書名:邪神の花嫁御供(ごくう) 生贄は真実の愛を捧ぐ
作者:田井(たい)ノエル
出版:小学館文庫
内容:帝都の歌劇場で男役を演じる花形役者・雪風(ゆきかぜ)早霧のもとに、故郷の瑠璃村から手紙が届く。妹の麻宵(まよい)が神の花嫁に選ばれたという知らせである。村に祀られている神「オオルリ様」へ嫁に逝くとは、「花嫁御供」と呼ばれる生贄のことだ。両親を亡くした早霧にとって、妹はたった一人残された家族である。いつか一緒に暮らすという夢がある。早霧は所属する桜塚歌劇団の経営者・桜塚清次(せいじ)に休暇を願い出る。六年前、十二歳の早霧を見出し役者として育ててくれた清次は、生贄を前時代的だと半笑いする。だが、早霧は神の使いである蝶が神罰を下す光景を目撃したことがあるのだ。清次は半信半疑ながらも、早霧を快く送り出してくれた。瑠璃村に出入りする行商人・長部(おさべ)の荷馬車に同乗し、早霧は帰京の途につく。両親の死後、姉妹は父の兄である村長に引き取られた。だが、可愛がられていた妹と違い疎まれていた早霧は、ある日家宝の壺を割ったという身に覚えのない事で弁償を強いられた。そして、長部に連れられて出稼ぎに行かされたのだった。村に着くと、洋装の早霧は注目の的になる。再会した麻宵も、流行の衣装をまとう早霧に驚く。神託で指定された「新月の夜、子(ね)の刻」、鳥居をくぐる花嫁の麻宵に付き添う早霧は、拳銃を手に帝都に行こうと誘う。「家族で暮らそう」という早霧に、「家族なんていません」と麻宵は笑う。そのとき木陰に潜んでいたらしい男二人に襲われ、早霧は鳥居の向こう側に倒れてしまう。そして、早霧が身を起こすと、男たちも麻宵も消えていた。早霧はただ一人、異界にいる。そこへ現れた美しい男性は、瑠璃色の瞳に、青とも銀とも区別がつかない髪の色をしていた。名乗らなくても「オオルリ様」だと早霧は理解する。早霧は花嫁ではないと弁明しようとしたが、オオルリ様は「おいで、花嫁」と手招きする。早霧は拒むこともできず、オオルリ様の屋敷に連れて行かれる。人ではない少女にもてなされた早霧は、次の夜、オオルリ様の用意した贈り物を見せられる。庭園には植物で拘束された長部が震えていた。早霧の仕送りしていた金を懐に入れていた長部を処刑してあげよう、とオオルリ様は告げる。早霧に喜んでほしくて捕まえてきたというのだ。青い蝶が長部の身体をびっしり覆い、生きながら体液を吸っていく。おぞましい光景を見せながらオオルリ様は「私を愛してくれるか?」と早霧に求める。「愛するわけがない」と答えた早霧は、拳銃で威嚇射撃して長部に群がる蝶を離散させた。オオルリ様に「処刑をやめろ」と要求する早霧に、まだ生きていた長部が助けを求める。だが、早霧は「黙れ」と、長部に銃口を向ける。長部の着服には最初から気付いていたと、早霧は告げる。そして、長部が人から騙し取った金を貯め込んでいた蔵は、今ごろ清次が根こそぎ財を運び出していると教える。だから、オオルリ様に向かっては「私の報復を奪うような真似は、余計なお世話だ」と早霧は宣言する。それから、早霧は「愛を教えてやろうか?」とオオルリ様に提案する。「人間の娘から愛される技術を教えてやる。目標が達成すれば、私を帝都に帰してほしい」と交換条件を持ちかけるが……。人間に愛されたい邪神と、経験もないのに恋愛指南する男前女子の、大正浪漫風ファンタジー小説。