Tへ

Tへ

ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪

帰宅した翌日の朝

主治医から電話が来た。

Tの病状について本人を前に言えないことを

伝えられた。


私はあえて何も言わなかったけど

Tに投与されている抗がん剤は

2~4ヶ月後に効果がでる。

それなのにまだ2ヶ月も経過していないのに

効かないと断定するのはおかしい。

その間に体力も奪われていくから

経鼻経管栄養で胃に栄養を送って欲しいと伝えたのに

何も対応されずTは萎んでいくばかり。

癌に栄養を与えてしまうからと言うけれど

口から栄養を摂る分には問題ないのが納得がいかなかった。

癌に栄養を与えるからと言っても

本人はずっと空腹状態である。

飲み込めないだけであって食べたい思いはある。

胃に栄養を入れて欲しい。

このままでは水分だけで痩せ細って

体力を失って治療も出来なくなってしまう。

点滴だけでは持ちこたえられない。

次の治療まで体力を維持するためにも

栄養が必要だった。

癌の影響よりも痩せて体力を失って

生命が危ぶまれると感じている。

今の主治医と私の考えは異なる。

主治医はTがもう

食べたくない飲みたくないと判断している。

そうなったら体に負担の掛かることはせずに

自然の流れに任せようとしている。

私は次の治療後に効果を期待している分

体力も必要だから

栄養を胃に入れて欲しいと思う。

Tは食べたい思いなのに

食べる意思がないと勝手に見なされている。

栄養を摂ることで免疫が活性化して

僅か少しでも癌が小さくなれば

再び口から栄養補助飲料を摂り

延命のための治療を続けられる。

でも医師は

ネガティブな方向へばかり話を持って行く。

今、彼に必要なのは栄養だと思う。

それに対して何の処置もしてくれない。

命が掛かっているのに。

横になっているTに

そんな話をしても

体力の無い彼はシンドイだけに


「もういいから。」


と 私の言葉を手を振って遮る。

次のキイトルーダ投与まで

まだ日数がある。

訪問診療は決まったものの

日にちが未定なだけに焦る。

出来れば自宅で点滴を打ってから

抗がん剤投与の通院に行く方がいい。


足取りもおぼつかない彼が

昨日は4回起きてきて水分を摂った。

主にお茶だけど焼酎も欲しがった。

今日は2回起きてきて

一緒に日本酒を飲んだ。

固形物も栄養補助飲料も飲み込みづらいから

カロリーを摂るために

お酒も栄養だと思っている。

良くないことは解っているけど

生命を繋ぐために

主治医が栄養を入れてくれないのなら

本人が欲しいものでカロリーを摂るしかない。

一時

脱水状態で寝たきりだったのに

昨日も今日も

起きてきて一緒に動画を見て過ごした。

顔色が悪いこともなく身体も衛生的に保たれている。

目力の鋭さも変わりなかった。

体はヨレヨレだけど

あと少しでキイトルーダ投与から二ヶ月になる。

少し効果が出ているのであればと

細やかに期待している。
 

2~3日前から

Tは 殆ど横になったまま

何も食べず飲まずだった。

水分を渡しても

一口二口飲んで

もう無理という。

当然ずっと固形の薬を割っても飲めずに

吐き出してしまう。

体の傷や床擦れは

訪問看護師さんに処置していただいて

とても綺麗になってきている。

何も口にしないから

相当体はシャープになって

背骨が浮き出てゴジラの背中の様。

シルバーウィーク直前に

吐血もしている。

病巣が避けたのかもしれない。

訪問看護師さんが言うには

脱水症状らしい。

今日

午前中に救急車で病院へ。

点滴を打って貰った。

長い待ち時間に病院スタッフの方達から

多くの質問を受ける。

入院に関しては本人が嫌がるので

連れて帰ると伝えた。

ケアマネージャーさんに

帰りの介護タクシーの依頼をした。

その後

スタッフの方が来て

本人が入院を希望していると言われた。

確かに

口から栄養が摂れないなら

入院して栄養を入れて貰った方が良い。

承諾して再び電話して

介護タクシーをキャンセルした。

点滴は2パック行われていたので時間も掛かる。

入院の手続きに沢山の書類に目を通し記入する。

何だか

クタクタだった。

眠剤を飲んで横になり眠りたい。

洗面に入り鏡の向こうの自分を見る。

ほつれ毛で乱れた髪を結ってマスクの下の顔は

だいぶやつれて 

一気に歳をとってしまった様だった。

年齢のせいか頬もこけてきた。

はぁ~

何だかなぁ…と思う。

診察中の主治医は多忙で中々来られない。

いつ来られるかも解らない。

Tが点滴をしている間

待合の廊下で待っていた。

食欲はないのに お腹が鳴る。

売店で買った茹で卵を口にしたけど

喉につかえて上手く食べられなかった。

味もハッキリと解らない。

Tの処置室が移動したらしく呼ばれた。

点滴を受けるTの横に座りボンヤリと過ごす。

入院するなら帰って再び

入院に必要な物を持って届けないと。

それらのことをシミュレーションしていたものの

頭も心も体も追いつかない。


「オレンジジュースが飲みたい。」


Tに筆談されて買いに行った。

きっと飲めても少しだろう。

それでも口から飲めるなら嬉しい。

ジュースを口にした後に主治医が来てくれた。

主治医の話では

