自分の愛する人が、浮気してたら――――チャンミンは何と言うのだろう?
「もし迷ってるようだったら、全力で引き留めます。
僕には君しかいない。君のいない人生なんて考えられないから僕のところに帰って来てほしい、と言います」
冷蔵庫から取り出したビールを注いだグラスをぐいっと一口飲むと、はっきりとした口調で迷いもなくそう告げられて、後輩の意外な男らしい一面を見た気がした。
手の甲でぐいっと口元を拭ったあと、真剣な双眸に見つめられて、ドキッと胸が鳴る。
「だってそうでしょ?この人しかいないと決めたくらい好きな人なんですよね?
他の人を愛せるならとっくにそうしてますよね?」
ジェジュンの空いたグラスにチャンミンがビールを注いた。
なんとなく手持無沙汰な気持ちをごまかすように、グラスを持ち上げて口に運ぶ。
「かっこいいこと言うね。そんなこと言われたら、女性なら誰でもおまえのことを好きになるだろうし、浮気なんてしないだろうね」
「そうですか?ヒョンが僕に惚れてもいいんですよ?」
「な、なに言って・・・・」
ふふっと嬉しそうに微笑んだチャンミンの視線に、たじろいだジェジュンはごまかすようにグラスを空にすべくビールを喉に流し込んだ。
聞いたこちらが恥ずかしくなってしまうくらい真っすぐな思いを持ったチャンミンは、きっと浮気なんてしないのだろう。
「どうしたんですか?まさかユノヒョンに、好きな人を取られたわけじゃないですよね?」
「ち、違う違う、そんなんじゃないんだ」
好きな人をユノに取られたんじゃなくて、好きな人であるユノを取られ・・・・いや、まだ決まったわけじゃないか・・・心の中で自分に突っ込みを入れた。
「ジェジュンヒョンって付き合ってる人いるんですか?」
チャンミンがした質問は今まで何度もされたことのあるもので、いつもなら「いない」と言っているが、その時はアルコールがだいぶ回っていて、つい肯定の返事をしてしまった。
「いるよ」
「・・・そうなんですか、どんな人なんです?」
飲み屋からだいぶ飲みすぎていたが、追加で更に飲んだせいで、身体と頭がふわふわする。
「んー、どんな人・・・かなぁ・・・いつもそばにいて、いつも俺を見ていて・・・男らしくて・・・・」
徐々に意識が途切れ途切れになる。
眠くなり重たくなる頭に手をやり支えていると、そのままテーブルに突っ伏して寝てしまいそうだった。
チャンミンが一瞬目を丸くして驚いた顔をしていたことに、この時は眠くて気付かなかった。
そのままチャンミンに促され、ソファに横になった。
「起きろ、家に帰るぞ」
夢の中でユノの声がして、頬をペシペシと軽く叩かれた。
徐々に意識が戻り、うっすら目を開けると、視界にユノの顔があって驚いた。
「あれ?ユノ?・・・ここどこだっけ?」
ぼーっとする頭でゆっくり思い出す。
そういえば、チャンミンの家で飲んで、そのまま眠ってしまったんだ。
でも、なんでユノがここにいるのだろう?
不思議そうな顔をしていたのか、ユノに頬をつねられる。
「チャンミンの家だよ。おまえチャンミンと飲んでたんだろ。ほら、もう家に帰るぞ」
ユノの首に腕を回され、立ち上がらせてもらい、ふらつく足で、腰を支えられながら歩く。
チャンミンの家を出ると、冷たい空気が頬を掠めた。
新鮮な空気を吸い込んで熱い息を吐くと、幾らか酔いが醒めるようだった。
ユノに車の助手席に押し込まれる。
エンジンをかけ、ハンドルを握るユノの横顔は少し怒っているようだ。
数時間前にエナといる所を見て、自分がショックを受けたことを思い出し、怒るのは自分のほうだと思った。
「チャンミンから電話が来たんだ」
ピリッとした声で話すユノは、やっぱり何か気に入らないようだった。
『僕は一時間ほど出てきますから、ジェジュンヒョンを引き取りに来てください。
それから、2人でよく話し合ってください。痴話喧嘩に巻き込まれるのはごめんです』だってさ、と語るユノの口から『痴話喧嘩』という単語が出て、ドキッと胸が鳴る。
「え?痴話喧嘩って・・・・あいつ俺とユノのこと知って・・・」
「俺が聞きたい。おまえが言ったのか?」
「言ってない・・・・と・・思う」
自信が無かった。
酔って意識が無い部分もあって、もしかしたらユノの愚痴を言った時に「付き合ってる」ようなことをカミングアウトしてしまったのだろうか。
さーっと酔いが醒めていくのを感じた。
「ま、俺は誰にバレてもいいけどね」
ユノがジェジュンを見て、ニヤリと笑った。
「それより、俺たち喧嘩なんてしてたのか?」と不思議そうにユノが尋ねた。
「・・・・別に、俺が怒ってるだけ」
「は?なんでだよ?」
ユノはジェジュンのほうに勢いよく顔を向けて、手を掴んだ。
「ユノ、危ないから前向いて!」
ジェジュンの懇願に、向き直ってハンドルを握り直すと、もう一度「なんで怒ってるんだよ」と呟くように尋ねた。
「いつも思ってたんだ。ユノが俺を好きなのは、自分のことをよく知った幼馴染みと一緒にいるのが楽だからだろ」
エナと同時進行したいなら、もう俺はいいから。俺は身を引くから。
エナのことは何も言わないユノに対して、イライラが募り、思考が投げやりになる。
「またその話か」
「またって!俺はいつも不安なんだよ?俺でいいのかなっていつも思ってるんだ。
今はまだ若いからいいかもしれないけど、この先ずっとなんて、本当にうまくいくと思う?
親に早く孫を見せてほしいって言われたら、ユノはなんて言うつもり?」
うんざりといったユノに、声を荒げてしまう。
しばらく沈黙していたユノが、車のアクセルをいきなり踏み込み、ハンドルをきって急カーブした。
家とは違う方法の道を曲がり、そのままアクセルを踏み続けるとスピードがどんどん上がっていく。
ユノが何を考えているのか分からないジェジュンは、少し怖くなり慌ててハンドルを握るユノの左手を掴んだ。
「おいっ!ユノ、どこに行くんだよ。うちはそっちじゃないだろ!」
「これからおまえの実家に行くぞ」
「は?なに言って・・・」
「社長のところに行って挨拶しよう、『息子さんを下さい』って。
そのあと俺の実家に行って、両親に俺たちが付き合ってることを言う」
突然なにを言い出すのかと思ったら、思い詰めたようなユノの言葉に、ジェジュンは焦った。
背中にぶわっと変な汗が噴き出て、鼓動が早くなり、指も足も震え出した。