最後のユダヤ人 | kanoneimaのブログ

kanoneimaのブログ

私的備忘録

書名:最後のユダヤ人
原題:The Last Jew
著者:ノア・ゴードン(アメリカ作家)
出版:未知谷
内容:1489年8月、スペイン王国カスティーリャ地方トレド、コンベルソの医師ベルナルド・エスピーナは聖母被昇天小修道院院長パードレ・セバスティアン・アルバレスから呼び出されて殺された少年の死体を見せられる。少年メイールはユダヤ人銀細工師エルキアス・トレダーノの息子で、依頼された聖骨箱を届ける途中で強盗に殺されたらしい。小修道院長に犯人を見つけるよう頼まれたベルナルドは遺体を調べた後、周辺を訪ね歩いて聞き込みをした。その結果ベルナルドは殺人事件に異端審問所所属の修道士が関わっていることに気付く。そんなときベルナルドは異端審問所からの呼び出され、フライ・ボネストルカと面会する。そして修道士ボネストルカこそが殺人者だと悟ったベルナルドは家を引き払い家族を連れてトレドから逃げ出した。その後、聖アンナの遺骨も盗まれたことで小修道院は閉鎖されてしまった。それから3年後の1492年、フェルナンドとイサベルのカトリック両王は「キリスト教への改宗か追放か」をユダヤ人に迫る布告を行った。スペインからの退去期限は8月2日。長男を喪ったエルキアスは次男と三男を連れてスペインを出て行く決心をした。エルキアスは不足する旅費を補うために未払いの顧客フェルナン・バスカ伯爵を訪ねてトレド郊外のテムブレケ城に赴く。応対に出た執事に伯爵は留守だと告げられたエルキアスは期限ギリギリまでトレドに留まることに決める。エルキアスは三男のエレアサルを弟夫婦に預け、次男のヨナ・ベン・エルキアス・トレダーノと出発目前の最後の夜を自宅で過ごす。そこへ修道士ボネストルカに扇動された群衆が押し寄せ、エルキアスはヨナに裏窓から脱出して隠れているように指示する。言われた通りに洞窟に身を潜めていたヨナは三日後、父の友人の金細工師ベニート・マルティンの家へ人目を忍んで訪れる。ベニートから父の死と叔父夫婦が弟を連れて旅立ったことを聞かされたヨナは後を追おうと考えたが、今からでは合流して国外退去するには間に合わないと指摘される。ベニートからキリスト教に改宗して自分の養子になるよう勧められたヨナはスペイン最後のユダヤ人となることを決意し、弟宛の手紙を空き家となった生家に隠すとロバに乗ってトレドから立ち去った。ペオンとして偽名を名乗って各地を逃亡するヨナは、シウダー・レアルの町でアルグアシルに留置場の小間使いとして雇われる。囚人の世話をすることになったヨナは独房のひとつにトレドで医師をしていたベルナルド・エスピーナを見つける。かつてヨナの亡母を治療したことのあったベルナルドは、彼をトレダーノ家の息子だと覚えていた。ヨナは兄が被害にあった強盗殺人事件の実行犯が異端審問官フライ・ボネストルカであり、真相に気付いたベルナルドを無実の罪で拘留したことを教えられる。ベルナルドから彼の息子への聖務日課書を託されたヨナは、アウト・デ・フェで火あぶりの刑に処せられた彼を見届けると、父と兄を殺したボネストルカへの復讐を胸に町を離れて流亡の生活を続けた。ヨナはグラナダでジプシーの指導者ミンゴと出会い、異文化異民族のなかで生きている彼らの精神に感銘を受ける。そして、絹織物商イサアク・サアディから隠れユダヤ教徒の生活を知らされ、彼の娘イネスに恋する。だが、異端審問の手がグラナダにまで伸びて来ているとのミンゴの忠告に従ってグラナダを去り、船員見習いをして、ジブラルタルに行き着く。そこで、武具師マヌエル・フィエロと出会い、見習いとして働く。敬愛するマエストロ・フィエロが殺されると、彼の遺品を持ってサラゴサで医師をしているマヌエルの兄ヌーニョのところへ行く。医師ヌーニョとの出会いはヨナの人生と思想を根本的に変え、彼は医師となる決意をした。ヌーニョの下で見習い修業をしていくうちに、ヨナは人間の肉体の癒しを通して徐々にに心の癒しに目覚め、やがて怨讐の彼方へ辿り着くのだった……。本書は異端審問時代の1492年にスペインからユダヤ人が追放された歴史的事件を背景とした歴史小説である。
※2000年初版
※コンベルソ:(スペイン語で)キリスト教に改宗したユダヤ人、およびその子孫。
※パードレ:(スペイン語で)司祭(神父)のこと。原義は「父」。
※フライ:(スペイン語で)修道士
※ペオン:(スペイン語で)最下層の肉体労働者。
※アルグアシル:(スペイン語で)裁判所の廷吏(ていり)。
※聖務日課書:(カトリック用語で)司祭や修道者が毎日唱える聖務日課を収めた書物。
※アウト・デ・フェ:(スペイン語で)異端判決宣告式。
※マエストロ:(スペイン語で)親方、師匠、船長。

ヨナは受領書を書いたが、執事はほとんど字が読めなかった。執事は自分の十字記号をぞんさいに書いた。
※十字記号:字を書けない人が代わりに書いた記号

修練士:修道請願を立てる前の試験期間中の人。
助修士:聖職位階につかない修道者。

セボ:セバスティアンの略称。