倒れても生にしがみついて | Tへ

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ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪

今日が期限のTの用事に行くことが出来なかった。

足代を考えたら放置するしかない。

彼が購入した物が海外から届いて局で預かっているという。

期限は今日まで。

ネットで調べて何を購入したのか検索したけど

痕跡がないから

もういいやと思って放置した。

T自身も記憶が無い様子で寧ろ体調がふらついている。

昼頃まで横になったまま起き上がれない状態の彼を見守る。

起きてきた彼に何か食べる様に言っても食欲は無い様子だった。

自分の体調を心配して本人はネットで鰻を購入して

冷凍保存してある。

それを食べられるか問いかけたら今すぐ食べると言うので

解凍して温めてタレと私が漬けた実山椒を添えて持っていった。

国産の高い鰻をご飯のないままつまみたいらしい。

大きなお皿に一匹丸ごと乗せてTの部屋へ運んだ。

ゆっくりと吟味しながら

逆流する事なくTは完食してくれた。

鰻は私も大好きだったけど

昔、鰻の小骨が喉に刺さったトラウマで

一口ぐらいで引いてしまう。

しかも甘い味付けが苦手だったりもする。

だからTが食べてくれるか心配だったけど

ゆっくりと吟味しながら完食してくれた。

その後に薬を飲んで

部屋を出る時に再び

ひっくり返っていたけれど

そんな光景を目にする度に

Tは今の現状に何を思っているのだろうと

不可思議な思いに囚われる。

最近はずっと昼過ぎまで横になったまま起きてこない。

そして起きて2~3時間一緒に過ごしたら

再び横になってしまう。

体力温存は大事だけれど出かけられないほど

ふらついている様子に危機を感じている。

全てはTの意志次第だと思う。

舌も声も失って呼吸も苦痛な日常に

彼の険しい表情を読み取る。

生きる事にエゴイストな思いは強要したくはない。

倒れてばかり居る彼の傍らで

唇を噛みしめて感情を押し殺す。

もしもとか

万が一なんて

何度思った事だろう。

苦しい表情のTを前に何も出来ない。

たった一匹の鰻を食べられただけでも

安心したい。

彼の用事がもうひとつある。

歩いて行くには遠すぎる。

タクシーを使っても高額になる。

もう

どうにでもなれと思ってしまう。

こんな時に思いつくのは

顧客に対する企業のサービス。

これから先

店舗まで足を運べない高齢者は増加する。

自宅まで来て対応してくれるビジネスが必要なのかなと思う。

予算が掛かってでも

送り届けてくれたら良いのにな。

フラフラとまともに歩くこともままならないTに

運転は無理だった。

私はスクーターは好きだけど

荷物を載せるとウイリーしてしまうから

自転車を買おうかな。

今更、車の運転は私には向いていない。

鰻一匹を完食して

Tは薬を飲んで横になっている。

最近、起きているよりもずっと横になっていることが多い。

考えてみると

過去に舌癌に罹患した術後も

ずっとそんな感じだった。

食べられずに横になってばかり居る彼に

不安は尽きなかったけど

元気になってくれた。

だから

今は体力温存の時期で

無理をさせてはならないと思っている。

あの頃よりも年齢は重ねているけど

今日、鰻を食べられたのだから

きっとTが元気になってくれる日が来ると信じて

長い目で見守ろうと思う。

近くのスーパーへさえ買物に行くことの出来ない状況だから

せめて中古でも良いから自転車を購入して

私が食材の調達に行かれたらと思う。

コンビニで購入した日本酒を

一杯だけ口にして階下で眠るTを横目に

彼の買った日本酒を私も拝借して

現実逃避して眠れたら少しは穏やかな気持を取り戻せるかもしれない。