空は繋がってる… -3ページ目

空は繋がってる…

同じ空の下、君が笑っていることを願うよ

 

 

 

「どうしても外せない用事ができた」

 

チャンミンからの誘いをユノにメールで伝えると、あっさりと断ってきた。

 

いつもの誘いではなく、日ごろのお礼としてチャンミンが食事を奢ると言ってくれているのに、ユノは申し訳ないとは思わないのだろうか。

 

「チャンミンが折角俺たちにお礼したいと言ってくれてるのに?」

 

少し腹が立ってそう返信すると「ごめんな」と一言だけの返事がきた。

 

今に始まったことではないが、ユノのメールはいつもそっけないものだ。

良く言えば男らしいのだろう、必要最低限の内容と回数しか送ってこない。

 

いつだかユノに文句を言ったことがあり、それからしばらくは頑張って文章を作っていたようだが、あっという間に元の簡潔なメールに戻った。

ジェジュンもそのうち、送ってくれるだけいいかと、あまり気にしないようになった。

 

恋人になると、お互い良くも悪くも影響を受けるし、妥協したりされたりする。

そんな風に自分が変わっていくのも、心地良いと思えるほどにはお互い大人になった。

 

弟のように可愛がってるチャンミンや、恋人の自分より優先する用事って何だろう。

帰ったら聞いてみよう、そう思った。

 

 

仕事が終わり、チャンミンと待ち合わせしている駅に向かった。

仕事や学校帰りの人たちで、駅はとても混雑している。

一日で一番活気のある時間帯だ。

 

待ち合わせまでまだ少し時間があったので、駅ビルに入った。

仕事を頑張っている可愛い後輩に、自分も何かプレゼントしようとジェジュンは思い立った。

入社して一年目なのだから、きっとまだネクタイをたくさん持っていないだろう、そう思ったジェジュンは、メンズファッション売り場へ向かった。

 

色とりどりのネクタイが並ぶ棚を見て、いつもチャンミンはどんなネクタイをしていたか考えていたその時、ふと顔を上げると、長身の男性の後姿とその横に髪の長い女性のカップルが目に飛び込んできた。

 

見覚えのある後姿は、間違いなくユノだった。

そして髪の長い女性の横顔を見て、エナだとすぐに分かった。

毎日隣の席に座る人間の横顔なんて、嫌というほど見て覚えている。

 

途端に鼓動が痛いほど早く打って、喉が詰まるような感覚になった。

 

反射的に近くの柱の陰に隠れた、が、すぐに後悔した。

 

『隠れるんじゃなくて、普通にばったり会えば良かったんだ』

 

ユノがどんな反応をするかで、きっと自分には全て解る。

今出て行って笑顔で「お疲れ様」とでも言ってやろうかとも思った。

でもユノがたじろいだり、変なことを口走ったりしてエナが変に思って余計な詮索をされるのも嫌だし、どうしたものかと柱を背にして考えていたら、いつの間にか2人は売り場の中央にある上りエスカレーターに乗ってしまっていた。

 

ジェジュンは2人の後姿を呆然としながら見送った。

 

 

 

「ジェジュンヒョン!お疲れ様です」

 

待ち合わせた店に向かうと、チャンミンが入口の横で待っていて、ジェジュンの姿を見つけると笑顔で労った。

 

この居酒屋は3人がよく通うようになった一軒だ。

おしゃれではないし、綺麗な店とも言えないが、味は良く同じように行きつけにしている人が多いのだろう、それなりに繁盛している。

 

席に着くと早速チャンミンが注文したビールが届き、ジェジュンに渡して乾杯を求めた。

 

ユノがエナと2人で買い物していたのは、きっと何か理由があるはずだ。

それとも、エナから告白されて、その気になったのか?

子供のころからずっと自分のことが好きだと言っていたユノに限ってそんなことあるはずない。

いや、子供のころからだからこそ、もう自分のことが飽きたのだろうか・・・・。

 

浮気と決めつけてはいけないが、さっきのシーンが脳裏から離れず、頭の中で再生を繰り返してしまう。

 

どうにも気分が沈んだままのジェジュンを見て、チャンミンが訝し気に小首を傾げてジェジュンの顔を覗き込んだ。

 

「ヒョン?どうしたんです?元気ないですね、お疲れですか?」

 

折角チャンミンから誘ってくれたのだから、暗い顔を見せてはいけないと努めて笑顔で答えた。

 

「なんでもないよ、なんだか感慨深くてさ。子供だったおまえが、俺に酒を奢ってくれるまで大人になったことがさ」

 

ジェジュンがそう言うと、チャンミンは照れながら『もう子供扱いは嫌ですからね』と言って笑った。

 

適当に理由を言ったが、嘘ではないだろうと自分を納得させた。

 

 

今はユノのことを忘れて、こうなったらとことん飲んでやろうと半ばやけくそになったジェジュンが、何杯目かももう分からないくらいのグラスを空にすると、チャンミンが心配そうに尋ねた。

 

「ヒョン、もうこのくらいにしておいたほうがいいんじゃないですか?けっこう飲みましたよね」

 

「まだまだ・・・・」

 

おぼつかない足取りで立ち上がってトイレに行こうとすると、ふらついて躓きそうになり、チャンミンに腕を掴まれた。

 

「大丈夫ですか?」

 

真剣な顔をするチャンミンを見た。

ユノと同じだと思った。

警備課の人間は誰かと一緒にいるとき、必ずその人を守ろうとしている。

飲みの席でも我を忘れるほど飲んだりしないし、何かがあったときのために準備しているという。

常に隣人を守れる人になれと教えられている。

 

いつだか警備課の理念をユノから聞いたことがあった。

 

『そんなかっこいい行動をする男に惚れない女なんていないだろ』

ずるいと思った。勝ち目なんてないじゃないか。

 

 

「ありがとう、大丈夫だから」

 

トイレに行って顔を洗った。

鏡に映る自分は色白な上に赤い顔で、目はとろんとしていて男らしいとは程遠い。

 

ユノのことが好きで狙っている女性社員なんて何人も、もしかしたら何十人もいるんだろうな。

ユノが本当に浮気していたら、どうしよう。

責めるのではなく、自分が静かに身を引こう、だってそのほうがユノにとっては幸せなんだ。

言い聞かせても胸が痛くなって涙が出そうになる。

 

思考を振り払って席に戻ると、すでにチャンミンが会計を済ませていた。

 

「もう帰りましょう。今夜は飲みすぎましたね」

 

「やだ、帰りたくない」

 

駄々っ子のように言うジェジュンの肩を抱いて、チャンミンが出口に促した。

 

「じゃあ、僕の家にきますか?どうせユノヒョンと喧嘩でもしたんでしょ?

いつもはうざいくらいユノヒョンの話をするのに、今夜は一度も話題に出ないので、すぐにわかりましたよ」

 

やれやれという感じでため息をついたチャンミンに謝った。

 

「家に帰りたくないなら泊まっていってもいいですから」

 

優しく言われると、さっき我慢した涙がまた出そうになった。