「なんでそんな・・・やめろよ、どうなるかわかってんのかよ!
俺たち、家族の間でも会社でも白い目で見られるぞ、そんな怖いこと・・・・」
「いや、もう決めたことだ」
ユノの決意は揺るがず、ジェジュンの制止も耳に入らないようで、いよいよジェジュンは叫びにも似た声を上げた。
「やめろよユノ!お願いだから!やめてっ!!」
ジェジュンの声を聞くと、ユノは舌打ちをしてからブレーキをかけ、車を端に寄せて停車させた。
車が完全に止まると、自分のほうに向き直ったユノの、真っすぐな視線に捕らえられた。
「みんなに知られるのが怖い?じゃあジェジュンはどうすれば怖くないの?
ちゃんと目に見える形にして、みんなに宣言したり、書面に残したりすれば安心するんじゃないのか?
それさえ怖いっていうなら、俺はどうすればいいの?
実体のあることが怖いなら、実体のないものに頼るしかないだろ。
形にはならないけど、一生おまえのそばにいたいって何度も言ってるよね。
どうすればわかってくれる?どうすれがおまえは信じてくれるんだよ」
鋭く黒く光るユノの瞳は真剣で、その眼差しを見て、ジェジュンは何も言えなくなった。
俯いたジェジュンは、ゆっくりユノを見上げ、一回深呼吸したあと言葉を続けた。
「おまえがエナと一緒にいるところを見たんだ。
相手が女性っていうだけで、もう俺は不利なんだ、勝てないんだよ。
身を引くしかないって思ってしまうんだ。
それがユノの本当の幸せなんだって・・・」
最後のほうは涙が出そうになり、声が掠れた。
「え?エナ?あー・・・・そうだったのか」
途端に緊張が解けて肩を落としたユノは、短くため息をついた後、はははっと苦笑しながら頭をぽりぽり掻いた。
「そっか、一緒に買い物してるとこ見られたのか」
じろっとユノを睨むと、なぜか安堵の表情をしている。
「あのさ、よく聞けよ。
エナはチャンミンが好きなんだって。
一週間くらい前に話しかけられたんだよ『チャンミンさんと同じ課だし、幼馴染みということで、よく知っているみたいなので、実は相談したいことがあるんです』ってね」
「え??」
ユノの話によると、実はエナはチャンミンのことが好きで、『チャンミンへのプレゼントを選びたい』から好みなどをよく知っているユノに付き合ってもらっていただけだった。
そのプレゼントを渡し、告白するつもりだったらしい。
だからメンズファッション売り場に居たのだそうだ。
食堂で話していたのは『相談したいことがある』と言われ、断ることもできず、携帯電話で連絡先を教え合っていたということらしかった。
「なんで俺に言ってくれないんだよ!」
「おまえに言って、余計な心配させたくなかったんだよ。
言ったとしても俺とエナが出かけるのを快く送り出せないだろ?
それに、エナから口止めされたてたし。
おまえはチャンミンにうっかり言いそうだから、めんどくさいから言わなかっただけだよ」
「ひどいなぁ、俺ってそんな信用されてないのかよ」
ジェジュンはそう言ってユノを責めたが、もう解っていた。
ユノは口が堅く、人の秘密は絶対に守る男だ。
恋人だからって漏らしたりはしない。
きちんとチャンミンに告白できるまで、エナの想いを守ったんだろうなって。
ユノはそういう奴だ。
だからもうこれ以上責める気にはなれなくなった。
「ごめんな、おまえを不安にさせて」
ユノは顔を近づけて、額と額をこつんとくっつけてから、ジェジュンの頭を引き寄せて胸に仕舞い込んだ。
「おまえの不安がりなところ、昔から変わってないなぁ。
女性には勝てないって言うけど、俺はおまえ以外の人間と一生を共にしたいとは思わないから。
性別なんて関係なく、ジェジュンがいいんだから」
ユノはそう言うと、精悍な顔立ちに少年のような悪戯っぽい笑みを浮かべた。
大人になっても、ふとした表情が高校生のユノのままで、ジェジュンはその度に感慨深い心地になる。
「さっきの話は脅しじゃないよ。俺はみんなに宣言したって痛くも痒くもないよ。
だから、ジェジュンの覚悟が決まったらいつでも言って」
抱き締める力を強めてそう言うユノの胸は、とても暖かく居心地がいい。
いつも甘やかされて、ほだされてしまうんだ。
「ありがとう。俺も疑ってごめん・・・・これからもよろしく、こんな俺だけど」
そう言うジェジュンの頭に、ユノは優しくキスを落とした。
「なんで断ったんだよ!」
ユノのいつになく大きな声が廊下に響き渡った。
「別に好きでもない女性と付き合うなんて、相手にも申し訳ないので断りました」
昼食が終わった後、3人で廊下に出て、チャンミンにエナとのことに探りを入れると、あっさりとそう言い放った。
それを聞いたユノは、信じられないと言わんばかりだ。
「もっと自分を好きになってくれる人を大事にしろよ。もうこんなチャンス来ないかもしれないんだぞ」
ユノの言葉に、チャンミンは鼻で笑って言い返した。
「そのままそっくりお返しします。もっとジェジュンヒョンを大切にしてくださいね」
「え?」という一瞬気まずい空気が流れた。
「そういえばおまえ、なんで知ってんだ?俺たちのこと」
ユノがそう言うと、チャンミンはジェジュンの肩をぐいっと抱き寄せ、耳元で囁いた。
「ジェジュンヒョン・・・『いつもそばにいて、いつも見てくれていて、男らしい人』なんてユノヒョンしかいませんよねぇ?」
「え?俺そんなこと言ったっけ?あ、あれ?あははは」
顔が熱くなるのを感じて、耳まで真っ赤になったジェジュンの様子を、楽しそうにチャンミンが見ていた。
「おまっ!!」
2人を交互に見ながら、ユノが焦っている。
「なんか弱みを握ったみたいで嬉しいです。あ、大丈夫ですよ、秘密にしますから。
でもユノヒョンのことが嫌になったら、僕のことも思い出してくださいね。
この間はジェジュンヒョンも満更でもなさそうでしたし」
そう言うと、じゃあ午後の仕事が始まるので失礼します、と言いながら手を挙げて警備課へ戻っていった。
ユノに追及される前にさっさと職場に戻ろうと、踵を返すジェジュンが、チャンミンの言葉にあたふたしているユノを横目で確認しながら言った。
「お、俺も戻るね。じゃあね、ユノ!」
「え?おまえら何言って・・・おい!チャンミン!待てよっ!おまえどこまで知って・・・ジェジュンが満更でもないってどういう・・・おい!ジェジュン!!」
こちらを気にしながらも、焦ってチャンミンを追いかけたユノを見て、ジェジュンは吹き出しそうになるのを必死にこらえながら、振り返って2人を見送った。
総務課へ続く廊下の途中、窓から見える空を見上げた。
青い空にゆっくりと雲が流れている。
いつの日か家族や周りにユノとのことを告げる日が来るかもしれない。
今は怖くても、無理でも、いつの日か・・・・。
2人ならきっと怖くない。ユノは何があっても自分を裏切らない、そう思える日が来るはずだとジェジュンは思った。