来ない | Tへ

Tへ

ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪

 

記憶にはないけれど嫌な夢を見た。

 

嫌な夢というよりも

 

最近は夢がリアルすぎて起きた時に疲れる。

 

現実に戻っても疲労感が抜けずにスッキリとしない。

 

空が明るくなっても太陽のまぶしさが不快に感じて

 

二重にしたままのカーテンを開ける事すら億劫だった。

 

頭からすっぽりと布団をかぶってこのままぐっすりと

 

冬眠してしまいたい。

 

そんな気持ちが付きまとう日々。

 

でも起き上がって数分数十分すればきっと

 

やる気モードに切り替われる気がする。

 

完璧とまではいかないけれど、もっと片付けたい。

 

昨夜も深夜にやる気スイッチが入って

 

食器棚の一部を全て床に並べて不要なものをはじいて

 

片付け始めたから。

 

しかも夜中に、そんな事している自分は少し異常なのかな。

 

思い立ったら即実行、昔はよくそういう事があったけれど

 

今は多くの経験から慎重になり石橋を叩かなくては

 

渡れない性格に変わってきている。

 

片付けることに石橋をたたく必要などないけれど

 

今すぐやりたいと思うと寝るのを惜しんでしまう。

 

それが悪循環なのか熟睡できない日々が続いている。

 

 

今朝、Tにラインを送った。

 

いつもならすぐ来るはずの返事がずっと来ない。

 

もしかしたら出かける支度に追われてスマホを

 

見ていないのかもしれないとしばらく様子を見た。

 

天気が曇りそうだったから

 

朝のうちにT用の布団を干して不要なゴミをまとめて

 

再度、掃除機をかけた。

 

きっとTは午後に来るはずだから

 

もしかしたら行きつけの飲み屋に行きたがるかもしれない。

 

家で食べるなら、その時買いに行って考えようと思い

 

買い物に出て自分用のお惣菜だけ手にして帰宅した。

 

帰宅してスマホを見る。

 

今朝送った私のラインはまだ未読のままになっていた。

 

どうしたんだろう。

 

もしかしたら新幹線に乗って眠っているのかもしれない。

 

でも、いつもなら乗車した時に連絡をくれるはずだった。

 

ありがちなのはスマホの充電が切れてしまったとか

 

家に忘れたまま出てきてしまったとか

 

考えられる限りの憶測をしてみる。

 

休肝していない時、Tは必ず新幹線の中でビールを飲むから

 

久しぶりの遠出で気持ち良くなってスマホのことなど

 

気に留めていないのかもしれない。

 

それならばそれで安心なのだけれど。

 

病気をしてから病院で処方される薬の副作用なのかTは

 

頭がぼんやりすることが多くなって時折一点を見つめ

 

じっとしている事が多かった。


「また、たそがれてる。」


そう言うと彼は我に返って笑うけれど思考が停止するのだろうか。

 

物忘れも増えてきたし、これも病気と薬の影響なのだろう。

 

もちろん年齢的な事もあるけれど認知症と言われるには

 

まだ若すぎる。

 

空が陰り出したので布団を取り込んだ。

 

物音に敏感で熟睡できないからTはいつも耳栓をして眠る。

 

個室で一人ゆっくりと休めるように、狭いけれど奥の部屋に

 

干したTの布団を積んだ。

 

午後1時をまわり2時過ぎてもいっこうに連絡がない。

 

ラインも未読のままだった。

 

時間の経過と共に考えたくない不安が募る。

 

まさか部屋で倒れているのでは、もしくは発作を起こして

 

来る途中で倒れたのではないか。

 

ガンだけでなく声帯麻痺と肺塞栓で階段を少し上っただけで

 

呼吸が荒かったから。

 

朝起きて、パソコンの下に倒れているTを目にして

 

ゾッとさせられた事も数知れない。

 

まさかこんな時に救急車沙汰なんてやめて欲しい。

 

頼むから無事でいて欲しい。

 

