の要請で隴西天水地区に給事中(きゅうじちゅう)一名が派遣されるというのだ。密書を焼却した陳恭は、翌日、立場を利用して給事中の姓名を調べる。五名の給事中の名を知った陳恭は、派遣される人物を確定させるために、上邽に潜伏しているもう一人の間諜に接触することにする。一方、郭淮は天水郡に反諜機関を設立し、甥の郭剛(かくごう)を責任者の間軍司馬(かんぐんしば)に任命していた。郭剛は蜀から潜入している間諜を捜査・追跡していた。二月十二日正午、陳恭が酒肆に入った時、兵を率いた郭剛が店に踏み込み間諜を包囲した。「白帝」の符丁を持つ間諜は「漢室復興」を叫び、階段から落ちて自害した。陳恭は「白帝」と接触寸前に『露見、逃げよ』の暗号を受け取り、兵が踏み込む前に酒肆を出て逃げ切る。郭剛は間諜を死なせた失敗を悔い、もう一人の間諜を探し出すと決意する。翌日、陳恭は主記の仕事を務めながら白帝が残した文書を探す。夜、白帝が恩人だという老店主から文書を受け取った。文書を読んだ陳恭は、天水に来る給事中が馬鈞(ばきん)だと結論する。馬鈞は技術官僚で、兵器を製造する部署である機技曹(きぎそう)を主管している。さらに同僚の愚痴から知った冀(き)城付近の谷に建設中の大型工房のことに思い至った陳恭は、魏国は蜀から連弩の製造技術を盗む計画であることを察する。二月十四日、陳恭の書いた報告書は蜀漢に送られた。二月十四日、漢中の沔県城(べん:勉県、漢中西35キロ)、陳恭の密書が蜀漢丞相府の司聞曹に到着した。報告書を読んだ司聞曹の副長・馮膺(ふうよう)は、緊急招集をかけ議事を行う。司聞曹のなかでも反諜工作に責任を負うのは靖安司の従事・荀詡(じゅんく)である。魏の間諜から軍の機密を守るために戦わなければならないが、司聞曹を主管している丞相府長史・楊儀(ようぎ)と軍の最高責任者である丞相司馬魏延(ぎえん)は犬猿の仲だった。荀詡は間諜を捜査する一方で軍にも悩まされる。一方、魏の間諜は、靖安司が関所の検閲を強化する直前に蜀に潜入していた。間諜は「糜冲(びちゅう)」と名乗り、ひそかに五斗米教の信徒に接触して協力を求める。五斗米教の教主・張魯は曹操に投降して「閬中侯(ろうちゅうこう)」に任じられ、今は息子の張富(ちょうふ)が位を継いでいた。五斗米教は蜀漢で弾圧を受けているが、漢中周辺になお多くの信徒が残っていた。当然、荀詡も五斗米教徒の動向を調べたいと考えたが、上司である馮膺が反対し……。三国志の裏側を描く緊迫の間諜(スパイ)小説。
※原書初版2006年に出版され、十年後、作者本人によって「新版」として書き直された。翻訳底本は『風起隴西 新版』(湖南文芸出版社、2017年)。
※作者『あとがき』によると、『風起隴西』に登場する名称の多く、たとえば靖安司、司聞曹、軍正司、および蜀漢の行政手続きは作者の架空で考証はない。だから、厳格に言えば『風起隴西』は三国歴史小説ではなく、三国の歴史を借用した架空小説だ。とのこと。
※『訳者あとがき』によると、本作は馬伯庸氏の出世作(成名代表作)であり、「歴史可能性小説」の出発点である。
※本作は魏では曹叡(そうえい:曹操の孫)、呉では孫権、蜀では劉禅(りゅうぜん:劉備の子)と諸葛亮丞相の時代が舞台。
弩車(どしゃ:車両型の弩)
弩(いしゆみ)隊
戟兵(げき:戟は枝をもつ槍)
環首刀(かんしゅとう:柄に環がついていて手に結びつける刀)
哨箭(しょうせん:鏑矢、音の出る矢)
今にも進軍を開始する態勢に、儀幡(ぎはん:儀礼用ののぼり)、司戈鼎(しかてい:三本足の祭器)、および祭案(さいあん:儀式用の台)など、出征式に必要な器具がないことに気づいただろう。香燭すら準備されていない。
大爺:だんな
官爺:おやくにんさま
寒族:名門ではない
紈絝:絹の白ズボン、良家の子弟
老頭子:おやじ
老婆:かみさん
狗才:ごくつぶし
姑娘(くーにゃん:若い女性)
この書呆子(せけんしらず)は書物ばかり読んでいて
孤:わたくし(君主の自称)
相公:あなた
微臣:わたくしめ
小人:わたくしめ
在下:それがし
小官
子供の名を呼ぶとき「児」をつける。例→螢児(けいじ)、正児(せいじ)
麻紙
書棚だ。巻帙(かんちつ)が置いてあり
竹簡(ちくかん:竹の札)
縑帛(けんぱく:極細の糸で織った絹)
四六駢儷体(べんれい:四字六字の対句を使った華麗な文体。漢から唐の古文復古まで流行した)
刻刀:竹簡を削って字を消す道具
算木(さんぎ:計算過程を記録する棒)
餌餅(アルビン:米粉のお焼き)
雑砕湯(ざっさいとう:モツ煮)
湯はスープのこと
井塩(せいえん:塩分をふくむ井戸から作った塩)
銀耳湯圓(インアルタンユエン:白キクラゲ入りの団子汁)
屛風に描かれた女が七盤舞(しちばんぶ:地面に盤を置いて靴で打つ舞踏)を踊っていて漢代を髣髴(ほうふつ)させる。
