独りになり気付いたり思ったり | Tへ

Tへ

ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪

 

東京へ戻って数日が経過する。


長い間、Tの家で暮らしていただけに


独りで過ごす時間に不安定な心情が覆いかぶさってくる。


Tの事情も考えずに一日に何度も連絡を入れる。


すぐに返信がないと不安に陥ったり心穏やかではいられない。


本音を言うと、ここで暮らす日々は落ち着かない。


どんな時間に外へ出ても人とすれ違うような街。


眠らない街で暮らすには今の私には苦痛なのかもしれない。


一人布団に横になっても全く熟睡できずに


嫌な夢ばかり見てすぐに現実に戻る。


街だけでなく自分自身も神経を研ぎ澄ましているせいか


眠れなくて辛い。


そんな事だから体に湿疹が出てきた。


まともに食事していないせいもある。


一人になると駄目な自分を感じる。


せめて整理整頓と掃除をしようと試みる。


やる気などゼロだけれど動き出したら時間はかかったけれど


大夫、片付いてきた。


以前はきちんとしていたはずなのに、いつの頃からか


片付けられなくなっている自分がいた。


多忙な仕事の業務に追われて自分の生活リズムも


趣味も奪われてしまったから。


まるで、空き巣が入った後の様になっていた部屋を


一つ一つ片付ける。


完璧とまではいかないけれど不要な衣類を廃棄して


まともな部屋に蘇っていく。


駅も店も病院もたくさんあって便利だけれど、


部屋を片付けた所で落ち着かない。


新幹線の上り列車は嫌いだった。


でも、あの日あの時は、疲労を抱えたまま


出ていかざるおえないほどの状況だった。


最悪の病気を2度もしたら、それまでは普通に出来ていた事が


出来なくなってしまう現状。


それに対して理解出来ずにいる自分の苛立ちは


愚かなことだと思う。


本人を責めても仕方がない事なのにTの気持ちを


理解してあげられない自分が辛い。


確かに父がガンという病魔に犯された時も


私は同じような態度をとっていた。


学習できない自分に嫌気がさす。


父と彼の病気は、それまでの本人とは異なっていく。


そんな現実を受け入れられない自分のエゴイストな性格は


まるで悪魔に近いかもしれない。


だからもうこれ以上、暴言を吐いたり吐かれたりなんて


嫌だった。


なのに


ひとり自宅に戻れば情緒が不安定になるばかり。


明後日、Tが来る。


片道の切符だけでも1万5千円近くかかると言うのに。


彼にとって私の住むこの街は花の都らしい。


確かに一歩外に出ればたくさんの店が並び


好奇心旺盛になるのは当然かもしれない。


私自身は賑やかな街にうんざりしているけれど


彼が来たいと言うから待っていようと思う。


行きつけの居酒屋や新しい店でささやかなアテをつまんで


飲みたいらしいから。


私にとっては住み慣れたこの場所が


Tにとっては新鮮で楽しいし気分転換にもなるのかもしれない。


暖冬で早くも花粉が飛龍し始めている。


Tが落ち着いて一人眠れるように奥の部屋を片付けたから


少しはゆっくりと過ごせるかな。


数日だけ過ごしたら彼と再び彼の住む田舎に戻りたい。


そして穏やかに眠れる日々を取り戻したい。


わたしは、この部屋が嫌いなわけではなく


むしろ大好きだけれど


Tのいない日常は寂しい。


寛大で田舎育ちのTと過ごす楽しい時間は


何にも変え難いものだから。


この部屋へ戻り独り窓の外の景色にすら背を向けて


明るい時間からカーテンを閉めてしまう自分。


Tが来たらもういちど外の夜景を一緒に眺めて過ごしたい。


あまり長居はしたくないけれどTにとっては


好奇心あふれる街らしいから。

 

明日は細かい所を片付けて

体の大きい彼があちこちにつますいたり引っかかったりしないように

配慮しようと思う。

禁酒明けしたTのビールも冷蔵庫に補充して

キンキンに冷やしておこう。