入院したら経鼻経管栄養を無理に行うと

癌にも栄養を与えて癌が大きくなる恐れがある。

だから点滴か

もしくは

緩和ケアでホスピスに行くことになる。

退院することはもう無理で自宅には帰れなくなる。

家で最期を迎える希望もなくなる。

そして抗がん剤治療もストップになってしまう。

もうすでに

訪問診療の依頼の書類は出しているので

自宅で医師に点滴等の処置を受けて

後は通院で治療を続けてはどうかと言われた。

私は

訪問診療を受けたら

もう

病院側で治療を受けられないと思っていたので

それならその方が良いと判断した。

そしてTも納得してくれた。

点滴が終わったら、家に帰ろう。

そしてまた一緒に動画を見て過ごそう。

再びケアマネージャーさんに連絡して

介護タクシーを依頼した。

はじめて利用した介護タクシーは

院内まで迎えに来てくれて

自宅に着いたら

家の中までTを運んでくれる。

とっても頼もしくて助かった。

もっと以前から利用したかった。

本当に知らないことだらけで頼りない自分。

周囲の皆さんが助けてくれる。

点滴を受けて元気が出たのか

帰宅しても暫く

水分を補給しながらTが起きていた。

一緒に動画を見てのんびりと過ごした。

本音を言うと私はバテバテだったけど。

少しでも起き上がって

一緒に過ごせる時間が尊い。

足下で愛犬が走り回っている。

帰ったら

お酒飲みたいと言っていたのに

本人は要求してこなかった。

あまり会話もなく一緒の時間を過ごして

その後

寝てしまったけど

病気に目をつぶれば

平温に流れていく時間に

小さな幸せを感じている。
 

ずっと先延ばしにしていた婚姻届。

Tの余命が近づいている。

体調も心の状態もすぐれなくて

起きて横になってを繰り返していた。

数日前

彼の父のところへ行き婚姻届に署名をしていただいた。


「まだ出しておらんかったんや。」


そう言われた。

自宅に段ボールがたまっていて

片付けることも出来ずにいる私に

Tの父が勝手口に出しておけば処分してくれるという。

腰を痛めている彼の父に頼むのは申し訳ないけど

あまりにも大量にたまってしまったから心配もされている。

私は人に頼むことが下手だから

全て自分で抱えてしまい今も大変な状態でもある。

業者に依頼して粗大ゴミも処分したい。

2階の部屋や壁も修理したいし

扉のガラスも直したいのに

落ち込んでばかりで行動できない。

いつも起きてから愛犬の世話に洗濯やキッチンの片付け

ゴミの処理にかるい掃除などしていると

途中から疲れて横になりたい病になる。

落ち込むしすぐに疲れる。

出来なくて椅子に座り途方に暮れるけど

座っているのもしんどくなってくると

再び布団に潜る。

薬を飲まない限り眠れないから

頭の中は心配事で一杯になる。

キイトルーダを3回投与してから

Tの患部に効果は依然として表れない。

効果が期待出来るのは

もっと先だけどTが今の状態に耐えられるのか不安でならない。

ここ数日は夜に少しだけ起きてきて

一緒に動画を見る。

栄養補助飲料は1缶の半分くらいしか口に出来ない。

お酒は1~1杯半の焼酎の水割りだった。

それとお茶をほしがるけど

沢山飲むことが無理で

どれも残して1時間ほどすると


「ねるわ」


そう筆談して再び横になる。

治療の効果が出るのは来月の頭を過ぎてからなのか。

私の中ではそう読んでいるけど

ここまで弱っていく彼を見ていると

その期待に自信が持てない。


市役所の時間外窓口に婚姻届を持って行った。

なぜ今、籍を入れるのか。

それは

お墓を買おうと思うから。

管理費の不要な眺めの良い高台に

樹木葬のお墓を購入して

Tと私とハッピーが

人生を終えたら入るために。

管理費は不要だから

Tの息子さんに負担も掛からない。

それと

愛犬が居る限り

この家に居たいと考えた。

半分とは言えないけど私もローンは払っている。

だからといって家の所有権はいらない。

籍を入れないと居住権が難しく住み続けられない。

愛犬が居なくなれば出て行こうと思っている。

人生の中でTと出会ってから

わずか11年しか経過していないのに

沢山の出来事があって心配な思いは計り知れなかった。

心臓が停止しても生還するなんて

彼の生命力の強さなのか強運なのか解らない。

切ない思いで一人時間外窓口に婚姻届を出したら

宗派を聞かれた。

首をかしげていると


「お悔やみをお届けするので」


そう言われた。

お悔やみ?

そして更に


「埋葬は火葬ですか?」


そう聞かれた。


そこで勘違いされていることに気付いた。

私はすぐに婚姻届だと伝えた。

すると慌てて2人の担当の方が立ち上がり

わたしにお詫びしてきた。

この日

前に来た方が

違う書類を出されたので

私の書類も同じように捉えられていた様子だった。

いまTが寝たきりな状態なのに

しゃれにならないなぁと思いながら

軽く笑って交わして窓口を出た。

思い返せば

自分がそれだけ落ち込んだ表情だったのかもしれない。

そんなちょっとした出来事が心を揺さぶるし辛くなる。

窓口の方二人は

何度も何度も頭を下げてくれたけど

あまり記憶に残したくはない出来事だった。

Tの寝る部屋を開けて声をかけても

しんどい様子で起きるのも無理だという。

市役所に行ってきたと伝えたけど

反応はなかった。