胡床(こしょう:床几、おりたたみ式の椅子)
給事中(きゅうじちゅう)は内朝(ないちょう)官に属し、皇帝の身辺に侍(はべ)って諮問(しもん)に答える。皇帝に同行する場合をのぞいて京城(けいじょう:国都)を離れて地方に行くことなどほとんどない。
度支曹(たくしそう:官名、尚書省の下部で主計部門)
司空:建設長官
食邑(しょくゆう:領地)
皇室の藩屏(はんぺい:守護の垣)
歴代の皇帝が即位する時、いつも各地で黄龍や鳳凰などの瑞祥が現れたと宣言し、これが帝位の合法性をささえる輿(よ)論を準備する。黒い牡牛(おうし)はあきらかに天を祭るための『玄牡(げんぼ)』で、即位の儀礼に欠かせない犠牲であろうと。
※『論語』堯曰。敢えて玄牡を用いて、敢えて昭らかに皇皇后帝に告す
獬獣(かいじゅう:獬豸、法治を司る神獣)
貔貅(ひきゅう:蓄財の神獣)
牙門将(がもんしょう:軍門の旗を守る指揮官)
糧田曹(りょうでんそう:飼料係の役人)
糧草(食糧と馬草)の輸送
衛尉(えいい:宮廷守備指揮官)
県尉(けんい:地方警察)
裨将軍(ひ:裨は輔佐の意)
牛記酒肆(ぎゅうきしゅし:酒肆は酒場、記の前は屋号)
白い手ぬぐいを肩にかけた店員が迎えにでた。
商棧(しょうさん)、旅店:いずれも宿泊施設
宵禁(しょうきん:夜間外出禁止)
ちょうど塔楼から司昏鼓(しこんこ)がトントントンと三つ鳴った。もう半時辰で宵禁だ。太鼓の音は住民に早く帰宅せよと告げていた。
哨楼(しょうろう:見張りの塔)
城楼の甬道(ようどう:壁のある専用路)
胸墻(きょうしょう:城壁上の凹字穴の部分)にいる兵士
平凡な瓦葺きの家だった。庁(ちょう:広間)と東西の廂房(そうぼう:脇棟)があり、庭に厩があった。
漢白玉(かんはくぎょく:大理石)の欄干
燭花(しょくか:ろうそくの炎)をかき立てる。
乾糞餅(かんふんへい:牛糞ケーキ、燃料)
而立(じりつ:三十歳)
「流言の恐ろしさは『三人、虎を成す』です。」
※三人が言えばいない虎がいることになる。『戦国策』魏策二
「古人云う『人はその名のごとし』と。」
「孟子も『規矩(きく)なければ方円(ほうえん)を成さず』とのべられておる。公文の格式には古から決まった形式があって、綱紀を正すのに用いるのです。」
※コンパスや定規がなければ方形や円を描けないの意
女人の月経帯
髪は百合髻(ゆりけい:頭頂で高くまとめた髪型)に結い、白い絹の襦(じゅ:短衣)と裙(くん:スカート)をつけ、腰に緑色の帯を結んでいる。典型的な酒場の女の装いだった。
彼女が腰にさげた香袋
金鑲玉歩瑶(きんじょうぎょくほよう:歩くとゆれるかんざし)
明珠(めいじゅ:真珠)
美男計(おんなたらし)に不向きな者で誘惑しようと言うのだ。
食指:人差し指
下馬踏(げばとう:馬から下りるための台)
佩鉤(はいこう:帯につける金具)
朝服、官服、普通の布衣
鶴氅(かくしょう:鶴の羽毛をまぜた布でおった上着)を羽織り
講経博士(こうけい:儒教の経典を解説する博士)
経文博士(儒教経典の権威者)
清談(高尚な話)と玄学(老子、荘子、易などの抽象的な学問)を好み
辰時正刻(朝八時)
寿辰(じゅしん:誕生日)
杖責(じょうせき:杖刑、棒打ち)
金鳳闕(きんほうけつ:宮殿の左右にある望楼)
繫文縟礼(はんぶんじょくれい:細かい規則や礼)
この両者が一族なら同名などありえない。どちらかが諱(いみな)を避けるはずだ。
※避諱。目上の人物の名を避けて使わないこと
士籍が記載するのは名門の戸籍だ。
民籍、軍籍
「戸籍名簿には本家と分家の記載があるだで、族人のつながりを調べたいなら各家におもむいて家譜を調べなければなりません。」
族譜:家系図
川烏(せんう:トリカブト)
車の簾(れん:カーテン)
「靖安司はあなたのために生祠(せいし:生者を神として祭る廟)を建て、一日三度の香(こう)をあげ、四季のお祭りをして差し上げますよ」
先帝托孤(たくこ:遺児の世話を頼むこと)の臣
頬骨には眼をひく高原紅(高地に住む人の頬にある赤斑)があり
傍らに刺繡と針、糸が置いてあり、夫人が女紅(じょこう:女工とも。主に女性の針仕事)をしていたことがわかる。
疏浚(そしゅん:河道をさらい浚渫すること)
「謬賛、謬賛(びゅうさん:過分なほめ言葉の意)」
息子が今年七歳になり、蒙(もう)を啓(ひら)いてくれる老師(せんせい)を探さねばならないのだ。
大変な酢甕(すがめ:酢は嫉妬深いことを表す)を夫人にした
燭龍(しょくりょう)とはすなわち伝説の人面龍身の神獣で、口に燭をくわえ、西北の日の射さない幽陰(ゆういん)の地にいると。この名称は『山海経(せんがいきょう)』に見える
花都は広州の別称
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