喧嘩して飛び出して仲直りはしたものの

 

東京へ来る日に再び倒れたりされたらもう立ち直れない。

 

もう時間は午後3時をまわろうとしていた。

 

スマホを見る。

 

今朝送った私の連絡はいまだに未読のままだった。

 

新幹線に乗っている時間を考えても長すぎる。

 

いったい何があったのだろう。

 

不安な考えが次々と脳裏をよぎり怖くなる。

 

躊躇することなく彼に電話した。

 

1回…2回…3回…コールは鳴り続ける。

 

5回…6回…7回…を過ぎたあたりから

 

心配が深まり心臓がドクドクと高まっていく。

 

10回を超えた頃、プツリと音が途絶えた。

 

まさか留守電になってしまったのだろうかと

 

口がへの字になっていく。


「もしもし」


しばらくして聞きなれたTの声が聞こえてきた。

 

もう、崩れそう。

 

無事だった。

 

それだけでどれだけ安堵したことだろうか。


事情を聞くと持っていくカメラとSDカードが

 

見当たらないらしい。

 

前日に準備してケースに入れたはずなのが

 

朝になったら無くなっていると言う。

 

朝、支度している時に確認したら無くて

 

ずっと探し回っていたらしい。

 

しかも、朝からこんな時間まで探してもみつからないとか。

 

何故そんな大事なものが消えてしまったのだろう。

 

私の想像では何かの死角になっているのではと思うけれど

 

こういう時、何故ちゃんとしておかないのだろうと

 

怒りが湧いてしまう。

 

たぶん本人はちゃんとしているつもりかもしれない。

 

ただアルコールが入っていると記憶がない場合もあるから。

 

しかもそのSDカードには編集途中のデータも入っているのに。

 

とりあえず探す場所を色々と伝えて電話を切った。

 

こんな事は一度や二度ではないから

 

今まではTの家だからと思ってキッチンや洗面所以外は

 

やたらと触れなかったけれど

 

散らかった彼の家を片付けなくてはいけないと思った。

 

私も100%完璧には無理だけれど

 

整理整頓しないと同じことが繰り返される。

 

どの部屋も、もっとシンプルにしていかないと

 

そして風通し良く過ごせる様に。

 

夜、Tから電話があった。

 

探し物は相変わらず見つからないらしい。

 

カメラは高い値段を出して買った、まがいものだった物を

 

代用すると言う。

 

カメラを買う時も相談なく買ってしまったT。

 

あの時も相談なく買ってしまった事に私は激怒した。

 

Tは相談せずどんどん進んでしまう人だから。

 

ひとこと伝えてくれれば私もアドバイスできるのに彼は

 

即、行動に出てしまう。

 

何だか、そんなTに振り回されている様で

 

感情的になってしまう自分に笑ってしまう。

 

もしくは私自身の自我が強すぎて

 

何にでも口をはさみたい性格なのかもしれない。

 

自分自身の問題ではないのに子供にうるさく口をはさむ

 

母たちの心情にも似ているのかな。

 

私は母になったことなどないけれど

 

自分にとって大切な人には心配なだけに口うるさくなってしまう。

 

若い頃はもっと人のことなど気にせずに我が道を行くような

 

ピュアでハツラツとした性格だったのに。

 

いつの頃からか家族もいないのに心配がいっぱい。

 

Tの抱える病魔が多すぎて心配は途絶えることがない。

 

もう十分すぎるほどの大人だし頭のいい彼だから

 

大丈夫と分っていても病気や薬が影響して

 

何か良からぬことが起きないかと不安になる日々。

 

病気ながらいつも私の手を引いてぐいぐいと

 

引っ張っていってくれる人なのに安心できないのは

 

病気の影があるから。

 

きっと明日、彼はひとり迷うことなく来てくれるだろう。

 

少しの期間だけだけれど

 

彼がこっちへ来て自由に過ごしてくれたら嬉しい。

 

彼にとって、ここでの日々もまんざらではない様子だから。